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レイディ・メイディ 第40話
2008.05.11 |Category …レイメイ 39-41話
第40話:その、間のこと
“女。”
“女だって?”
……女たちが騒ぎ始めた。
“あの老人、どこまでわかっておる?”
一人が勘ぐると、
“いいや、まだだ。”
もう一人が否定した。
“けれど危険。”
同意とばかりに他の女たちも続けて騒ぎ立てる。
“あの老人、人に非ず。”
“心許すな。”
“もとより許す心などない。”
“他の、誰であろうとも。”
………………………………。
主の意識が目覚める気配を感じ取ると、『女たち』は一斉に沈黙し、真っ暗な深淵へと沈んで消えた。
辺りには何もない。
ただただ、黒い水が静かな波紋を描くだけ。
やがてそれさえも消え去ると、真の静寂が訪れた。
さぁ、彼の者が目覚める。
まぶたが上がると黒き世界に光が差し込まれた。
▽つづきはこちら
“視力が生まれつき悪いなんて嘘だ。”
“むしろ目はいい方だ。”
彼の者は自分がとっさについた嘘について考えた。
起き上がり、鏡の前に立つ。
金色の両眼が瞬いた。
縦に割れた瞳が鏡の中の青年を冷酷な獣のように見つめていた。
“顔の右半分に傷があるのも嘘だ。”
“ここにはもっと醜いモノがある。”
呪いを抑えるための呪文が書き込まれた包帯をきっちりと巻きつけ、下にあるもう一つの顔を覆い隠す。
“嘘、嘘、嘘。”
“嘘ばっかりで、誰に何を言ったか覚えてないくらいだ。”
“でも嘘で塗り固めないと …………”
鎮「ま、身長はちょっとオマケっていうかァー……1cmくらいごまかしても罪にはなるまいよ」
長い髪を結い上げて、生徒からもらったリボンで結んだ。
最後に竜の骨で作った額当てをかぶって、準備完了。
さて。今日もハリキッて先生の真似事をしちゃおうかな?
教材を手に部屋を出た彼は、今朝の夢に早くも覚えがなかった。
本当に、覚えがなかった。
13歳の少年の外見をしたニケ=アルカイックが本当は150も過ぎた老人だなんて、『あの女たち』が騒ぐまで知らなかったし、目覚めた後は誰が自分にそれを教えたのかも覚えがなかった。
今度のこともそうだ。
ニケ=アルカイックは人間ではない。
何か別のモノとのハーフであることを女たちが噂をして彼に伝えた。
彼は女たちの存在を容認せず、意識を向けようとしなかったから、知識と言葉だけが微かに残っただけで、女たちの存在は意図的に忘れ去られた。
彼は女たちの存在を知っていたが、決して交わるまいと心を堅く閉ざしている。
彼女たちの意識に触れてしまったなら、彼は彼という個を保っていられなくなってしまうから。
混ざってしまったら、その瞬間に彼は彼でなくなり、一つの怨霊と化すだろう。
長い間、見て見ぬふりで積み重ねられてきたヘドロのように。
変化を与えれば、毒を含んだ泥は浮き上がり、たちまち水は濁る。
伝染病の広がるがごとく。
死人に耳を傾けてはいけない。
魂まで混沌の渦の中へ引きずり込まれて、もう二度とはい上がることができなくなってしまうから。
ダダダダッ!!
ズタダダダッ!!
見物人の首が右に向いたり左を見たり。
クロエ「コラ待て待て待てー!!」
リク「縄を打てー!! あはははは♪」
投げ縄を避けながら、
氷鎖女「ぬおぉあーっ!! 狩ってはならぬと申しておろうが!!!」
今朝見た夢などきれいに忘れて、本日も元気に追われているのはヒサメ先生。
ニケ「やってる、やってる」
教室から一歩踏み出したニケが肩をすくめた。
ニケ「あんなんでちゃんとクロエ観察できてるのかなぁ?」
二種類のストーカー、どっちにすると究極の選択を迫られたヒサメがのぉまるすとぉかぁになる!!とわざわざ宣言しにきたのは一昨日の夜。
しかし翌日にはいつも通り、追う方ではなく追われる方に落ちぶれていて、泣きながら逃げ回っているのが今日。
氷鎖女「ニケ殿!!」
ニケ「うわぁ、ビックリしたぁ!!」
二人の狩人からまんまと逃げ果せた氷鎖女が天井から落ちてきた。
氷鎖女「これぞ、これこそがクロエの真の正体でござれば!!!!」
どぎゃーん☆
クロッキー帳に描かれたのは、以前にも増して怪物じみたクロエザウルス。
ニケ「ほとんどモンスターじゃない。だから理想のクロエをさぁ」
氷鎖女「理想を入れれば、やはり嘘臭くなるでござる。これこそがクロエ=グラディウスの真の姿なれば!!」
ニケ「…………却下」
「だいたい、ヒサっち、クロエのコト全然見てないでしょ?」
氷鎖女「うぅ~ん」
痛い所を突かれ、グズるように小さくうなって体を揺する。
氷鎖女「拙者とて観察しようと試みてはいるでござるよ? でもおとなしく観察しようとすると段々クロエが視界に巨大化してきおって、気が付くと目の前に立っておって、いつの間にやら拙者が追われているのでござる。ふっしぎィ☆」
ニケ「………………………………」
そんな堂々と子供の理屈をもってこられても困るのだが、彼は至って真剣な様子。