レイディ・メイディ ４－４

　教室の様子をよそに、同じ頃の教官室では…。

　大きめの教官用机に腰掛けて足をぶらつかせているのは氷鎖女(ひさめ)。

　その前に立っているのはマラソン時に騒ぎを起こした二人。

 

氷鎖女「一通り事情は聴いたでござるよ」

メイディア「ワタクシはまだ何も言っておりませんわ！　一方的にそちらの方の話だけをお聞きになるというの！？」

 

　かみつく勢いで隣の少年を指さす。

 

少年「先生、俺はホントに…っ」

氷鎖女「あーあー。うるさいうるさい。言いたいことがあるなら、ハッキリ言えばよかろうに。あ～、そっちのからは聞いた。今度はごっ…その…」

メイディア「メイディア＝エマリィ＝シャトー」

氷鎖女「ああ、めいであ＝えまりぃ＝しゃとぉ…言い分を聞かせてもらお？」

メイディア「この方がお付き合いを断られた腹いせにとワタクシを転ばせて、乱暴しようとしたのです」

氷鎖女「交際を拒否された腹いせと何故にわかった？」

 

　額当ての角度を直すしぐさをする。

メイディア「そっ…それは…だってそうに言ってたんですもんっ！」

氷鎖女「わざわざ？」

メイディア「ヒドイ！　この方の言い分は信じてワタクシの言葉は信じられないとでも！？」

氷鎖女「そのようなことは言っておらぬ。何も言ってないのにムキになるのはおかしいでござるぞ」

メイディア「先生の雰囲気がそう言っております」

氷鎖女「…どちらにもあきれているだけでござる。…この際だから言っておくが、拙者…」

少年・メイディア「ん？」

氷鎖女「子守に参ったのではござらん。彼の国の盾にて剣たらんとする者たちに技術を譲り渡すだけのために女王よりここへ派遣、配属されてござる」

 

　再び額当ての角度を直すしぐさ。別に曲がっているワケでもないのに。

 

少年・メイディア「………」

氷鎖女「ま、拙者としてはただ単に、自分の学んだものを自分だけで終わらせとうないから引き受けたに過ぎないでござるな。時間はない。嫌なら帰れ。技術を身につけたいのならおとなしゅう従え。色恋ざたもようござるが、それで落ちても誰に文句を言うなかれ。全ては己の責任において…で、ござるよ。良いか？」

少年「あっ、あの…っ」

メイディア「それはワタクシを追い出すということですの？」

氷鎖女「否(いな)。そんなコトで落としたりせぬ。力があればそれでいい。ただ、ままごとや茶番に拙者を巻き込むなというだけでござるよ。繰り返すが、拙者、子守に来たのではない。…平たく言うと、ガキは好かぬ…というコトでござる。拙者、人が苦手にてガキはさらに苦手でござるからして」

 

　もう教室へ戻れとばかりにシッシと手を振る。

　少年は青ざめてやや震え気味に頭を下げて退室した。

　メイディアは頬をふくらませ口をとがらせて、鼻息荒く大股で乱暴に出て行った。

 

氷鎖女「……………」

 

　ずきん、と右顔面に巻いた包帯の下が痛み、額あての下から手を入れて顔を押さえる。

 

氷鎖女「痛い…」

 

　机の後ろに大きな窓。

　窓から差し込む穏やかな春の日差し。

　背に光を受け、床に影を作り出す。

　…影は、本人の形をしていなかった………

　陽炎のように不気味にたゆたう。

　まるで生きてでもいるかのように。