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レイディ・メイディ 28-5
2008.03.13 |Category …レイメイ 28話
クロエ「私、クロエ。初めてだよね、よろしく」
氷鎖女「…………」
黙って何度もうなづく。
ああ、怖い。先生の女装というだけでバレたらシャレにならない。
恨みがましく例の同僚たちを見やったが、彼らは面白そうに意地の悪い笑みを浮かべているだけだ。
氷鎖女『おのれ、今に見てろよ』
外からの視線を感じて振り向けば、リク。
氷鎖女『ぎゃあああっ!? 出たァァッ!』 後じさる。
『お前班が違うだろ、何で見てんだよ。バレた? バレた? バレてんのか!?』 ドキドキ。
リク「ねぇ、君……どこかで会ったこと、あったっけ?」
自分の班を離れて側に来る。
▽つづきはこちら
氷鎖女『ぬおーっ!? 来んなっ! こっち来んなっ! お前だけは特に来んなーっ!!』
リクが動けば自然と周囲の視線も集まる。
それが今の氷鎖女にとってどれだけ迷惑なことか。
そうでなくとも視線恐怖症であるというのに、彼が来ては針のむしろに正座してひざに石を乗せられ
ているようなもの。
視線が痛い。
周りが注目しているのはリクだけだとわかっていても、やっぱり嫌だった。
見られるのは嫌いだ。
教官になってまず初めに後悔したのは、当たり前のことだが学徒たちが自分を注目することだった。
教師になるというのはそういうことなのだが、浅はかな彼はそこまで思い当たらなかったのだ。
教壇に立ってみて、初めてしまったと思った。
もちろん、全く想像していなかったワケではない。
しかしそれは緊張して授業なんてできるかな、上がって変なことを口走らなければいいがなどという新米教師にお約束程度の覚悟だったのだ。
今はだいぶ慣れてきたものの、初めの内は授業が終わった後で自分が何を話していたか覚えていないほどだった。
何を言ったかわからない。
けれど時々、学徒が一斉に笑うこともあって、そんなときは必ずといっていいほど体温が急上昇して息が上がりそうになり、ひどいときにはめまいと吐き気が襲ってくることもあった。
きっとおかしなことを言ったんだ。
けれど何がおかしくて笑われているのかわからないと、とても不安になる。
結局は何食わぬ顔で無事に教壇を降りることができるのだが、内心はいつだって穏やかではない。
静まり返った空気の中、注目を浴びるのが苦手な彼は、目立ちたがりで問題児なメイディアにずいぶんと救われている。
彼女のことを注意したり怒ったりなだめすかしたりしながら授業に入ると、緊張もうやむやになってしまうのだった。
……そんな極度の視線恐怖症な彼。
今現在、1対1の間近で顔を見られているのだからたまらない。
しかも相手ははっと息を呑むほどの美男子・リク=フリーデルスだ。
普段は額当ての奥から覗く程度で、1年もいるのにほとんどまともに顔を見ることがない。
背が低いことも手伝って、会話をしているときにも相手の顔の下ばかり見ている。
だから普通に話が出来るのだ。
顔を直接つき合わせていないから。
驚いたことに彼はリクだけでなく、あれほど目立つメイディアもきらめく才能の破片をみせつけて他の教官からも絶賛を受けているクレスの顔も、アンもジェーンもステラもシラーも、皆々顔をハッキリ記憶していない。
口元だけを見、声を頼りに会話しているからだ。
けれど今は自分を隠してくれる仮面はない。