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レイディ・メイディ 4-5
2007.10.24 |Category …レイメイ 4話
教官室を後にしたメイディアは意味を悟って青ざめた少年と違い、ただただ例によって腹を立てているだけであった。まったくもって反省も成長もない娘である。
皆が自習している教室に戻ると噂話がピタリと止んだ。
メイディア「…………」
ジロリジロリと教室内を見回して、空いた席につく。
メイディア『何ですの、何ですのっ!? “ガキは好かない”ですって!? 何よエラソーにっ! ワタクシより背が低いクセしてっ! お子様は貴方ですっ! チービチービッ! 子守なんてしなくて結構よっ。ええ、ええ、そうですとも、そうですともっ! ワタクシは子供なんかではないのだわっ! もう15。立派な…立派な貴婦人なんだからっ! …嫁ぎ先だって……もう……決まっているのに…』
用意してきた水晶球を机の上に乗せ、魔力を注ぎ込む。
こうなったら、あのナマイキな教官をぎゃふんと言わせてやろう。
自分はその気にさえなれば何だってできるのだ。
そう。今までだってそうだった。
▽つづきはこちら
自分は天才なんかじゃない。だけどやればできる子だ。
できないのはやらないから。それだけ。
皆もそうだ。
知っている。
天才と呼ばれる種類はたった一握りであって、自分はそれに含まれていないこと。
その他大勢でしかないことを。
だが、その他大勢も努力次第である程度まではやれる。
この世を支えているのは一握りの天才なんかではなく、多くの凡人なのだ。
メイディア『見返してやる…。見返してあの言葉…撤回させてやるんだからっ!』
動機は何であれ、彼女の気持ちに火が点火されたことは確かである。
この1カ月を耐えられたのも、一重に嫁ぎたくない一心から。
周囲はこんなお嬢様では3日ともたないと踏んでいたので驚いたようだったが。
彼女は本気で魔術師になろうというのではなく、単に隠れ家というだけだったが、帰るに帰れない状態にある。
実際に何度もシャトー家から「娘を帰すように」との要請があったのは知っている。
メイディア宛にも手紙が何通も届いている。
ばあやから。
そして、筆跡を真似る職業の者に書かせたであろう両親からの手紙。
だが、手紙を送ることはできても権力にものを言わせて圧力をかけても、この養成所は女王直々の管轄下にある。いかな大貴族であろうと無理に中の者を連れ出すことはできない。
メイディア『ここから追い出されても困ります。力があるならそれでいいというのなら、見せてご覧にいれましょう? だってワタクシ、今までもそうやってきたのですもの。やってやれないことはないわ』
ピアノもダンスも歌も。歴史に語学に数学。礼儀作法や芸術。
どこの貴族…いや、王族に嫁いだとしても恥ずかしくない立派な貴婦人を目指した朝から晩までのスパルタ教育に耐え忍んできた。
たまに帰った父や母に褒めてもらいたかったから。
「よくできた。さすがは私の娘だ」とそんな一言があれば、この努力に報われると思っていたから。 ただし残念ながらそんな言葉の一言ももらえることはなく、努力を惜しまなかった少女の心はプツン…と切れてしまったのである。
両親と数カ月に一度くらいしか会えなかった幼少時代。
一日にあった色んなことや些細な疑問などを親に聞いてもらいたい年のころ。
たまに戻る父に話しかけても、
「わかったわかった、また後で」
「メイはお利口だから、おとなしくしていられるね?」
「お父様が忙しいとわかるね? わかったら、部屋に戻って本でも読んでいなさい」
遠ざかる父の背中は見知らぬ他人に見えた。
母に語りかけても、
「後でってお父様が言ったの、わからなかった?」
「わからないメイではありませんわね? 聞き分けの良い子ですもの」
「お父様もお母様も忙しいから、貴女と遊んではいられないのです。またプレゼントでも送るから…いいでしょう? そうね、今度可愛い小鳥さんでも送ってあげましょうか」
メイディアが首を横に振り、小鳥なんかいらないと言うと母は困ったように笑って、
