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みやまよめな:10
2008.05.20 |Category …みやまよめな
都『………嫌…………あんな………』
吐き気と目眩に襲われてよろめく。
父「2、3日中にここを出て行けよ」
都「2……2、3日中っ!!? それはあまりに急な……」
驚いて顔を上げる。
父「善は急げじゃ。この父の親心、無駄にするでないぞ」
都「…………………………」
父「どうじゃ、嬉しかろう? どうした、もっと嬉しい顔をせぬか。女子(おなご)の悦びは嫁ぐことであろうが」
今日は珍しく上機嫌。
恐らく、前から狙っていた権力が手に入ると思っているに違いない。
都「……はい……」
消え入りそうな声で返事をし、頭を下げてから退室。
部屋の前で待っていた社が駆け寄ってくるが、何も言わず、うつむいたまま自室へ行く。
社「……………………………」
それを目で追う社。
▽つづきはこちら
夜中になっても眠ることができず、都は泣いてばかり。
社と共に育った懐かしい故郷を2,3日の内に離れなくてはならないこと。
50も違う醜悪な老人に嫁(とつ)がなくてはならないこと。
そして、あの老人との初夜が来ることを考えるとおぞましくて気が狂いそうだった。
一度は父の目の届かない所へ嫁に行こうと思っていたが、実際に相手が決まったとなるとやはり未練がある。
都『母様……。助けて』
泣き疲れてようやくウトウトし始めた頃…………丑三つ時。
社「姉上、姉上……!!」
小声で呼ぶ声がする。
都「!!」
まぶたをこすって、障子を開ける。
都「…………社」
縁側で手招きしているのは社。旅にでも出て行きそうな装いをしている。
社「姉上、早く着替えて下さい。……急いで」
都「な、何を?」
社「家を出るのです」
都「そんな……、いけません」
社「このままあの老人の所へ嫁入りするおつもりですか!?」
都「父様の命では仕方ありませぬ。それに我が帯刀家のためになるのならば……」
社「馬鹿な!! 本気で仰せでござりますか!? 家のために姉上が犠牲になるなど……。この家を継ぐのは社です。姉上の犠牲の上にたった力など要りませぬ!!」
都「……でも逃げてしまっては、父様の顔に泥を塗ることに……」
社「それこそ自業自得ぞ!! 帯刀家など、父上のせいで父上と共になくなってしまえばよい!!」
都「社、めったなことを……!!」
あわてて、声をひそめ、たしなめる。
社「社と来てくれると言(ゆ)うて下さい。私は命に変えましても、姉上をお守りする所存であります」
ひざまづいて手を差し伸べる。
都「………………………」 目を伏せる。
行きたいのは山々。
けれど……
都「……気持ちは嬉しいけれど……でも、やはり行く訳には参りません」
頭を左右に振る。
社「……姉上」
都「ありがとう、社。お前のその心遣いだけで充分です。向こうに行っても、お前の優しい気持ちは一生忘れません」
社「………………………」
「……………姉上…………」
都、黙る。
社「姉上っ!!」
両肩を強くつかんで揺さぶる。
都「お下がりなさい」
社「………………………」
あきらめたように目を伏せ、都から離れる。