HOME ≫ Entry no.551 「みやまよめな:6」 ≫ [556] [555] [553] [552] [554] [551] [550] [549] [548] [547] [546]
みやまよめな:6
2008.05.19 |Category …みやまよめな
かけおち
1,
母(妻)を亡くして、すっかり酒浸りになった父は、今日も朝からずっと飲んでいる。
夜になってもまだ酒瓶を手放さない父をいさめにくる都。
心配で社もついてくる。
都「父様、そろそろ月も高くなって参りました。お酒も少し控えた方がよろしいかと……」
父「おお、おお。都か。うんうん。お前はよう、母に似てきたなぁ」
都「父様、そんなにあおっては、体に毒です」
しかし、ちっとも聞いていない様子の父。
すっかりできあがっている。
父「ほんに美しくなった。それも妖術か?」
社「父上っ!!」
都「よい、社」
社「しかし、姉上…………」
▽つづきはこちら
父「都~」
都「はい、父様」
父「お前は本当に都なのか?」
都「…………は?」
父「本当はもののけではないのか?」
都「何を申されます……。……父様、酔ってらっしゃるのですね? 床の用意もできましたし、そろそろ……」
父「本当の都は七つのときにもののけに食われて死んだのじゃ」
ヨロヨロと立ち上がる。
都「父様、急に立たれますと危のうございます」
それを支える。
父「そして今はもののけが化けておるのだろ? ん? そうであろう?」
社「父上、ざれ言もいい加減になさい!!」
父「都の仇じゃ~!!」
突然、刀を抜いて都に切りつける。
が、社の剣がそれを弾き、父はひっくりかえってそのままイビキをかき始めてしまう。
都「…………………………」 呆然としている。
社「誰か!! 父上を寝床へ運んでおけ!!」
「……さ、姉上も……。部屋へ戻りましょう」
都の肩を抱いて歩きだす。
促されるままに部屋につき、とりあえず座らせられる。
都「……うっ…………ううう……」
社「……姉上?」
都「ううっ……ひっく……」
社「……泣いておられるのですか?」
都「……うう……」
社「姉上……」
抱き締めてやると、都はすがりつくようにして大声で泣き出す。
ひとしきり泣いてから、顔を上げ、
都「社」
社「はい、姉上」
都「私は嫁に行きます」
社「……なっ!? 突然、何を言われるのです、姉上!? あんなにまだ嫁に行くのは嫌だとおっしゃっていたではありませぬか!?」
都「父様は私を憎んでらっしゃるのです……。ですから、父様の目の届かない、遠い遠いところに行こうと思います」
社「おやめ下さい、短気はなりません。婚姻は一生のことですぞ!? そのような理由で簡単にお決めにならないで下さい」
都「……でも社……」
社「今に私がこの家の主(あるじ)になります。それまでご辛抱(しんぼう)の程を……」
都「………………………」
社「姉上には社がついております」
都「ありがとう、社……。私にはもう、お前だけが頼りです」
再び、両手で顔を覆う。
社「……………………。今夜はもう、お眠り下さい」
都「でも……」
心細い、という目を向ける。
社「姉上が眠るまで、側におります。ご安心を」
そう言われて、ようやく眠りにつく都。
側に座した社と手をつないだまま、小さな寝息をたてている。
月明かりに青く染まった都の寝顔を見つめながら、
社『おのれ、父上め。私の姉上をこんなにも悲しませ、婚姻のことにまで追い詰めるとは……。………婚姻など…………、姉上にはまだ早いわ』
「……………………………」
キリリと唇を噛む。
社「……毒でも盛ってやろうか……?」
かすれ声でつぶやく。