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ゼロのノート

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レイディ・メイディ 第4話

第4話:恋は刹那、砕けて一瞬

 本格的な訓練が始まって1カ月。

 剣を基本に戦場の最前線に立たされることを前提とした赤・青、両薔薇騎士見習いたちは今日も早朝から汗を飛び散らせ、剣を振っている。

 レイオットも男性陣に混ざって剣を無心に振っている。

 隣にはこの一カ月で仲良くなった少年レクもいた。

 一見、無類の美少年に見える彼女は、正真正銘男性であるレクと並んでもさらに背丈があり、残念ながら男前だった。

上で結い上げた長い髪が彼女の動きに合わせるように踊っている。

 汗さえもキラキラと朝の光に輝きより一層美しさを際立たせているようだった。

 

メイディア「ほげぇ~…あ~ぢぃ~ですわぁぁあ~…」

 

 中庭で同室のレイオットが華麗に剣を振っているその頃。

 黒薔薇見習いのメイディアは外周マラソンをさせられていた。

 後ろから数えた方が良いような順位で。

 こちらはお世辞にも美しいとは言えない姿勢でダラダラと走っている。

▽つづきはこちら

メイディア「ぜぇーひぃーはーひー」

 

 この一カ月の間にも人数は少しずつ減っていた。

周囲のレベルについていけないと悟った者、厳しさに耐え切れなかった者、狭い空間の共同生活に嫌気が差した者。

 初めの1カ月を乗り越えられれば、大体の者は試験の時までは居残れる根性の持ち主と考えていいだろう。

 教官側でもこの位は残るだろうというだいたいの目安はついている。今のところ計算通りだ。

 制服も実はそれほど多く用意されていないので、人数が減る1カ月を過ぎたころにようやく配給される仕組みになっていた。

 現在、メイディアも持参して来たお気に入りの服ではなく、支給されたグレーの運動着を着用していた。

 制服は2種類。

校内や外出時に着用のものと運動着用。

もちろん、その2枚だけというワケではなく、ちゃんと着替え用も何枚かそろってはいる。

 誰もが予想していた通りだったが、メイディアはこの制服のデザインや色が気に入らなかったらしく相当に駄々をこねた。

 グレーはネズミの色だとか汚らしいだとかそれは沢山の理由を並べ立てて、全身全霊でこれを拒否。

 私服のまま全て通していたが、この早朝マラソンでついに折れたのであった。

ロングスカートで運動は無理だと一般常識的なことをついに気が付いた。

 

メイディア「なぁんで魔術師になるのに走らねばいけないんですのぉ~!?」

 隣を並んで走りながら、リク「魔術には精神力と集中力が必要だからねぇ」

メイディア「精神力と集中力? 体力や足の速さは関係ないではありませんか。はふぅ」

リク「たぶん足の速さは要求されてないよ。体力は精神、集中力と深くかかわっているし、厳しい鍛練は強い精神力を養うのにいい」

メイディア「でもここの先輩の方々に聞いたら…ハァ…魔術師でこんな運動ばっかりなのはこのヒサメクラスだけだって…ハァハァ」

リク「らしいね、どうも。この学校始まって以来だって、こんなやり方は」

 

 長い歴史を持つ養成所で、黒白の魔術師はひたすらに各々専攻の勉強、勉強、勉強。その一筋だという。

現在もいくつかに分かれたクラスではこれまでと同じようにしており、たった1カ月の間に他の黒薔薇組と学歴差ができあがってしまっていた。

 教官の氷鎖女ときたら、初めの2日間だけ大まかな魔術の基本の説明を教室で行った後は、早朝から準備体操→マラソン→休憩(着替え)→座って目を閉じ瞑想するという“何もしない授業”が入るのだった。

 それが終わるとようやく魔術の授業に入るのだが、何一つ魔法など教えてくれやしない。

 ただひたすら机に乗せられた水晶球に魔力を注ぎ込み続けるという恐ろしく退屈な授業なのだ。

 

メイディア「他のクラスの方がおっしゃってたわ。炎や水の攻撃魔法なんかを習ったって」

リク「へぇ。早速…ねぇ?」

メイディア「あー、ワタクシも他のクラスだったら良かったのにィ。皆さんもそう言っておりますわ」

リク「はここで良かったと思うけど?」

メイディア「変わった方ね、貴方」

 

 いつものことだけど、と興味なさげに付け加える。

 微笑みつつ「君もね」とリクが返す。

 この二人、今は並んで走っているが、リクが遅いワケではない。

 実はメイディアの方が1週遅れなのだ。

 決して足が遅い方ではなかったが、策士策に溺れる…とまでいえるレベルではないものの、スタートダッシュで嫌なことは早く終わらせてしまえ大作戦だったのだ。…彼女としては。

 んが。

 見てのとおり、作戦は失敗に終わっていた。

 ペース配分を考えなかった結果、後半の余力が全くなくなってしまったという訳だ。

…お粗末様。

 こんな長距離を走るなんて、この15年で一度も経験のなかったお嬢様なのだから、仕方がないといえば仕方がない。

 これでも屋敷を抜け出し、勝手に馬に乗って遠出して野宿したり、木の上に“巣”を作って隠れ家にしていたりとそれはそれは貴族娘とは思えない行動もとっていたワケだが、ただ長距離を走り続けるなんてことは今までになかった。

 

リク「それじゃ、お先~」

 

 1週遅れてへたばっているメイディアをさっさと置き去りに彼は未だ軽快な足取りで曲がり角へと消えて行った。

 

メイディア「くぅ~!」

 

 歯をかみしめて足の回転を速める。

 その横を容赦なく数人がさらに追い越して行く。

 

男子たち「メイディア様、がんばれよー。ハハハハ」

    「お嬢様、ファイトー!」

 

 すれ違いざま、からかっていくクラスメイトたち。

 たった一カ月の間で様々な常識外のことをしでかし続けている彼女には、取り巻きも未だ多かったが、早くもあきれられてもいた。

 そしてその身分ゆえに言い寄ってくる男共を次々と一蹴し、あげくの果てにはこうしてからかわれる存在となりつつある。

 特に手ひどくフラレた男子たちからはそういった扱いが目立つ。

 逆ギレといったらそれまでだが、同じ振るにも振り方というものがあろう。

 わざとこれ以上はないという屈辱を相手に与えているとしか思えなかった。

 あれでは敵作るに決まっている。

 

メイディア「…む」

 

 からかわれたとわかったメイディアは足の速度を落として立ち止まる。

 

クレス「おい、邪魔だぞ。急に止まるなよな」

メイディア「…………」

 

 黙ったまま、しゃがみこむ。

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