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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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閉ざす、扉。 5

  全てを包むなんて芸当、たぶん、人間にはできない。

それを成せるのはきっと我らを見下して愛でる傲慢な神様という奴に違いない。

彼女も人間の例に漏れず、女神などでは決してない。

例え世の中の全てが敵に回っても、私だけは貴方の側にいるから。

どうしてそんなできもしない夢のような言葉をあのとき信じてしまったのだろう。

結果はこれまでと同じだとわかりきっていたハズだ。

甘い。

甘すぎる。

弱い。

弱い自分に吐き気がする。

そうして彼女は俺の額当てに手をかけて絶句した。

思わず息を呑んで、後ろによろめく。

“こんなハズじゃなかった”、ですか?


▽つづきはこちら

  ……傷つけるつもりはなかった。

ただ、助けて欲しいだけだった。

けれど、結果的には彼女の心を砕いてしまったように思う。

受け止められると思っていた荷物が予定より重たくて、手を離してしまったというカンジだろうか。

沈黙の後、彼女は「イヤ」と首を振った。

一瞬で目の前の人間が別物に化けたみたいに。

姫様は抱き留めるつもりが、相手を傷つけてしまったと後に胸を痛めるだろう。

他人の痛みを理解しようとする姫様だから、自分を責めるに違いない。

でもそんな心配はしないで欲しいんだ。

今度のことは相手が悪かっただけだから。

彼女ならば充分に、誰かを包んでやれるだろう。

それが俺ではなかっただけの話で。

残念だけど。

 

俺はすぐに貴族の館から退散して、別の居場所を求めて町を出る。

姫様の態度にハッキリと目が覚めたからだ。

なんて愚かだったんだろう。

馬鹿げた夢を見て。

遠く離れて町を振り返り、滑稽な自分がおかしくて仕方なかった。

物語の主人公じゃあるまいに。

やはり人の手は取るものではない。

改めて思う。

眺めるものなのだ、アレは。

これ以上、惨めで恥ずかしい想いはしたくない。

心が、折れる。

信じ続けたら、きっと、いつか折れてしまう。

 

知らず気持ちは頑なになって、これまで以上に他人を拒むようになった。

決して、人が嫌いになったのではない。

ただ怖いだけで、むしろ想いは募るばかりだ。

だからあやまちは繰り返さない。もう二度と。

惨めにはならない。

夢は見ない。

期待をしない。

手を取らない。

甘えない。

 

だから……

 

だから距離を詰めないで。

だから求めないで。

だから追い詰めないで。

だからこれ以上辱めないで。

だからいらない。

どうせ引っ込められてしまう手なら、初めから差し伸べないで。

飼えない野良猫に期待を持たせないで。

自分を守るために被った強いフリの仮面を、甘い言葉で剥ぎ取ろうとしないで。

覗こうと、しないで。

どうぞ、これ以上いじめないで。

……どうか。

 

「この国と命に懸けて誓おう、私はお前の無二の友であると」

「鎮……ねぇ、二人のときだけは鎮って呼んでもいいかな?」

「鎮、俺は鎮の味方だよ」

 

差し伸べられた手は眺めているのがいい。

けれど、その手を取ってはいけない。

手は、求めたら最後、きっと消えてなくなってしまうから。

穴の底から上を見上げて、差し伸べられる手の温度を夢に感じていればいい。

 

レイディ・メイディ番外

閉ざす、扉。

終 了

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