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みやまよめな:11
2008.05.20 |Category …みやまよめな
都「部屋にお帰りなさい。いくら姉、弟といえど、このような夜更けに女子の部屋を訪れるものではありません」
社「姉上」
都「……ん?」
社「姉上が合意して下さらなくとも、社は………」
持って来ていた真剣をスラリと抜き放つ。
都「!!」
社「社は貴女様をお連れ申す」 目を薄く開く。
刀は月明かりに冷たい光を放った。
都「……ひゃっ!?」
切っ先を目の前に突き付けられて、思わず小さく悲鳴を上げる。
▽つづきはこちら
都「な、何をするのですっ!!?」
社「姉上、旅のご用意を!!」
いつになく強い口調。
都「お下がりと言うておるにっ!!」
社「勘違いされるな、姉上。社は今、人さらいでございます」
都「……何?」
社「社は姉上をかどわかそうとしておるのです」
都「……………………」
聞くや否や、たちまちあきれ顔で息をつく。
都「何を言いやると思えば……」
社「冗談ではございません。姉上が用意せぬとおっしゃるのなら、その寝間着のままさらってゆきますぞ」
都「…………………」 もう一度、ため息。
4,
見つかってはマズイと火はつけていない。
頼りは月明かりのみ。
若い二人の影は山道を急く(せく)。
都「本当に…………大丈夫であろうか…………?」
結局、社に手を引かれて出てきてしまった都。
家を何度も振り返る。
社「何、心配には及びません。どうせ父上は遊び女(あそびめ)をはらませているに決まっておる。跡取りなぞ、その中から選べはよいのだ」
都「……しかし、父にはお前だけが頼りなのですよ?」
『……そう、昔からそうであった……。父様は私なぞより社が可愛かった……』
それが悲しくて悲しくて……。
時には社など死んでしまえばよいと子供ながらに恐ろしいことを思ったりしたものだ。
だがその社が今は自分だけの味方でいてくれる。
社「では姉上はどうか!?」
突然立ち止まり、怒ったように勢いよく振り返った。
都「………………………………」
答えられずにうつむく。
都「ですが、私たち二人だけでやっていけるのでしょうか?」
社「何、大丈夫ですとも!!」
余裕たっぷりにまた先頭を歩きだし、都はまたチョコチョコと小幅でついていく。
自信だけはあるようだが、どこからそれが沸き起こってくるのか不思議でならない。
家を離れたことが一度としてない、ましてや良家のお嬢ちゃん・お坊っちゃん。
路銀は持って来たようだが、当然ながら、それもいつか使い果たすのである。
都『どうせいくばくも行かぬ内に“姉上、やはり帰ろう”などと言い出すのであろ』
そうなって家に戻れば叱られるのは決まって、都だけだ。
自然とため息が漏れる。
夜通し歩きつめて、東の空がほんのりと明らむ頃……
都「社、もうずいぶん来たのではありませんか? 少し休みましょう」
社「いや、せめてこの山くらいは越えなくては、すぐに追っ手が……」
都「一夜では山越えは無理です。それにもう、私は歩けません」
道端にへたりこむ。
社「……昔は姉上の方が足が速かったではございませんか。ホラ、立って」
都「今と昔は違いますっ!!」
スネて横を向く。
年は15,16。
すでに男女の体格と体力の差は歴然としてきている。
それに社は毎日、鍛練をしているかもしれないが、都は家の中で日々を過ごしているだけ。
幼い頃とは勝手が違うのだ。