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レイディ・メイディ 48-6
2008.07.07 |Category …レイメイ 46-48話
赤は血の赤。
女の子の首。
これは恐らく、事件の被害者。
彼女はその犯人を目撃しており、口止めをされている。
ニケ「あとは、広場に一列に並んだてるてる坊主なんだけど」
氷鎖女「てるてる坊主……」
ニケ「例の家庭教師があの人たちは嘘をついたから、悪いことをしたから当然だと言ったらしい」
氷鎖女「その……広場に一列に並んだてるてる坊主とやらは、首吊り処刑なのでは?」
ニケ「やっぱりそう思う? このオルゴール見てね、ピンときたんだ」
氷鎖女「野獣のようなワガママ小娘を教育するために、処刑を見せてこの玩具を買い与えた?」
ニケ「そこまでつなげていいものかどうかわからないけど。でもやっぱりそう思うよね」
氷鎖女「実際にゴールデンは悪いことをしたら罰が下ると恐れておるようだし、この教師になってからおとなしくなったというのも……」
ニケ「彼の功績といえば功績だけど、彼女はすっかりトラウマになっちゃってる」
オルゴールが止まった。
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ニケ「処刑場とこのオルゴールとそれから殺人事件の現場なんかを昔に見ていて、常に恐れていたわけ。それで敵を殺したときにそれがフラッシュバックして、今回のスランプ……かな?」
氷鎖女「それが直接の原因かはわかりかねますが、だとしたら、どうやって……」
ニケ「うーん。そこだよね。彼女が悪いことをしたんじゃないよって教えてあげて過去としっかり向き合わせること。あとは自信を持たせてあげること。最初のスランプは負けを認めてしまったからだって本人が言ってたくらいだし。そのくらいしか今のところ、手立てはないなぁ」
氷鎖女「向き合って簡単に治るくらいなら、苦労はありませぬが。それでもなんとかせねばなりますまいなぁ」
ニケ「まぁ、ね」
氷鎖女「口止めしたのが、その教師ということはございますまいな?」
ニケ「……こだわるなぁ。教師も殺されているから、それはないんじゃない?」
氷鎖女「……そうでござった」
ニケ「必死だね、ヒサメ」
考え込む氷鎖女にそう、ニケが声をかけた。
氷鎖女「は?」
ニケ「意外だったよ。君がこんなに干渉してくるなんて。去るもの追わずで放っておくかと思ったのに」
氷鎖女「アゴと反りが合わぬので、ちょっと対抗してやろうかと」
額当てを直すしぐさ。
ニケ「こらこら、そこは生徒のためとか言う場面じゃないの?」
氷鎖女「まさか。なにゆえ、ゴールデンなどのために」 鼻先で笑う。
「ニケ殿こそ、ようこうまで時間を割いて協力して下さる」
ニケ「それはそうだよ。この養成所の生徒たちには、国家予算がかかっているんだからね。費用と時間をかけてせっかくここまで育てたものを使い捨てしたら、もったいないじゃないか。できるだけ残って正騎士になってもらわなくちゃね。姫をお守りするためにも」
氷鎖女『……姫』
ニケ「それにさ、これは実験でもあるんだよ。魔力消失した人間を元に戻せるのかっていうね。成功したら、他にも利用できるじゃん」
氷鎖女「なるほど、道理でござる」
ニケ「今度、メイディアさえ承諾してくれたら、白魔術実験の被験者になってもらおうかと思っているんだけど」
氷鎖女「どのような?」
ニケ「眠りの魔法だよ」
ティーカップを手に取り、中身がすでになくなっていると気づいて、受け皿に戻す。
氷鎖女「眠らせて、どうなさる」
ニケ「深層深く眠っている心に触れる」
氷鎖女「それは……」
驚いたような反応を示して、小さく息を呑んだ。
眠りの魔法自体は、白魔法の中でも難しくはない。
むしろ、手術や耐え切れない痛みから救うために頻繁に使用されるポピュラーな魔法である。
ただ、相手の精神をさぐる魔法を併せるとなれば話は別だ。
成功率の高くない、危険な魔法に変わってしまう。
ニケ「わかってるよ、失敗したら被験者の精神に悪影響を及ぼすことになるかもしれない。下手したら、眠ったまま二度と目を覚まさなくなるかもしれない。だから、そこはちゃんと重ねて十分な説明はするから。無理強いなんかしないし」
氷鎖女「あの者、前しか見えない未熟者ゆえ、魔力を戻すためならばとどのような内容であっても、うなずいてしまいまする」
ニケ「だからさ、ちゃんと説明するって。危険性のこともね」
氷鎖女「……………」
ニケ「そんな顔しないでよ。言ったじゃないか。善意だけで協力してるんじゃない。こちらにメリットがあるから後ろ盾になってやっているんだ」
簡単な問題であるかのごとく、軽く口にする。
それから、にっこりと幼い笑みを浮かべて、
ニケ「そこのところ、カンチガイしないでよね。………のぅ、若造」
自分の正体を知っている青年に、ほんの少しの圧力をかけた。
まだ年若い青年はそれを受けてしばらく黙っていたが、やがて了解の意を示すとソファーから立ち上がった。
ニケ「ふふっ。よかったよ、ヒサメが力関係を理解できる子で」
氷鎖女「……狡くて怖いお方」
黒い袖で口元を隠し、額当ての下から幼い少年の姿をした老獪な魔術師を盗み見る。
ニケ「賢い子は好きだよ?」
目を細める。
氷鎖女「……失礼つかまつる」
ニケ「大丈夫だよ。悪いようにはしないから」
出て行く背中に最後の言葉を投げかけた。