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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 48-4

 面接を続けて2週間。

 妄想と現実の区別が曖昧な、とぎれとぎれの情報から少しずつではあるが、彼女が一人で抱えている荷物が紐解かれようとしていた。

 始めはニケが提示する答えを選ぶだけだった彼女も日が経つにつれて、徐々に自分から思い出したことを報告しにくるようになる。

 肝心の魔法訓練の方も、だいぶ魔力が体を通って外へ導き出される感覚を思い出してきたようだ。

 始めに心配していたよりもずっと順調である。

 

氷鎖女「質の違う魔力が体を通っておる、負担になっておろう。特に拙者の魔力は人体にはあまり……そろそろやめにせぬと……」

 

 毎日、夜遅くまで訓練を続けようとするメイディアを氷鎖女が止めた。

 

メイディア「申し訳ございません、先生がお疲れですね」

氷鎖女「拙者は何事もない。しかしそちらが……」

 


▽つづきはこちら

 たった2週間で頬骨が目立つほど痩せて、げっそりと目が落ち窪んでいる。

 毎月滞りなくきていた月経も、体調不良のために止まってしまった。

 他人の魔力を吸い上げて魔法を撃つ。

 これはだいぶ乱暴なやり方で、精神的・肉体的負担を伴う。

 本来の持つべき力でないものを体内に取り入れるのだから、当然である。

 魔力受け入れ容量が広い。

魔力の質が近い。

あるいは自らが耐えうる分量を調整して吸い上げる技術があるならば、負担はさほどないが、この二人では質も格も違い過ぎた。

 

氷鎖女「悪いことは言わぬ。レヴィアス殿の指輪を使いなされ」

メイディア「いいえ。だって指輪は、指輪がワタクシの魔力を増幅させる役割を果たすのであって、魔力がワタクシに流れ込んでくるのではないでしょう?」

氷鎖女「しかし、魔法を撃つ感覚さえ思い出させれば、それでよいではござらんか」

メイディア「眠った魔力を起こすには、刺激が必要とおっしゃったのは先生ですわ」

氷鎖女「もう充分だ。あとはコツコツと少しずつ……」

メイディア「それでは間に合いません!」

氷鎖女「……強情でござるなぁ」

 

 大きぎる氷鎖女の魔力に彼女の体は悲鳴を上げていた。

 だが、こうして多量の魔力を通すことで耐性がつき、幅が広がることもある。

 それを期待してメイディアはこの訓練にこだわっていた。

 レヴィアスから借りた指輪では足りない。

短期間で復帰するにはもっと大きな魔力が必要なのだ。

 一方、この方法を提案した氷鎖女としては、初期だけこの訓練を続けさせ感覚を少し覚えさせたところで、あとは別のメニューをと考えていた。

 自分でも口にしたように、氷鎖女の魔力の質は特殊。

 大きな声では言えないが、実のところ、負の魔物に近い性質を持っているのである。

 

氷鎖女『このまま続けていると体を壊すどころか精神を破滅に追いやりかねない。下手をすると魔物化する恐れが……いや、そこまでさせるつもりはないが……』

  「そろそろ、魔力を自分で練って放出する訓練に切り替えるでござるよ、な?」

メイディア「ですが、何かもう少しでつかめそうなのです。お願いします、もうしばらくお付き合い下さい! お願いします、この通り!」

氷鎖女「……ハァ」

 

 頭を下げられて、仕方なく折れる。

 本当に後少しだと言い聞かせて。

 

氷鎖女「こちらの魔力も調整させてもらうでござるぞ」

メイディア「構いません」

 

 翌日、心配的中。

 メイディアは授業中に倒れて医務室に運ばれてしまった。

 

ミハイル「過労だな」

 

 椅子の背もたれに体重をかけて、呆れたようにミハイルが言った。

 

氷鎖女「やっぱり」

ミハイル「やっぱりじゃねーだろ。いくら何でも無茶させすぎだ。2週間でこの体重の減りようはちと異常だぞ? そうでなくとも魔法は体に負担をかけるんだ。少しは考えてやれ」

