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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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閉ざす、扉。 3

 鎮が顔を隠そうとすると牢の間から、棒で顔をどつかれた。

 皆、怖いのに見たがって、近づこうとする。

近づいてもっと見ようと迫り来る。

 言葉は分からないが、笑い声の残酷な響きと指さしで良くないことを言われているんだということだけは理解できた。

 毎日、多くの見物人の顔、顔、顔。

 ぐるぐる目が回って、気分が悪くなって、耳の中でうわんうわんとうるさい虫の羽音のようなものがいつまでも音を立てていた

……おかしくなってしまいそうだった。

 鎮が泣いたり、叩かれて鼻血を噴いたり、恐怖のあまりに粗相なんかをすると客たちは、もっと喜んだ。

 だからもう反応しないようにした。

 何も考えず、何も思わず、格子の間から見える空に意識を飛ば

 心を殺す、あるいは閉ざすというやつだ。

そうでもしていなければ、この状況に耐えてゆけなかったから。

 醜い顔を大衆にさらして、隠す努力も抵抗も一切をやめた。

何をしても喜ばすだけだとわかったから。


▽つづきはこちら

 ……都は恐ろしいだった。

 

 これならまだ例え衣に火をつけられても、縄で引きずり回されてもまだ故郷のがマシだったように思う。

 それから数ヶ月も経つとあきられたのか、あれだけあった客足は遠のいて、鎮は来なくてもいい客を呼び戻すために今度は芸をしなければならなくなった。

 元から身は軽いし、忍の村の出身だったから、芸なんかお手の物だ。

 鞭でぶたれるのが怖かったから、始めはおとなしく従って芸を覚えることに専念していたけど、ある日、ふと気が付いた。

 逃げればいいじゃないか

 今まで慣れない土地で、通じない言葉で、恐怖に固まっていた。

震えているだけじゃダメだ。

 まずは訓練のために牢から出された隙を狙って、毛むくじゃらの男に飛びかかる。

目をつぶして男が倒れたら、腰にぶら下げてる短剣を頂戴。

 得物が手に入ればもうこっちのものだ。

 騒ぎを聞き付けて来た人間の喉を切り裂いて、走る。

 それからはもう自由だ。

 金品を奪い、衣類を奪い、移動のための馬を奪う。

 人を殺すのはカンタンだった。

 何も感じることはなかった。

 男も女も子供も老人も、犬も馬も鳥も魚も、みんな等しく命に価値はない。

 鎮に出会ったが運の尽きとあきらめてもらうより他はない。

 

 

 生きるために人様を殺めて歩いて、気がついたら盗賊仲間の中に身を置いてた。

 この頃には俺も十四。

他人の手を求めなくなっていた。

求めなくても一人で生きていけたから。

 言葉も覚えて口も悪くなった。

顔を知られないための鎧として額当てもつけるようになった。

 実年齢も見た目もまだほんのガキだったが、誰も俺をガキ扱いはしなかったよ。

 何故なら、中で俺が一番強いからさ。

 泣き虫だった鎮は短い間にすっかり外道に堕ちていたが、必要以上に物を欲さなかったし、殺すことが楽しかったワケじゃない。

 ましてや女の人に乱暴なんてのは、心理的に受け付けなかった。

 あのかん高い悲鳴を聞くとわけもなく、めまいと吐き気に襲われるんだ。

ああ、そうだ、きっとあれだ。

少し前の、他人に征服される自分を眺めているみたいで気持ちが悪いんだ。

不快なモノを目の前から消してしまいたくて、脅える女を一太刀の下に捨てたこともあった。

 徒党を組んでいた輩はそろいもそろって女が好きで、すぐ乱暴を働く。

その最中に俺が横から女の命を奪うと何をするとくってかかるんだ。

何をするは手前だよ。

俺の癇に障る奴の末路は全て同じ。

……そうさ。

盗賊仲間も、殺した。全員。

腹立たしかったんだ。

ここで一先ず、盗賊家業は終いにした。

ホトホト嫌になったからな。

もっと穏やかな、別の暮らしがしたい。

俺は本来、自分が好きだったことを思い出しかけていた。

絵を描くのが好きなんだ。

木を削って人形を作るのが好きなんだ。

何もないところから形を作り上げる。

これだよ、これ。

もう昔の俺じゃないから、もっと上手に生きていける。

言葉もわかるから余裕もある。

他人から奪った金品で、絵の道具を買ってみた。

昔は墨と筆しかなかったから知らなかったが、この西の大陸には木炭だとか絵の具だとか絵を描くための道具が充実していた。

古い下宿に部屋を借りて、始めて地に足を着けた一人暮らし。

飯も忘れて寝る間も惜しんで好きなことに没頭する。

そして時々、家族のことを想う。

数え切れない命を奪っておきながら、図々しくもあにさまやととさま、かかさまのしあわせを願う。

皆がつつがなく暮らしているといい。

それから何年も忘れていた船の上で聞いた数々のおとぎばなしを思い出していた。

人魚姫、美女と野獣、いばら姫……

荒れた生活をやめて、世間からいじめられることも久しくなくなって、忘れていたものが次々と溢れる。

見世物屋時代に封じた感情が戻ってきたような気さえする。

俺は絵と人形作りに夢中になり、のめり込んだ。

芸は身を助けるというが、本当にその通りで趣味として描いていたものが、人様に売れた。

あにさまに褒めてもらったことしかなかったから、少しくすぐったかった。

認められることの喜びを知った十六歳。

描きためた絵を試しに出してみたら、飛ぶように売れて、ついでに名前も売れた。

苗字なんてものはなくて、ただの鎮だったけどあんまりしつこく聞かれるんで、出身の村の名を告げた。

氷鎖女、と。

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