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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 48-7

 約束の期日まで1週間。

 危機迫る様子のメイディアを友人たちがこぞって心配の言葉をかけたが、本人は向きもしなかった。

 痩せ衰え、以前のはつらつとした魅力は損なわれて、代わりにギラギラとした鋭利な刃物を思わせる瞳が光っていた。

 

メイディア『もうすぐだわ。もうすぐ……魔法が撃てる! ワタクシにはわかる、力が蘇って来る。ワタクシはこのままで終わらない。終わってなるものですか』

 

 ニケの持ちかけた実験に考える暇もなく彼女は首を縦に振っていた。

 魔力が戻るならば、どんなことでもするつもりでいた。

 ただ逃げ込んだ先の養成所でどうしてこんなに頑張る必要があるのかと言えば、首をかしげてしまう。

 けれど、彼女の持ち前の意地は彼女を休ませようとはしなかった。

 何かに追い立てられるように真夜中まで呪文を唱え続ける。

 日中の授業にも手を抜かない。

 薬師ミハイルの作ってくれた滋養薬を片手に日々、精神と魂を削って訓練に明け暮れた。


▽つづきはこちら

 

クレス「よくやるよ」

 

 呆れてクレスが肩をすくめる。

 

カイル「目の回り、真っ黒だったぜ。クマクマ。髪もバッサリ切っちゃって……ブッサイクになったよなー」

 

 続いてカイルが悪態をつく。

 

リク「どうしてああまでできるんだろうね」

 

 机にひじをついた格好で、だらしなくリクがつぶやいた。

 

リク「俺も近頃、負けるの嫌だなって感覚がようやく芽生えて来たところだったんだけど……」

カイル「……お前、嫌みなヤツだな。いちいち」

リク「あそこまで必死にはならないなって思う」

クレス「どこにもいないよ、あんなにガリガリに痩せてまで訓練してる奴。ああなっちゃったら、逆効果だからな」

リク「だよね」

カイル「止めるつもりないのかな、シズカちゃん」

リク「先生は………どうだろう。何を考えているのか、さっぱりつかめないからなぁ」

クレス「冷たいんだよ。どーせ何も考えちゃいないのさ、俺たちのことなんて」

リク「そうかな。そんなことはないと思うけど……」

 

 とは言ったものの、レヴィアスのところに移籍の話が出たときには、ほとんど関心を示してくれていなかったような気がしてならない。

 レクはそんなことはないと言ってくれていたけど。

 

クレス「そうだよ。試験だって熱心に見てる様子全然なかったじゃん」

カイル「不服なのか」

クレス「べっつにー!」

 

 開始合図の鐘が鳴らされ、教官が入ってくるとそれまでおしゃべりに興じていた生徒達も口をつぐんだ。

 入ってきた教官は黒板に「自習」とそっけなく書くとまた出て行ってしまう。

 

クレス「何かあったのかな?」

リク「さぁ」

 

 目を横にずらせば、珍しく、隣の彼女の指定席が空席のままだった。

 また倒れたのかと思い、リクは小さくため息をついた。

 

 

 そのメイディア。

 横たわってはいたが、場所は医務室ではなかった。

 普段は使用されない地下の特別魔導室の床に描かれた複雑な紋様の魔法陣の中にいたのだ。

 ニケを含め、13人の高等白魔術師が一定の距離を保って円を囲い、立ち並んでいる。

 離れたところにもう12人が控えていた。

 この24人の白魔術師たちは、ニケの招集で集められた白薔薇騎士団高位の者たちである。

 

ニケ「これより、彼女の深層精神に接触を試みる」

 

 薄暗い室内を蝋燭の明かりが頼りなく照らす。

 石作りの内部は壁に天井にぎっしりと古代文字が書かれている。

 使用用途がめったにないこの部屋の空気は、淀んでカビと湿気の匂いが充満していた。

 壁沿いには養成所の教官魔術師がズラリと勢揃い。

 今まで試みたことのない大魔法を12賢者のニケが試そうとしているのだ。

 立ち会わないわけにはいかないと、全校の教官たちが授業を放って馳せ参じたのである。

 その中に被験者を受け持つ教官・氷鎖女もいる。

 

氷鎖女『よくもまぁ、人様に自分の心内を探らせるまねを許すものだ』

 

 氷鎖女は迷いなく契約書にサインした女生徒の無鉄砲に舌を巻いていた。

 自分だったら、絶対に、何があろうとも立ち入らせはしない。

 この実験に賛成ではなかった彼は、年頃の乙女だ、知られて困ることもあろうと説得にかかったが、彼女はすでに恥はかき通して外にさらしてきたから今更どういうこともないと言い切った。

 

氷鎖女『本人が言うならそれもいいが……』

 

 魔法が失敗すれば、精神崩壊もありうる。

 眠りの魔法にかかったまま、永遠に目覚めないかしれない。

 そのための契約書だが、これを知れば両親はどんな顔をするだろうか。

 

氷鎖女『それにニケ殿もニケ殿だ』

 

 この魔法は一人の精神にもう一人が波長を合わせて、合体するのだ。

 別々の人間が魂を共有するのは、非常に危うい行為である。

 肉体という鎧がない部分にもぐりこむ過程で、どちらかがどちらかに影響を与え、取り込まれてしまう危険性もある。

 そんな危ない橋をニケは自ら渡ろうというのだ。

 確かに精神的に成熟し、技術も他者をはるかに凌駕した大魔法使いニケ=アルカイックの他に適任者はいないかもしれない。

 だが、彼は国の命運をも左右する力を持つ、12賢者という柱の一人なのだ。

 たかが生徒一人のために大事な身に何かあってはならないのである。絶対に。

 

白薔薇騎士「ニケ様、そのお役目は私共の誰かにお与え下さいますよう」

ニケ「いいや。ワシが試してみたいのじゃ。今まで誰もなし得なかった精神世界への旅、是非とも我が手で成し得たい。年寄りのワガママ、聞いてくれ」

白薔薇騎士「……ははっ」

     「では我らはニケ様が無事に戻れますよう、万全に万全をきっして全総力をこの魔法式に傾けさせていただきます」

ニケ「頼んだぞ」

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