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みやまよめな;5
2008.05.19 |Category …みやまよめな
5,
それからまた1年後。都16歳。社15歳。
社は毎日毎日、暇さえあれば剣の稽古に励んでおり、天賦の才もあって、かなりの腕前になる。
本来は、姉を守るためだが、父は「頼もしい、これで我が帯刀家(おびなたけ)も安泰(あんたい)だ」と大いに喜ぶ。
幼少の頃は女の子のようだった社は、今ではすっかり男らしくなり、美少年になっている。
ただし、少し陰気なカンジ。
社は自分の部屋の前に花壇を作り、白い花と青紫の花を育てている。
今日も朝の稽古がすむと花に水を撒く。
そこへ女中の椿が水を汲んで、通りかかる。
端女・椿「社様、おはようございます。毎日早いですね」
社「おはよう、椿」
▽つづきはこちら
花を見て、
椿「まぁ、キレイ!! “みやまよめな”ですね」
社「“みやまよめな”?」
水桶を置いて、側までくる椿。
椿「あら、社様ったら、知らずに育てていたんですか?」
社「………………………」
椿「あ、す、すみません、私ったら、生意気な口を……」
社「いや、いい。花の名前がわかって良かった。何となくこの花は気に入っているんだ。可憐で美しい……」
愛惜しむように花を見つめる。
椿「………………………」 そんな社に見とれる。
社「それに………密やかな強さも感じる」
椿「………………………」
椿の視線に気づき、
社「そういえば、お前の名前も花の名だね」
椿「は、はいっ!! あのっ、椿っていう名は、ばっちゃんがつけてくれて………赤い椿は“ひかえめな美点”という意味の花言葉があるとか………あ、いや、その………私にはちょっともったいない名前かなっ……て……思うんです……けども……」
社「へぇ。花言葉か。“ひかえめな美点”……ね。なるほど、椿によく似合う」
椿「え……へへへっ。そ、そうですか?」 しきりに照れる。
社「ああ、ひかえめだけど、とても魅力的だよ、椿は」
椿「社様ったら、お上手なんだからっ♪」
『白い椿は“申し分ない魅力”っていう意味だけど………これは何だか図々しいから言うのはやめておこっと』
社「“みやまよめな”はどんな意味があるんだい?」
椿「えっと……うーん、何だったかしら?」
社「いや、わからないならいいんだ。ただ、どんなのだろう?ってちょっと思っただけだから」
『たいして興味ないし』
椿「今度、ばっちゃんに聞いてみますねっ」
社『いいのに、別に…………』
内心そう思いつつ、口では、
社「ああ、ありがとう」
ふと置きっ放しの水桶が視界に入り、
社「…………あ、仕事の邪魔をしてしまったかな?」
椿「いえ、大丈夫です」
社「引き留めてしまって悪かった。このせいで椿が怒られるといけないね。どれ、私が持っていこう」
椿「いっ、いいえ!! 平気です、ホントに!! 社様にそんな真似させられませんって!!」
社「はははっ。心配しなくていいよ。ばあやには私から言っておく」
そう言って、水桶をかつぐ。
社「……むっ。結構、重たいんだな。こんなのを毎日……。椿も大変だね」
椿「いえぇ~。ホントにぃ、すみません、手伝っていただいちゃって……」
社「何、大したことないさ」
椿の手伝いを終えて、去って行く。
椿「は~…………。アタシも社様の妾(めかけ)くらいになれないかな~……」
ため息をついていると使用人・万次丸(まんじまる)がやってくる。
万次「何だ、椿ちゃんは社様が好きなのかい?」
椿「あらいやだ、万次、独り言なんか聞かないでおくれよ。恥ずかしいったら」
万次「社様も都様もお優しいからなぁ。惚れるのも無理ないよ。俺も都様宛に恋文が届く度にハラハラしているからな」
椿「万次がハラハラしたって仕方ないだろうに……」
万次「わかってるよ!! そんなこと言ったら椿だってそうだろ」
椿「うるさいね。アタシはさっき、“ひかえめな美点”っていう花言葉は椿によく似合う……なぁんて言われたんだから。まんざらでもないかもしれないよ」
…と、嬉しそう。
万次「花言葉?」
椿「ええ、社様がお育てになっている花のことでちょっと話題に上がって……」
万次「ああ、社様の“ミヤコワスレ”か」
椿「ミヤコワスレ? “ミヤマヨメナ”じゃないの?」
万次「おんなじだよ。アレな、都様のために育てているみたいだぞ」
椿「え? そうなの?」
万次「ああ、ずっとお館様と都様が仲良くないだろ?」
人目を気にして小声になる。
万次「だからさ、都様を元気づけるために毎日、社様が贈っているんだよ。都様はあの花がお好きだからな」
椿「……そうなんだ。ふぅん……」
椿は、社が花を愛しい者を見るような眼差しで眺めていたのを思い出す。
万次「社様は昔から姉さんっ子だったから……」 苦笑。
椿「そうね、本当に。ウチの弟と大違い。ウチのときたら、家の手伝いはしないわ、アタシを足蹴にするわ。……ロクなことしないよ!! 社様の爪のあかでも飲ましてやりたい」
腰に手をあてて、頬をふくらます。