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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイメイ番外・モーリー編 艶街の花1

  

の花にきれいな水を。

日陰の花に日の光を。

 

薔薇の騎士団

レイディ・メイディ番外
モーリー編

「艶街の花」

 

「そろそろアンタも春を売りな!」

 

 あたしが13にもなるとこれがママの口癖になった。

 あたしらは春を売って…つまり男に体を売ってなんぼの商売してる裏の女たちだ。

 花の都と謳われるローゼリッタの中心部から少し外れた町。

 治安のよい整った町並みは表向きの顔。

中央から一歩外れた通りに迷い込めば、たちまち饐えたドブの臭いのたちこめる貧民街。

 立ちんぼ娼婦が今夜の寝所を求めて男漁り。

ゴミ箱に今日の糧を求めて群がる浮浪者たち

 少し身なりがいい人間が間違って踏み込めば、希望をもたない子供達が恵みを恵みをとすがりつく。

 1週間に1回くらいは川に死体が上がる、そんな街。


▽つづきはこちら

 これでも他の国よりはよっぽど治安はいいらしいのだけど、あたしはここで生まれ育ったから、他比べようもなかったし、比べたところでどうでもいいことだった。

 そんな世界の情勢なんかより、関心は日々の暮らしに向いていたわ。

食うや食わずの毎日だもん。

 おなかが減ってない日はなかった。

 新しい服が着たいとか同い年くらいの子が持ってるお人形さんが欲しいだとか、そんな贅沢は言わなかった。

ただ、おなかいっぱい食べ物が食べたいといつも思ってたわ。

 それでもあたしはまぁまだ運がいい方だった。

ボロ屋だったけど、一応は家を借りていたから。

 そこは商売のための小屋であり、あたしたち母子の生活の場でもあった。

 ママが客を引き入れるとあたしは表りに出て、物乞いをする。

それが13まで。

 13過ぎるとママは春を売れとうるさく言ってくるようになった。

 それで初めてウリに出したのが14の誕生日。

誕生日で初めてだから沢山ちょうだいとねだったら、かっぷくのいいおじさん、うんと小遣いをはずんでくれたわ。

 デビューは上々。

 あたしは生まれた頃からこの花街で育って、娼婦に囲まれて育ったから、それが悪いことだってちっとも思っていなかったし、ママたちはママたちなりのプライドとかそういうモンがあるワケよ。 饐えたドブの臭いたちこめるこの貧民街で、はいずりながらも生きてきた、強靭でたくましい自負がね

 ローゼリッタでは春を売ることは禁じられていたみたいだけど、それも結局表向き。

 だって貴族のお偉いサンだってくることはあるんだから。

 その貴族のお偉いサンと恋仲になって、妾にでもなれりゃーこんな生活とオサラバできんじゃないのぉ?

 だってママ目当てでくるリピーターの客の中に貴族らしい人がいるんだもん。

ひょっとしたら、ひょっとするじゃない?

あたしがはしゃいで言うとママは決まってこう切り返す。

 

「馬鹿だね、夢を見るのはおよし。ベッドの中の絵空事を本気にするもんじゃあない。あたしらの所にいる間だけ、男はデカイ夢を語れるもんなんだよ。言ってみりゃあ、男はここに夢を見るために来るみたいなモンさ。この小屋から一歩でも外に出てごらん。もうそこは現実。今見てた夢なんか忘れて毎日の営みの中に戻ってく。海の泡みたいなものだよ」

 

 ベッドという刹那の夢の中じゃ、男は現実には出来ないカッコつけた嘘をいくらでも言いたくなるらしい。

いつか迎えに来ると女を喜ばせて、いつまでも待っているわという言葉を期待しているだけなのだ。

 人二人分の四角い空間で女は娼婦なんかじゃなく、一人の男を待ち続ける健気な恋人を演じるのである。

 このわかりきった嘘の戯れをどちらも本気にしちゃいけない。

 それが暗黙の了解。

大人同士の。

 無言の約束事を忘れて本気にしたら、身が持たないよとママは寂しそうに笑うのだった。

 だけどまだ14過ぎたくらいのあたしには、言われてもピンとこなかった。

夢を見て何が悪いのよぅ。

 本気で何がいけないの?

 もしかして、ひょっとしたらがあるかもしれないじゃない。

 時々は本気の本気になってくれちゃう金持ちのボンボンだっているかもしれないじゃない?

 

「もしいたとしても、周囲に強い反対を受けて終わりだよ。いいかい、あたしのモーリー? 貴族は何年経っても代が代わったって貴族。農民も農民。娼婦も一生娼婦のままなんだ。夢を見るんじゃない」

 

 ママはいつもこうやってあたしの夢を摘み取ろうとする。

 薔薇の騎士の候補生を募集しているチラシをもらってきたときもそうだった。

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