氷鎖女「いやしかし、あと2週間もきっておるのでな。多少のことは……」

ミハイル「多少じゃないっての。お前の教官としての面子もあるだろうが、あきらめさせるのも彼女のためかもしれないぞ」

氷鎖女「いや、アレは魔法が使えるのでござる」

ミハイル「使えても。これじゃしょうがないだろ」

氷鎖女「2週間の我慢」

ミハイル「あ~あ。何を熱血してんだか。言っても無駄なら僕は知らないからな。食欲はないかもしれないが、食べる物はちゃんと食べておけと注意しとけ」

氷鎖女「はぁい」

   『やはり……無理であったか』

 

 授業中断してきた氷鎖女が戻り、医務室には泥のように眠るメイディアと保健医ミハイルだけとなった。

 静かに時計の針だけが音を刻んでいる。

 3時間も経った頃だろうか、ベッドの方から女生徒の呼ぶ声がした。

 

メイディア「先生、先生?」

ミハイル「どうした?」

 

 立ち上がって、ベッドを囲むカーテンを開く。

 

ミハイル「気分でも悪いのか?」

メイディア「ワタクシ……」

ミハイル「倒れたんだ。訓練もいいが、ホドホドにしておけ」

メイディア「先生あの……」

 

 弱々しくなった目を向ける。

 

ミハイル「うん?」

メイディア「女の子が……お母様が毒の食事を彼女に……」

ミハイル「……はぁ? 女の子?」

メイディア「彼女はそれをわかってて……でも、口にしてしまうの」

ミハイル「夢か」

メイディア「お母様が珍しく笑いかけてくれるから……女の子は……食べないと笑ってもらえない、食べたらそのまま微笑んでいてくれると思ったの」

ミハイル「……オイオイ、何を寝ぼけてんだ」

メイディア「………あの女の子は、誰?」

ミハイル「知らねーよ」

メイディア「異国の服………ヒサメ先生とか……リクみたいな……。先生、解毒剤を……彼女に」

ミハイル「夢だ、夢。俺にどうしろっていうんだ。夢の住人にまで薬を届けられるかっての。いいか。今、異国の女の子じゃなくて、バカな熱血訓練してぶっ倒れたお前さんの薬を調合してやる。それを飲んだらもう一眠りして、飯でも食ってこい。その後、今日は訓練禁止! わかったな?」

メイディア「そっ、それは困ります」

ミハイル「ヒサメに頼んでも無駄だぞ。アイツにもキツく言ってあるからな」

メイディア「ミハイル先生のイジワル! ロクデナシ! 赤アフロ!!」

ミハイル「誰が赤アフロだ」

 

 薬剤知識を教えている生徒クレスが時々、調合を失敗して爆発を起こし、巻き込まれたミハイルがアフロヘアーになっていることがある。

 赤い髪のアフロヘアはなかなか見ごたえがあって、生徒達に大人気だ。

……別の意味で。

 

メイディア「もうミハイル先生のことなんか、金輪際、ミハイル先生なんて呼びません! 赤アフロです! 赤アフロで十分です!!」

ミハイル「いい加減にしろよ、このクソガキ。お前なんかゴールデン巻きグソだろ。ネタは割れてんだぞ」

メイディア「違いますわ! もうそのゴールデン巻……ナントカと表現される髪はありませんもの。でも貴方は赤アフロです」

ミハイル「俺だって今はアフロじゃないわ! 一昨日で第94回アフロは卒業だ」

 

 どうやら彼は94回、クレスによってアフロにされているらしい。

 

メイディア「赤アフロー、赤アフロー」

ミハイル「るっさい」

 

 軽く病人の額にゲンコツをくれてやる。

 学生はすぐに教官たちに変なあだ名をつけたがるから困る。

 このまま放置しておいては、赤アフロが流行ってしまう。それだけは勘弁だ。

 

ミハイル「急がば回れっつー言葉もある。きっちり休んでから訓練に臨んだ方が早いと思うぞ。こんな状態でやるよりはよほどな」

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