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みやまよめな:7
2008.05.19 |Category …みやまよめな
都「うっ……ううん……」
ハッとして、社「……いかがされましたか?」
都「う~、う~」 うなされている。
社「姉上っ」
手を強く握り直してやると安心したように、また安らかな寝息を立て始める。
社「……姉上……。お美しい姉上……。社はいつも貴女のお側におります……」
そっと額に口づける。
2,
くる日もくる日も父は酒に浸りながら、娘をなじり続け、都は精神的にまいってきて、床につくことが多くなった。
特に病というワケではなかったが、なにもかもが億劫(おっくう)で動きたくない。
何も考えたくない。
ただ布団の中で一日が終わるのを待つ。
その間にも「お告げ」はあったが黙っていた。
また予言めいたことを言えば、父は自分を恐れ、更に遠巻きにするに違いない。
自分は何も語ってはいけないのだと思った。
今朝も女が夜盗に遭う夢を見たが、口をつぐんだ。
見る夢が全て予言に結び付くワケではない。
今度もきっと違うと言い聞かせ、関与(かんよ)せずにやり過ごす。
▽つづきはこちら
その翌日。
女が犯されて殺されたという話を耳にし、都は泣いた。
突然、父が部屋の障子を開け放つ。
床にふせていたのであわてる都。
乱れていた寝間着の前をかき寄せる。
父「都ぉ~!! 女が殺されたぞ~? しかも子を身ごもっていた身体だったそうじゃ。不憫なものよな、都?」
朝っぱらから酒臭い。
都「………………………」
布団の上に正座して、髪を手櫛で整える。
父「お前が予知しておれば、死なずに済んだのではないのか? え?」
都「………………………」
父「ワザと黙っておったのだろ?」
都「ち……」
違うと叫びたかった。
…………しかし、実際には父の言うとおり。
現実逃避をしてしまったせいで、この事件は起こってしまったのだ。
先回りしてくい止められたハズだったのに。
父「化け物娘めっ!!」
怒鳴って酒瓶を投げ付ける。
都「………………………」
瓶は砕け、遅れて額から血が滴(したた)り落ちた。
洗い上がった洗濯物を持った椿、父が出て行くのと入れ違いに都の部屋へ。
椿「姫様…………」
おずおずと声をかける。
額の傷に気づき、あっと驚く。
椿「こんな、ヒドイ……!! 今、手当をしますから、じっとしておいて下さいまし」
薬と包帯を取りにあわてて廊下に飛び出す。
身じろぎせずに布団の上で正座したままの都。
椿からの手当を受ける。
椿「嫁入り前の女子になんて御無体な……うっ、うっ」 涙ぐむ。
都「……椿」
椿「はい?」
都「……私は生きていてはならぬのでしょうか?」
椿「えっ!?」
都「私は呪われた子なのでしょうか?」
椿「何をおっしゃいます!? 姫様は神子です!! 呪われるなんてそんなことありゃしませんっ」
都「でも身重の若い女が殺されてしまった…………私のせいで……」
椿「いいえっ、姫様が何をされましたか? 何もしちゃいないじゃないですか。何もしてないのに姫様のせいなんてそんなことありゃしません!! そんなのおかしいですぅ」
首を横に振り、
都「何もしなかったから殺されたの」
両の手で顔を覆う。
都「本当は知っていたのっ!! でも言わなかった!! 父様(ちちさま)に嫌われとうなくて、黙っていたのです!! それで何もなければいいと思っていたのに、ああっ」
うずくまる。
椿「姫様、姫様!! そんなにご自分を責めたらいけないです!! 本当のことになるなんて、わからないじゃないですか!! たまにはそういうこともありますよ!! 大丈夫、泣かないで下さい!! 姫様の先見(さきみ)の目は素晴らしいです!! ウチのばっちゃんが山で足くじいたの見つけてくれたの姫様だし、そうでなかったらばっちゃん見つからなかったかもしれないし、他にも病治したり、沢山、沢山の人を救ってなさってる!! 姫様は神の子ですよ!! 皆、そう言ってますっ!!! 神子だって崇めておりますっ!!」
必死になってまくし立てる。
唾が飛び散るのもおかまいなし。
都「ありがとう、椿……。……ありがとう……」
椿「姫様……」