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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 48-9

 あれからまた3時間。

 ニケはメイディアと波長を合わせることに成功していた。

 ニケの中に様々な情報が流れ込んでくる。

 例えるなら、上流の冷たく透き通った川の水に似ていた。

 つかもうとしてもつかむ間もなくどんどん後ろに流されていってしまう。

 多感な時期の少女にある期待や悩み、喜びや悲しみが年老いた魔術師の頬をなでて通り過ぎてゆく。

 

ニケ「求めるのは、このような情報ではない。まだずっと奥だ」

 

 そう思った瞬間に足元が砂となって崩れ始めた。

 彼の考えに世界の形が応えたのだ。

 水は砂になり、蟻地獄に捕らわれた老体をゆっくりと飲み込む。

 普通ならば、あわてるところだがニケは落ち着いていた。

 “ここ”では何が起ころうと急激な感情の変化は禁物なのだ。


▽つづきはこちら

 現実にないことがいくら起きたとしても、冷静に受け止められる屈強な精神力がなくてはこの魔法は成立しない。

 砂の中に引き込まれながら、ニケはまず、第一関門を突破したのだと確信した。

 自分の存在は今のところ受け入れられている。

 高い率で融合に成功しており、異物だと気づかれてはいない。

 砂から下へ落ちてゆくと、いくつかの空間に出会った。

 彼女の身の上に最近起きたことやそれについて発した感情が詰め込まれた空間だ。

 求めるのはこれよりさらに奥である。

 メイディアから見た、メイディアの知る人物たちが勝手に動き回る間を唯一、自分の意思をもったニケは歩いて回った。

 実物よりも麗しく優しい姿をした友人たちであったり、逆に驚くほど醜くされた人間もいる。

 これがメイディアの中の人物像なのかと感心しながら、進む。

 明るい空の下に可愛らしくディフォルメされた家々がならぶ町並み。

 けれど窓ガラスはひび割れていて、気味の悪い魔物が時折、顔を覗かせている。

 唐突に下り階段を見つけて、ニケは迷わず下りた。

 螺旋状に続く。続く。

 下る、下る。

 回る、回る。

 下っていたつもりがいつの間にか上がっている。

 かと思えば、逆さまなのに歩いていたり。

 不思議な世界である。

 螺旋階段の周囲にはただ闇。

 下を覗いても吸い込まれると錯覚を起こしそうな闇がどこまでも広がっている以外に何も見えない。

 上を向いたが、もう入って来た初めの入り口は消えてなくなっていた。

 けれどここで恐れてはいけない。

 無心を保たなければ。

 

ニケ「まずは魔力を抑えている原因を見つけて扉を開けないと」

 

 無意識に口に出した途端、闇の中にいくつもの扉が現れた。

 扉というキーワードによってメイディアが連想したのである。

 深淵の奥に浮かんだ扉は開けっ放しのもの、閉まってはいるが鍵がかかっていないもの、そして厳重に錠が下りているものと様々だ。

 螺旋階段から闇に踏み出しても落ちないことを確認して、片っ端から浮いた扉を確認していく。

 彼女の秘めておきたい恋や両親の愛を渇望する想い。

そんな誰にでもある平凡な気持ちなどにニケが興味を引かれることはない。

 恋も愛も孤独すら、遠い昔に置いてきた老人はさしたる感慨もなく彼女のありがちで瑞々しい16歳の心を通り過ぎて行った。

 冷たいようだが、こうでなくてはこの魔法を操れないのである。

 例え他人に無関心でも、自分に強すぎる関心を持つレヴィアスではできない。

 生徒たちからは無関心と思われているようだが、実際にはそうではない氷鎖女でもできない。

 もっとずっと鈍感で無感情、無感動であることが大切なのだ。

 被験者の中に入ってから、どのくらいが経ったのか。

 本当の時間にすれば長くはかかっていないはずだが、ニケには途方もなく感じられていた。

 気が遠くなるほどの量のドアを開け放って、とうとう錠の下りた扉だけがいくつか残った。

 中でも一番気になるのは、古い鉄製の扉の隙間から血が流れ出ているものだ。

 大きな錠前だけでなく、さらに厳重に鎖までかかっている。

 

ニケ「まるで猛獣でも閉じ込めてあるみたいじゃな」

 

 つぶやいたとき、背後から声をかけられた。

 ここにおいて自分が意識されるとは思ってもみなかったニケがわずかに驚いたが、すぐにそれも抑え込んで振り返った。

 声をかけてきたのは小汚いうさぎのぬいぐるみだった。

 メイディアが大事にしているキース君である。

 

キース「おじいさまは誰?」

ニケ「そういう君は?」

 

 名を名乗らずに相手に質問をかぶせる。

 

キース「僕はメイディの一番のお友達のキース君だよ。だよだよ」

 

 可愛くポーズをとりながらキースと名乗ったぬいぐるみは素直に答えた。

 

ニケ「そうか。じゃあキース君、この扉の中身は知っているかい?」

キース「忘れちゃった」

ニケ「知っているけど、忘れちゃったんだね」

 

 少し、訂正を加えて取っ掛かりを作ろうと試みる。

 このぬいぐるみは心の扉を守るために作られたガーディアンに違いないと直感したのだ。

 そしてぬいぐるみはメイディアの一部が演じているはずだった。

 この世界には、彼女以外に意志をもった登場人物はいないハズなのだから。

 彼?は全てを知っていて、忘れるために、あるいは記憶を掘り起こさせないために扉の鍵を管理しているキーマンでもある。

 そんな“キース君”を味方につければ、道先案内人になってもらえる。

 ニケはメイディアを装って、キース君に話しかけた。

 装うといっても物まねをするわけではなく、彼女の口から聞いていた知り得る情報を会話に加えるだけであるが。

 それと彼女しか知らないはずの情報とを。

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