レイディ・メイディ 第２８話

第２８話：何だか氷鎖女先生が大変です。

　再試験当日の早朝、保健室。

 

ミハイル「試験開始日だろうに、お前もついてないな。まぁ、番号が後ろの方だというから、今日すぐに出発ではないようだし……式には出なくても問題ないだろう」

 

　女性特有の腹痛で医務室に転がり込んできた学徒に話しかける。

　月に一度は来る不調。

女は大変である。

　だからといって、試験を受けない訳にはいかない。

この女学徒の試験日が一番辛い時期に当たらなかったのがせめてもの救いか。

　軍隊で女を歓迎しないワケだと改めて思う。

　女にとっても辛かろうに、何故わざわざ養成所などへやって来るのだろうか。

　人にはそれぞれ夢や野望があるにしても。

ミハイル「薬を処方してやるから、しばらく休んだら部屋に帰って安静にしておけ」

女学徒「……………………」

 

　ノックの音がして、ドアが開く。

 

ヴァルト「すまない、ミハイル殿。ヒサメ殿は来ませんでしたか？」

ミハイル「いや？　見ていないが」

ヴァルト「………………あー、そうだな。じゃあ“女子学徒”は？」

 

　少し考えて言い直した。

 

ミハイル「来た。何か用ですか？　具合が悪いというので今寝かせて……」

ヴァルト「部屋にもいないと思ったら……。やはりな」

ミハイル「あ、ちょっ……！」

 

　具合が悪いと言っているのにヴァルトは女子学徒の寝ているベッドのカーテンを開いて無理に起こそうとする。

 

ミハイル「試験なら後日だろう、寝かせておいてやれませんか。そいつはその……」

 

　月の物とハッキリ言うのもためらわれて口ごもる。

 

ヴァルト「そうもいかないもので。試験は後日なんかじゃあない。今日、今からだったよな？　なぁ、ヒサメ」

女学徒「………………」

ミハイル「だから、ヒサメは来なかったと……」

 

　ヴァルト、掛け布団をひっぺがそうとする。

　学徒、抵抗。

 

ミハイル「よせって！」

ヴァルト「往生際が悪いぞ、ヒサメ殿！」

 

　ヴァルトの力に敵わず、掛け布団は取り払われた。

　中に入っていたのはやはり女学徒で……。

 

ミハイル「ホラ、違うと……」

ヴァルト「ヒサメ。ヒサメ殿」

 

　学徒が仕方なくといったふうに、ゆっくりと上半身を起こす。

 

氷鎖女「だから、承知しておらぬ」

ミハイル「……………………エ……？」

 

　聞き覚えのある声に目が点になった。

 

ミハイル『ちょっ……ちょっと待て……！？　コレが……え？』

 

　医務室へ来たときは確かに違う声だったハズ。

 

ヴァルト「そうはいかない。できるのは貴公しかいないのだからな」

氷鎖女「ならばヴァルト殿、もしもそちらがおなごの姿で出歩けとなればいかがいたす」

ヴァルト「ええ？　……う、う～ん……」

 

　言われて自分が女装した姿を思い浮かべる。

　長身にガッチリとした肩幅。

決して細くはない輪郭。

両刃の剣を軽々振り回す丸太のような腕。

自慢じゃないが、筋肉の鎧で覆われたこの引き締まった身体。

　……に、女性の服。

 

ヴァルト「おおおおおおっ！？？」


　頭を抱えて咆哮。目をかっと見開いて、

ヴァルト「無理だっ！」

氷鎖女「ほれ、見ぃ」

　ミハイルは未だ大混乱の渦の中、情報処理できずに佇んでいる。