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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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閉ざす、扉。 4

 当時、貴族の間では、音楽に絵画に才能がありそうな連中を集めて支援し、後ろ盾となってくれる「ぱとろん」というのが流行っていて、ほんのちょっぴし名が通るようになってきた「氷鎖女 鎮」にもお声がかかったんだ。

金持ちの道楽で、自分のひいきの芸術家が有名になれば鼻が高いというところだろうか。

それも俺は異国民だったから、なおさら珍しかったんだろうな。

……異国民?

ああ、そう。

ここは俺の考えていた「都」なんかじゃなかった。

ずっと果ての果てにある大陸だったんだ。

俺のいたのは東にあるちっぽけな島国で、つい最近まで地図にも載っていなかったらしい。

未だに国によっては知られていない、知名度の低い野蛮な島国だった。

そういうワケで俺は貴族さまさまのお気に入り。


▽つづきはこちら

貴族の屋敷に「あとりえ」という絵を描くための部屋が用意されて、道具もそろっていたから、俺は安下宿からそちらに移ることになった。

それから滞在した町にある図書館にも通い詰める。

全てが新鮮で片っ端から読み漁ったよ。

乾いた布に水を浸すように、知識は瞬く間に吸収される。

世の中はおもしろい。なんという輝きだろう。

初めて村から一歩踏み出したあの日、自分の求めていたものはきっとこれなんだとおぼろげに感じてた。

この辺りから若き天才ともてはやされるようになるのだが、相変わらず人との接触は苦痛。

額当てに誰もが興味を持ったが、決して外すことはない。

これさえしていれば、あまり人の顔を見ずに済むし、また見られることもない。視線を合わせなくていいのはとても助かる。

貴族の下に身を寄せていると、やがてそこの姫様に強い関心を向けられることになる。

姫様は俺におそらく友情以上の…つまり…まぁ、そういった類のもの……を抱いていて、俺も裏表なく汚れを知らない姫様がまぶしく、……似たような感情を持っていたと思う。あさましくも。

むろん、気づかない振りを通していたが。

色恋沙汰など、とんでもない話だからな。

同じ年頃の姫様は異国の話を聞くのが大好きで、かつて船の上で異国のおとぎばなしを聞かせてもらったように、今度は俺が姫様に話しをする側になった。

かぐや姫、八岐大蛇、氷鎖女の伝説……

姫様は毎日やってきてはあとりえに入り浸り、飽くことなく俺の話を聞きたがる。

どうやって東の国からここまで来たのか。

どんな経緯をたどって現在に至るのか。

……話せるワケがないだろ。

「お前などいなければ」と言われて失意のままに川に身を投げましたと?

惨めにも生き残ってしまったと?

見世物にされてましたと?

(とぎ)をさせられることもありましたと?

人を殺して歩いていましたと?

…悪い冗談。

けれど気の利いたウソを探し出せるほど俺は器用ではなくて。

この頃にはうかつにも穏やかで温かい姫様を信用し始めていた俺だったから、結局、自分が村を出たいきさつを聞かせることになる。

話すに至った理由の半分は、姫様の押しの強さに根気負けしたようなものだが。

淡々とただ事実だけを語ったつもりだったのに、姫様は大きな目にいっぱいの涙をためるから、驚いた。

他人事で涙を流せるとはとんだお人好しもいたものだ。

そうやって片付けようと思ったのに。

受け止めてもらえたことで自分の中にピンと張っていた糸が、切れた瞬間を感じた。

馬鹿だった。

愚かだった。

他人を信用してしまうなんて。

愚の骨頂もいいところ。

人は一人で生きられないなんて嘘。

水と食い物があれば生きていけるんだよ、他に誰がいなくとも。

だから求めるのはやめたんだ。

やめたつもりだったのに……

差し伸べられた手にすがりついて、心が崩れていくのを自覚していた。

彼女はこちらで信じられている神の使い…天使のような微笑で、甘い罠を張るんだ。

そして奈落の底に突き落とす。

貴方の辛かったこと、全部話して。

心のままに吐き出したらきっと楽になれる。

私なら受け止めてあげられる。

全てをゆだねて。

貴方の背負うものを半分わけて欲しい。

私も一緒に背負っていきたいの。

悲しみは一人で抱えないで。

貴方には助けが必要なのよ。

俺の心を見透かしたように与えられる、最も欲しかった言葉。

でもそれに甘えてはいけなかったんだ。

今までだってそうだったろ?

いたんだ。

これまでにだって、俺を許してくれる人が。

だけど、ホラ。

それも本当の鎮を見るまでの話だって。

人には許容範囲というものが必ず存在する。

全てを愛するなんて信じない。

無償の愛なんて笑わせる。

ああ、確かに懐の深い人間はいるだろう。

彼女も優しいんだ。

深い慈しみと愛の人なのだ。

きっと人よりずっとずっと心は広い、大海原のようなとてつもない包容力なんだ。

だけどそれでもこの世の全てを抱くことはできない。

だってそれは、例えば愛する家族を殺した者も女子供に狼藉働くクソのような輩も愛することができるということだろう。

許すということだろう。

もしそれらを許すというのなら、俺は許したそいつを軽蔑する。

きっと、きっと。

一方で素晴らしいと感歎しながら、一方で節操がないのと違うんかとあきれるんだ。

そうさ。

人の命をいくつも奪ってきた自分を棚に上げてな。

自慢じゃないが、俺の許容範囲は井戸の縁より狭く、水溜りよりも浅いんだ。

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