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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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閉ざす、扉。 2

 両の手の指では全然足りないくらいの出会いと別れを繰り返して、までたどりついてみたらば、何艘かの船が着けてあった。

 沢山の積み荷を降ろしたり運び込んだりしている。

 その前で圧倒されて立ち尽くしてしまった

 だって船は、村の人間が全員乗れてしまうのではないかという大きさだったから

 尖った先端には羽の生えた裸の女を象った作り物がくっついている。

ありゃなんのためだ?

 中心の柱にはどのくらい継ぎ合わせればあれだけの広さになるのか、白い布が凧のように張られている。

 なるほど、あれで風を受けてその力を利用するんだな。頭がいいや。

 乗っているのはこれまた見たこともないへんてこな着物を着た、体つきのよい男たちだ。

 目が青かったり髪が赤茶けていたり黄金色の奴もいて、少し薄気味悪かった。

 それにしても息を呑むほどの豪華な船だ。

 都のものは何もかも輝いていたというから、さてはこれは都の船に違いない。

 そう考え違いをした船にまぎれて乗り込んでしまったんだ

 これが都どころか、遠い遠い海の果ての国へ戻る船だと知りもせずに。


▽つづきはこちら

 航海は長きにわたり、わずか十を過ぎたばかりの童に耐えられようもない。

 そのうちに当たり前のように見つかって、乗組員を困らせたが、海の真ん中で放り出されることはなく、雑用手伝いをすることで許された。

 行動が遅かったり、失敗をすると蹴飛ばされたり殴られもしたが、海に捨てられるよりなんぼかマシだ。

 中には親切なのもいて、鎮にお話しを聞かせてくれることもあるんだな

 昔々、あるところに、それはそれは美しいお姫様がいて……

 そんな話を聞くのが唯一の楽しみだ。

 皇子様への恋に破れ、海の泡と消えてしまった人魚姫の話を、村の氷鎖女伝説と重ね合わせて、可哀想だと思った。

 人魚姫は皇子様の本当の命の恩人だというのに、皇子は隣の姫さまと祝言をあげなさる。

 氷鎖女の伝説でも二人の姉妹の内、一人と夫婦(めおと)になった若者が手のひらを返して、もう一人の方と一緒になってしまう。

もう一人と一緒になるために邪魔になった嫁を川に沈めてしまうんだ。

 泡にはならんけど、水の中で寂しく死んでしまうのは一緒だ。

 皇子様というのも若者もひどい奴だ。

 鎮なら、絶対にそんなことしないのに。

 船から海を見下ろして、人魚がいないかと毎日探したけど、とうとう見つかることはなかった。

 時々あがってくる泡ぶくを見て、あれは人魚のお姫さんかもしれないと目を凝らした。

 手を合わせて拝んでみたりもした。

 可哀想な人魚の姫さんが、無事に浄仏できるように。

 氷鎖女の娘みたいに呪ったりしてきませんように。

 皇子様を殺せば自分は助かることができたのに、そうしなかった人魚の姫さんはきっと極楽浄土に行けるに違いないと思う。

 

 

 ……何カ月かかったかな、もう覚えていない。

 とてつもなく長い時間をかけて、やっと土の上に足をついたときはまだ揺れているような感覚残っていた

年の頃はもうとっくに十を過ぎてしまっていた。

 

 ここが都か。

 

このとき、まだ勘違いを続けていた鎮は目を見張ったよ。

 黒い髪の人間がいない!

 いや、いるにはいたが、我らの黒とは若干異なり、顔立ち明かに元いた地域の人間と違っていた。

 それに何より、言葉が通じなかった。

 船乗りたちもあまり通じなかったが、中には通じる者もいたのでさほど苦労はしなかったのだけれど。

 都では勝手が違う。

 急に怖くなってきてシクシク泣いたけど、もう戻り方がわからない。

ととさまやかかさま、あにさまの名を何度も呼んでみたけれど、迎えがこようハズもない。

 泣いている鎮をつけた都人(みやこびと)たちが近づいて声をかけてきたが、やはり何を言っているのかさっぱりだ。

 そのうちに一番偉くて一番怖い、船長(ふなおさ)がやってきて、鎮の首根っこ捕まえて別の男に引き渡した。

 

 これも後に解ったことだが、このとき、鎮は売られたのだった。

 

 売られた先は石作りの塀に囲まれたお屋敷で、そこでも下働きをした。

掃除とか、馬の世話だとか。細々した雑用。

船のときとなんら変わらなかった。

 こんなことをするために都に来たつもりではなかったのに。

 お祭りを見て、珍しいものを見れたならそれでいいと思っていただけなのに。

 けれど下働き生活はすぐに終わる。

 屋敷の主に気に入られて、夜伽の相手を申し付かるようになる。

他に幾人か同じような童がおって、それらと一緒に可愛がられることが仕事になった。

こうしてなでくりまわされている内に、また額のもう一つの顔がバレたんだ。

 例によって気味悪がられて、さらに違うところに売り飛ばされた。

 別のところでは、怖い顔の毛むくじゃら大男が鎮の買い主だった。

 鎮のもう一つの顔を確認すると、頭の毛をみーんな剃り落として、隠せなくする

 それから丸裸にされて、籠…じゃない。牢か? 木の棒で作られた四角い箱のような牢に入れられて、見世物にされたんだ。

 鎮の他にも見たことがない珍しい生き物がおんなじように狭い牢に入れられてたな。

 長ーい派手な尾っぽと冠を持った鳥とかさ、白い大蛇とか。

金色の毛並みのきれいな猿もいた。

 あとそれからえーと、白と黒の熊みたいな奴だ。

もっといっぱいいたけど覚えてない。

 都の人々は恐ろしいモノ見たさに行列まで作りなさる。

 

 毎日、満員御礼。

 

 始めは赤い布が箱に被せられていて、見世物時間になるとパッと取り去られる。

 都人たちは1つ見るごとにいちいち「おおっ」と一斉に声をあげ、手を叩いた。

一番最後の鎮の番になると、どよめきはさらに大きくなり、中には叫んで卒倒するもいた。

それだけ醜くて気持ちの悪い生き物なんだ。

 鎮はこのもう一つの顔が嫌いで嫌いで、できればずっと隠しておきたくて、誰にも見られたくなかったから、とても恥ずかしくて悲しかった。

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●Thanks Comments

ヒサメ先生の...

過去の話だね(^-^)ヒサメ先生のもう一つの顔って一体どの辺りにあるんだろう...。まだ小さいのに仕事して、売り飛ばされて...見世物にされて...。なんか...いつも思うけどヒサメ先生の過去って残酷すぎるっ(泣)

From 【あっぴ】2008.09.24 00:40編集

右のこめかみ辺りに

あります。人面瘡。
こんな状況の中で生きてきたので、対人恐怖症だったり人が信じられなかったりです。
感覚も普通とズレてるし。

From 【ゼロ】2008.09.24 01:14編集

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