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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 42-9

 鬼の形相でメイディアを追ってきたクレスが、骨組みだけでできた粗末な大型馬車から飛び降りた。

 メイディアに履かされたスカートが風になびく。

 

クレス「どこだぁ、メイディアァー!!」

 

 町に到着した馬車は、今度は養成所に戻る生徒のためにしばし時間待ちだ。

 まだ午前の早い時間帯なので、待っても帰る生徒がいるとは思えなかったが、それでも決まりで御者のおじさんはタバコをふかせてのんびりと20分間、留まってくれているのだった。

 しかしこの日は珍しく、その早い帰りの馬車に乗り込もうとしていた学徒がいた。

 いや、正確には学徒ではなく、教官。

 氷鎖女 鎮だ。

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レイディ・メイディ 42-8

フェイト「確かに俺がどうこう言う問題じゃないな。勝手にやっててくれ」

 

 くるりと背中を向ける。

 

レイオット「どこに行くの?」

フェイト「どこったって……俺はたんなるイキオイで勝手に連れて来られただけなんだぞ? 帰るよ、もう」

レク「せっかく来たんだから、そうあわてなくても」

フェイト「せっかく来たんじゃなくて、無意味に拉致られてき・た・の!」

レイオット「わかったわ。じゃあ、食事にしましょう。メイディとクロエが来るまで」

 

 両手を合わせて音を鳴らす。

 

フェイト「話に脈絡をくれ、頼むから」

レク「まぁま、堅いことを言わず。その辺、フラフラヨロヨロ徘徊しようよ。たまにはいいじゃん」

フェイト「……ハァ~」

 

 調子を狂わされてばかりのフェイトは、今日何度目かのため息を、深く深く吐き出したのであった。

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レイディ・メイディ 42-7

 一つに束ねた髪を高く結い上げて、顔までを覆い隠す額当てをしており、黒装束を着ている。

 365日、その決まりきった格好こそが生徒の知る「ヒサメ先生」なのだ。

 目立つのが嫌なら、そんな奇抜な格好をしなければいいと当然の意見を何度か言われたことがある氷鎖女だが、これにはワケがあった。

 常に同じ格好をしていることで、その姿=ヒサメ先生と周りに思い込ませることである。

 そうすることで別の服、別の髪型、そして素顔をさらして別の場所で会っても誰も気づかない。

 現在、彼の格好はといえば、普通に町で見かける服に髪は下ろして後ろで三つ編み。
  顔は右を包帯で隠してそのまま。

 これならば、少なくとも生徒たちは本人だとわかりようもない。

 何しろ、ヒサメ先生の顔を見たことがないのだから。

 ただ最大の誤算は、ナツメとして生徒と共に試験を受けなければならなくなったこと。

 スタート時に少し顔を合わせた程度の生徒たちならば、時間も経ったことだ。
  もう忘れているだろうが、丸1週間、共に過ごしたチームメイトはそうもいくまい。

 今しがた、店で一緒になったメイディアとクロエなどはまだ記憶に新しいはずだ。

 それに教官たちも覚えているだろう。

 入所時、一度だけならまだしも、試験で観察している。

 これが1年以上経てば記憶も薄らいでいくだろうが、それにはまだ間がある。

氷鎖女『もしものときのために早ぅ、忘れてもらわねば困るわ』


 もしものため。

 それはローゼリッタから逃げおおせるときのため。

 そんなときが来なければよいと願ってはいるものの、いつ正体がばれないとも限らない。

 罪人であり、化け物を宿している身では、常に戦々恐々だ。

 行きつけの店で髪飾りと、同じく東方の国で使用されている油紙でできた朱色の傘を購入した氷鎖女は、そそくさと店の前を離れて行った。

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レイディ・メイディ 42-6

クレス「一体、僕に何の恨みがあるっていうんだ! 捕まえて締め上げてやる!!」

 

 復讐の炎を青い瞳にたぎらせたクレスはイキオイ良く立ち上がって駆け出した。

 

クレス「メイディアはどーこだぁぁーっ!?」

 

 ……取り上げられた服の代わりに自分が何を着ているかに気づくことなく。

 日曜にだけ特別、町行き用の馬車が養成所から行き来する。

 時間に合わせて、町へ用事がある学徒たちが乗り込むのだ。

 メイディアとクロエも揺られて外の風景を楽しむ。

 すると後ろから遠く、メイディアを呼ぶ声。

 振り返って目を細めると、メイディア……の服を着た、いや、着せられて放置されていたクレスが物凄い形相で追ってくるではないか。

 

メイディア「うっ」

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レイディ・メイディ 42-5

 そんなこんなで日曜日。

 約束の時間近くなって部屋を出るクロエを友人たちが呼び止めた。

 

友人「クロエ、どこ行くの?」

クロエ「ん、おはよう。これからね、メイディとお買い物なの」

友人「ステラは一緒じゃないの?」

 

 メイディアたっての願いで、買い物の内容は秘密なのだ。

 だから幼馴染であるステラにも今回だけはナイショである。

 

友人「メイディアと仲良くするの、やめた方がいいよ?」

クロエ「……どうして、そんなこと……」

友人たち「わかってるでしょ?」

    「そうそう」

    「あんまり仲良くしてると、クロエまで無視されても知らないよ?」

クロエ「皆だって、前はメイディ、メイディって……」

友人「バカね。もう古いのよ。メイディの時代は終ったの。今はシラー様」

クロエ「………………」

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レイディ・メイディ 42-4

 問題の日曜日を前に、クロエはレイオットに伝えていた。

 下着を買うためにメイディアと出掛けること。

 そこにレイオットが便乗してしまえばよいのではないかということ。

 一方で、仲直りを手伝ってくれると言ってくれていたレクが良い子の皆に大人気の子供向け薔薇騎士レンジャーのお芝居チケットを取ってくれていたのだった。

 

レク「薔薇騎士レンジャーを間に挟めば、イチコロだって」

 

 廊下で立ち話。

 

レイオット「ババババ……薔薇騎士レンヂャァァァァ!!!! こっこっこっ……これならっ!! これならっ!! ハー…ハー…」

レク「お、落ち着いて、落ち着いて、レイオット。こ、怖いよ、目が血走ってるって……」

 

 目の色を変えてチケットに飛びつくレイオットにレクがたじろぐ。

 

レイオット「ありがとう、ありがとう、レク!!」

 

 相手の手を握ってブンブン振り回す。

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レイディ・メイディ 42-3

クロエ「だいたい、メイディのパンツ、おっきいんだもん。あんなの嫌よ」

 

 メイディアお嬢様の下着は、いわゆるカボチャパンツだ。

 

メイディア「そう、そこなのです。何故、あの下着は良くないのです?」

クロエ「良くないことないけど……」

メイディア「ワタクシはこの養成所に来るまで、下々の者と共に入浴などしたことがありませんでした」

クロエ「私だってないわよ。家じゃ一人だもん」

メイディア「ですから、皆の者がどのような下着をおつけになっているかなんて知りませんでしたわ」

クロエ「……まぁ」

 

 暗澹たる気分になりながら答える。

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