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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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みやまよめな;5

5,

 それからまた1年後。都16歳。社15歳。

 

 社は毎日毎日、暇さえあれば剣の稽古に励んでおり、天賦の才もあって、かなりの腕前になる。

本来は、姉を守るためだが、父は「頼もしい、これで我が帯刀家(おびなたけ)も安泰(あんたい)だ」と大いに喜ぶ。

 幼少の頃は女の子のようだった社は、今ではすっかり男らしくなり、美少年になっている。

ただし、少し陰気なカンジ。

 社は自分の部屋の前に花壇を作り、白い花と青紫の花を育てている。

今日も朝の稽古がすむと花に水を撒く。

 そこへ女中の椿が水を汲んで、通りかかる。

 

端女・椿「社様、おはようございます。毎日早いですね」

社「おはよう、椿」


▽つづきはこちら

花を見て、

 

椿「まぁ、キレイ!! “みやまよめな”ですね」

社「“みやまよめな”?」

 

 水桶を置いて、側までくる椿。

 

椿「あら、社様ったら、知らずに育てていたんですか?」

社「………………………」

椿「あ、す、すみません、私ったら、生意気な口を……」

社「いや、いい。花の名前がわかって良かった。何となくこの花は気に入っているんだ。可憐で美しい……」

 

 愛惜しむように花を見つめる。

 

椿「………………………」 そんな社に見とれる。

社「それに………密やかな強さも感じる」

椿「………………………」

 

 椿の視線に気づき、

 

社「そういえば、お前の名前も花の名だね」

椿「は、はいっ!! あのっ、椿っていう名は、ばっちゃんがつけてくれて………赤い椿は“ひかえめな美点”という意味の花言葉があるとか………あ、いや、その………私にはちょっともったいない名前かなっ……て……思うんです……けども……」

社「へぇ。花言葉か。“ひかえめな美点”……ね。なるほど、椿によく似合う」

椿「え……へへへっ。そ、そうですか?」 しきりに照れる。

社「ああ、ひかえめだけど、とても魅力的だよ、椿は」

椿「社様ったら、お上手なんだからっ♪」

 『白い椿は“申し分ない魅力”っていう意味だけど………これは何だか図々しいから言うのはやめておこっと』

社「“みやまよめな”はどんな意味があるんだい?」

椿「えっと……うーん、何だったかしら?」

社「いや、わからないならいいんだ。ただ、どんなのだろう?ってちょっと思っただけだから」

 『たいして興味ないし』

椿「今度、ばっちゃんに聞いてみますねっ」

社『いいのに、別に…………』

 

 内心そう思いつつ、口では、

 

「ああ、ありがとう」

 

 ふと置きっ放しの水桶が視界に入り、

 

「…………あ、仕事の邪魔をしてしまったかな?」

椿「いえ、大丈夫です」

社「引き留めてしまって悪かった。このせいで椿が怒られるといけないね。どれ、私が持っていこう」

椿「いっ、いいえ!! 平気です、ホントに!! 社様にそんな真似させられませんって!!」

社「はははっ。心配しなくていいよ。ばあやには私から言っておく」

 

 そうって、水桶をかつぐ。

 

社「……むっ。結構、重たいんだな。こんなのを毎日……。椿も大変だね」

椿「いえぇ~。ホントにぃ、すみません、手伝っていただいちゃって……」

社「何、大したことないさ」

 椿の手伝いを終えて、去って行く。

椿「は~…………。アタシも社様の妾(めかけ)くらいになれないかな~……」

 

 ため息をついていると使用人・万次丸(まんじまる)がやってくる。

 

万次「何だ、椿ちゃんは社様が好きなのかい?」

椿「あらいやだ、万次、独り言なんか聞かないでおくれよ。恥ずかしいったら」

万次「社様も都様もお優しいからなぁ。惚れるのも無理ないよ。俺も都様宛に恋文が届く度にハラハラしているからな」

椿「万次がハラハラしたって仕方ないだろうに……」

万次「わかってるよ!! そんなこと言ったら椿だってそうだろ」

椿「うるさいね。アタシはさっき、“ひかえめな美点”っていう花言葉は椿によく似合う……なぁんて言われたんだから。まんざらでもないかもしれないよ」

 

 …と、しそう。

 

万次「花言葉?」

椿「ええ、社様がお育てになっている花のことでちょっと話題に上がって……」

万次「ああ、社様の“ミヤコワスレ”か」

椿「ミヤコワスレ? “ミヤマヨメナ”じゃないの?」

万次「おんなじだよ。アレな、都様のために育てているみたいだぞ」

椿「え? そうなの?」

万次「ああ、ずっとお館様と都様が仲良くないだろ?」

 

 人目を気にして小声になる。

 

万次「だからさ、都様を元気づけるために毎日、社様が贈っているんだよ。都様はあの花がお好きだからな」

椿「……そうなんだ。ふぅん……」

 

 椿は、社が花を愛しい者を見るような眼差しで眺めていたのを思い出す。

 

万次「社様は昔から姉さんっ子だったから……」 苦笑。

椿「そうね、本当に。ウチの弟と大違い。ウチのときたら、家の手伝いはしないわ、アタシを足蹴にするわ。……ロクなことしないよ!! 社様の爪のあかでも飲ましてやりたい」

 

 腰に手をあてて、頬をふくらます。

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