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みやまよめな:9
2008.05.20 |Category …みやまよめな
社「……………………」
都「父様は心が病んでおいでなのです。あれ程、愛された母様に先立たれてしまってきっとお寂しいのでしょう。許しておあげなさい」
社「だからと言って、姉上に当たっていいという道理はございません!! 当たられるのならば、この社にすればよいのです!! 社は男子(だんし)ですし、まま受け入れるようなことは致しませぬ。父上をぐぅの音も出ない程に言い返してやりますに」
都「社……」
社「一番寂しい想いをしているのは姉上の方ではございませぬか」
『毎日……、泣いてばかり……』
都「……………………」
その言葉を聞き、不意に立ち止まり、振り返る。
社「ん?」
一緒に足を止める。
▽つづきはこちら
都「…………………………」
一歩近づいて、相手の胸に額をコツンと当てる。
都「私にはお前がいてくれる。寂しいことなど何もない」
目を閉じる。
社「……姉上……」
どういうワケか、胸が異常に高鳴った。
社「……………………………」
どうしていいかわからなくなって、棒のように立ち尽くす社。
沈黙する二人を夕日が赤く染め上げ、影を長く写し出す。
頭上をカラスが通り過ぎる。
3,
あの後、他愛のない話に終始して、夜遅くまで充てもなくブラブラと歩いていた姉弟。
玄関の近くにくると身分のある者が乗る籠が止めてあった。
……客だ。
家に入るとすれ違いに客が出てくる。
いで立ちや少ない衛兵の数を見るに、お忍びであろう。
地方の小さな豪族でしかない自分たちよりも上だと気づいて、それぞれ頭を下げる。
客「おお、もしやそなたが都殿か」
都「……は」
社「!!」
嫌な予感がする。
客「噂通りの美しさよのう」
都「ありがとうございます」
客「いくつじゃ?」
都「16になりました」
客「16……16か。若いな。ワシは66じゃ」
都「は……はぁ……」
曖昧に答える。
客「ワシは若いのは大好物でな」
都「は?」
社『大………何だって?』
客「ほっほっほ。いやいやいや。気にせんでくれ」
都・社「…………………」
客「ではまたの」
去って行く。
妙な客を見送り、家に戻ってみると珍しく父は酒がだいぶ抜けていて、昼間の女たちもいない。
さすがに客が来ていたせいか、やや改まった様子。
ひょっとして、昼間の騒動が効いたのだろうかとも思った。
しかし、どうもそれとは別のことだったらしい。
都だけが父に呼ばれ、いきなり婚姻の相手が決まったと知らせを受けることに。
相手はもう60を過ぎた大名で、もっぱらの女好きだという。
都『まさか…………さっきの…………』
太って体臭の酷い、先程の客を思い浮かべる。
吹き出物だらけで醜悪。
そして人を値踏みする、いやらしい視線を思い出してゾッとする。
父「お前を娶(めと)ろうとすると不幸に見舞われると噂が立ち始めて、ここ最近では申し込みがまったく途絶えておったからな。最後の機会だと思って受けておいたわ」
都『……アレが………私の夫となるお方………アレが……?』
青くなって、うつむく。
父「どうじゃ。今時、憑き物のついた娘をもらってくれるなどという変わり者は他にいまい。いい話だろうが。父に感謝するのだぞ」
その実、戦略結婚である。
よくある話ではあるが、だからといって本人にとっていい話なワケはない。