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レイディ・メイディ 40-4
2008.05.12 |Category …レイメイ 39-41話
場面は訓練所のナーダとヴァルトに戻る。
ナーダ「何だってあのアホを本気で推薦しちゃうのよ。アンタも相当のおバカさんよね」
ヴァルト「アイツはやると言ったらやるさ。俺は……………………ああ、まぁいい」
信じるよと言いかけてやめた。
どうせ笑われて気恥ずかしい思いをするだけだ。
それほどにあの教え子は周囲から信用がない。
間が抜けていると。
ヴァルト「それより、また魔物の群れが出現したらしいな」
思い出したように話題を変える。
ナーダ「またぁ? 最近多いじゃない。どこよ、まだそれ聞いてなかったわ」
ヴァルト「サヴァイドルとファニースの方角だ。今はコンラッド部隊とハモンド部隊が出動している」
ナーダ「…………先月は、オリビーが戦死したばかりだっていうのに……」
やや沈みがちに地面に目を向ける。
▽つづきはこちら
ここ数年、魔物の目撃情報が多くなってきていたのは確かだが、ここ最近になって急に魔物が徒党を組んで村や町を襲うことが多くなってきていた。
魔物討伐に出陣したナーダの親友・オリヴィエが先月、帰らぬ人になったばかりだった。
ヴァルト「何かが、起こり始めているのかもしれないな」
目の前で剣を合わせる候補生二人の動きを追う。
ナーダ「何かって…………何よ」
ヴァルト「それは知らんさ。だが、今まで大人しくしていた魔物の動きが活発になってきているのを、ただの偶然で片付けていいものかどうか」
ナーダ「…………そうね」
つぶやいたとき、レイオットの『参った』の声が響き、すぐにナーダがフェイトの勝ちを告げた。
悔しさを滲ませて、舞台を降りるレイオット。
彼女も今、伸び悩みの最中にいるのだ。
かつてのナーダのように。
ちょっとくらいの才能があったとして、女の身でこの世界は甘くはない。
これからそれをどう乗り越えていくのか。楽しみではある。
決して潰れないよう願い、支えてやるのが教官の務めだ。
ナーダは無言で負けの報告をしに来たレイオットの肩を叩く。
ナーダ「レイオット、お前は熱くなり過ぎる。相手を観察できるくらいの余裕と冷静さを持ちなさい」
レイオット「ハイ!! ありがとうございます」
頭を下げて整列する列に戻る。
代表が合図をすると赤青の候補生たちが一斉に礼。
ありがとうございましたと声をそろえて練習試合は全て終了した。
翌日。早朝訓練。
剣士を目指す赤薔薇、青薔薇には当たり前だが、戦場で前線に出ることがない白黒魔術の生徒たちには課せられることはなく、うらやましいことに今頃になってようやく彼らは目覚めるのだ。
それなのに。ああ、それなのに。黒薔薇の中で1クラスだけ、剣士に混ざって走り込みをさせられている者たちがいた。
ヒサメクラスである。
カイル「なーんで黒薔薇見習いが毎朝汗だくで走らなきゃなんだよぅ」
レヴィアスクラスから移動してきた生徒、カイルが早くもへこたれそうになりながらぼやいた。
リク「これでも赤、青よりは全然軽いんだけど」
カイル「そりゃそうだろ、一緒にされてしかも魔法の訓練もあったら身がもつわけない!!」
悲鳴に近い声を上げる。
リク「すぐ慣れるよ。じゃ、お先に~」
裏切り者のリクはペースを上げてさっさと遠ざかって行った。
カイル「くっそ。先生はいいよな、見てりゃいいんだから」
リクの代わりに後ろから追いついてきたクレスがそんなカイルに呆れた口調で答える。
クレス「バァーカ。ヒサメに一緒に走られてみろ。洒落にならないイタズラしかけてくるぞ」
カイル「イタズラ?」
クレス「アイツ、だれてる奴とか手抜きしようとした奴をみつけると、雷の獣なんか作り出して追わせるからな」
しかも喜々として。
本物でないとわかっていても、巨大な肉食獣に追われれば逃げずにはいられないのが心理。
そのうえ、雷なんかでできている幻獣なのだ。
追いつかれれば、電撃バリッとお尻を突き抜けることになる。
必死になって逃げ惑う教え子を指さして笑うのが、性格の悪い担任の趣味だ。
カイル「とんでもないな、こっちのクラスは!!」
冗談ではないと速度をあげる。
クレス「じゃ、俺は先に行くから。せいぜいヒサメの気を引かない程度には頑張るんだな」
反対の隣に来た、ジェーン「ちなみに一緒に走らなくても、時々、前触れもなく魔法攻撃仕掛けてくるから気をつけてネ☆」
去年まではただ走るだけだったのに、今年からそんな余計なオマケまでついてきたのである。
カイル「マジッ!!? ナゼッ!!?」 がびーんっ!!?
クレス「さぁね。誰に当たるか毎度わかんないから。じゃ」
ジェーン「主に怠けてると標的になりやすいわよー。じゃ」
言い残すとクレスが先に行ってしまい、ジェーンもそれに習ってカイルを追い越して行く。
そのまた横を一周早いフェイトが通り過ぎた。
カイル『あっ!! あの野郎!! 俺の告白邪魔した上にクロエさんのハートを奪った奴じゃないかっ!!』
「チクショウ、負けてたまるかー!!」
……と、気合までは良かったが、それで急に足が速くなったり持久力が増えるワケでもなく、恋敵の背中は見る間に遠くなってゆくのであった。