「きっと気に入ります。遠い南国の小鳥さんなの。色んな色の羽があるのよ。言葉をしゃべる不思議な鳥。誰も持ってない。皆に自慢できるから」
両親の希望は娘の完成度をどれだけ高め、より地位の高い貴族に嫁がせられるかということ。
そのために社交会には必ず参加し、他でも走り回るかのようにして貴族同士のパイプラインをつなぐ。
自分たちの娘がいかに優れているか。
他のどんな子よりも裕福で愛情を一身に受けて育っているか。
それを誇示するために、これでもかというくらいに娘を飾って連れ回す。
いわば、シャトー家をさらに拡大させるための看板であり、高価な贈り物なのだ。メイディアは。
広大で豊かな土地のローゼリッタ王国は、ここ100年余り戦争が起こっていない奇跡の国だ。
それもこれも時の女王が作り上げた最強の騎士団…すなわちメイディアたちが現在目指している「薔薇の騎士団」が控えているからである。
かつてはこの豊かな国を手に入れようとする外国からの攻撃に悩まされていたが、一計を案じた女王が戦いのエリートだけを集めた最強の部隊でこれを粉砕。その名を轟かせた。
戦いのエキスパートたちは次々と快勝してゆき、とうとう女神の眠る地といわれるローゼリッタに手を出す勢力がなくなったのである。
そして100年。
薔薇の騎士団が出撃する機会は魔物が攻めて来たときくらいなもので、今はほとんどお飾りに等しい。
平和な時期が長く続くというのはそういうことだ。
外に敵がいなくなると今度は上層部の連中が腐敗しだし、内部で目に見えない水面下の争いが起こる。
そう。貴族達の出世争いである。
戦争が起こらなければ、貴族も活躍の場がなかなかめぐってこない。
すでに内部の役職についており、国の政に貢献できればいいのだが、それができるのも一部の限られた者たちだけだ。
そうなると手軽に行える戦略といったら、自分のところの姫を上級貴族に嫁がせたり、息子の妻に娶ったりして親戚関係を結ぶことだった。
貴族社会ではいつも手駒に使われるのは、気の毒なことに姫君なのである。
もちろん、そんな中でも親は子に愛情はあるもの。
家庭によって差は天と地ほどもあるだろうが。
メイディアの両親は、物を与えることでその少ない愛情を示していた。
こんな仕組みはメイディアとて承知はしていた。
だが、贅沢かもしれないが、それでも彼女が欲していた物は家族の絆というやつだ。
物じゃないモノ。
目に見えないけれど、もっと確かなモノ。
きらびやかなドレスではなくて、もの言わぬ人形でもなくて、ましてや自分自身ではなくその背後にある権力にあわよくば近づきたいがためのブローチなんかでもない。
ただ、会話。
自分を人間として扱ってくれる人間同士の会話がしたかった。
父と母が屋敷からいなくなってしばらく。
約束の鳥が届けられた。
南の地方に住むという、しゃべる不思議な鳥。
小鳥というにはずいぶんな大きさだった。
名前はオウムというらしい。
赤やら緑やら毒々しいまでに原色を派手に塗りたくったような鳥。
鳥は賢くて、「ご機嫌いかが? ご機嫌いかが?」と話しかけてくる。
確かに珍しい鳥で始めは驚き、喜んで周囲に自慢したがそのうちに飽きてきた。
その鳥は覚えた言葉は話すが、自分からは新しく話さない。
これでは人形と代わらない。
ワタクシとも代わらない…
鳥は、逃がしてしまおうと思った。
カゴの中に入っていつも同じことを言っている。
なんてつまらない鳥!
急に憎らしく思えてきたら、逃がしてやるのも嫌になった。
鳥だけが自由で自分だけがこの屋敷から出られないなんてどうかしている。
両親に連れられて行く舞踏会以外にほとんど数えるほどしか出たことのなかった外の世界。
ワタクシが知らない世界にお前は自由に飛び立つのか?
「ソンナ事…許サナイ…」
●Thanks Comments
無題
ただのおバカなワガママ姫だと思っていたメイちゃんの意外な内面が!
頑張ってヒサメを見返すことが出来るかな??
いいえ……
ただのおバカなワガママ姫のままですが……何か?(笑)
4-7以降……乞うご期……待……?
…………。
……うん……