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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 48-10

ニケ「先生に会いにきたんだ。彼はどこにいるのかな」

キース「先生ってだぁれ? レヴィアス先生ならここにはいないよ」

ニケ「違うよ。ヨーゼフ先生さ」

キース「……………」

 

 キースは一瞬、沈黙を挟んでからその名を繰り返した。

 

キース「ヨーゼフ先生?」

ニケ「そうだよ。ミスター・ヨーゼフ。とってもステキな先生だ。違うかい?」

キース「うん。メイは彼がとっても大好き!」

 

 感情を体いっぱいで表して、ぬいぐるみは可愛くポーズをとった。

 ちょうど見世物小屋で見られる人形劇のようにオーバーアクションだ。

 

ニケ「大好きな彼はどこだろう? 会いたいんだけど、キース君は知っているかな?」

キース「知っているよ。けど……」

ニケ「忘れてなんていないよねぇ?」

キース「忘れないよ。けど、先生はもういないんだ」

ニケ「どうして?」

キース「………」

ニケ「この扉の向こうにいっちゃったから?」

キース「ううん。その扉は違うよ」


▽つづきはこちら

ニケ「じゃあ、先生はどこだろう?」

キース「どうしてそんなに先生のところに行きたいの?」

ニケ「会いたいんだよ。どうしても」

キース「でも先生はいないよ」

ニケ「どうして?」

キース「だって、メイディがいなくしちゃったから」

ニケ『いなくしちゃった?』

 

 嫌な予感がした。

 けれど努めて冷静さを保ち、語りかけ続ける。

 

ニケ「そうだったっけ、忘れてしまったよ」

キース「仕方がないな、メイは。すぐ忘れちゃうんだ。先生は鳥と同じで犬と同じで、女の子と同じでいなくなっちゃったのに。いなくいなくいなくなっちゃったのに」

ニケ「……キース君、わかるなら教えてくれない?」

キース「先生はさぁ、ここさ。メイディ」

 

 キース君はいつのまにか持っていた小さな宝箱を開けてみせた。

 中には羽をむしられた鳥の死骸が無理やり詰め込まれていた。

 

ニケ「これは……先生じゃないね?」

キース「これは犬だよ」

ニケ「違うよ、それは鳥だ」

キース「そうだ、犬に食べられた鳥」

 

 羽をむしられた鳥の死体がひょっこり起き上がって箱から飛び出し、首から血を流した犬に変化してどこかへ歩いて姿を消した。

 キースは宝箱を閉じた。

 

キース「メイディがいけないんだよ。でも鳥も良くなかったの。だって鳥は自由に飛んで行けるからね。だから、犬にあげたけど、犬が鳥を殺したから、メイディが犬を殺した。メイディは悪くないね」

 

 ぬいぐるみはよくわからない理屈を並べ立てる。

 けれど逆らわずにニケはいちいちうなずいて見せた。

 

ニケ「……そうだね」

キース「本当にそう思うのかい?」

ニケ「いいや、思わないよ」

 

 試されていると感じ、今度は首を横に振った。

 それが正解だったのかどうか。

 宝箱の蓋の隙間から、血があふれ出した。

 

キース「本当に忘れてしまったの、メイディ。先生はここだよ」

 

 蓋が開かれた。

 鳥が詰め込まれていた箱は、鳥がいなくなって空のはずだったのに。

 赤い液体に浸されたそれは、人間の生首だった。

 小さな箱に小さな頭が入っている。

 

ニケ「……!」

キース「先生は悪いことをしたから、仕方がないんだ。メイディは悪くないよ」

 

 どこからともなくオルゴールがメロディを奏でる。

 気が付けば、キースの後ろに巨大化したあのギロチン人形が回っていた。

 くるくる、くるくる。

 上空にニケを中心として円を描いて吊るされた首吊り死体もくるくると回った。

 鍵のない扉が開いて閉じて歌い始める。

 

パンを盗んだ、ジョン=カーター、ジョン=カーター。首がなければパンはいらなくなるぞ。

犬を殺した、ジョン=カーター、ジョン=カーター。犬の体に首をすげかえてやるぞ。

秘密を漏らした、ジョン=カーター、ジョン=カーター。首がなければ、とんだおしゃべりしなくてすむぞ。

 

ニケ「う、わ」

 

 心の波を立てずに進んだニケもこれにはさすがに面食らった。

 なんと。

 家庭教師を殺したのは、この夢を信じるならばメイディアということになる。

 世間を騒がせた3年…いや、4年前のあの猟奇的連続殺人事件は当時12歳の少女だった!?

 

ニケ「……いや待て。決めつけるのは早い。12歳でできるか? 一人ずつならひょっとしたら、油断を楯にできたかもしれないが、一家殺害などを実行するとなるとそうはいくまい。しかし教師が死んだのを何らかの理由で自分のせいだと思い込んでいたなら……?」

 

 それならつじつまが合う。

 自分のせいだと思い込んでいただけ。

 12歳の少女ならその程度が妥当だろう。

 ニケはこう考えをまとめた。

音楽に合わせて、扉は歌う。

 錠もガチャガチャと忙しい音を立てて、調子を合わせだす。

 そして、弾け飛んだ。

 鍵の開いたドアを覗こうとしたその横で、鎖が断ち切れる破裂音。

 あわてて顔を向けると、例の、一番頑丈な鉄扉が開かれようとしていた。

 

ニケ「…………」 息を呑む。

 

 ぎ、ぎ、ぎ。

 ぎぃぃ。

 重苦しい音をきしませながら。

 ゆっくりと。

 それは口を開け………

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