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みやまよめな:1
2008.05.18 |Category …みやまよめな
プロローグ
広場で人々に囲まれながら、火刑に処される女・都。
役人「鬼女の最期だ」
都「おのれ、おのれぇっ!! 神子であるこの私を…!! …愚民共め、許さないっ!! 絶対に!! 私は必ずや蘇り、汝らを滅ぼすであろうっ!!」
炎が大きくなる。
都「ぎゃあぁぁぁっっっ!!!」
人間の焼かれる臭い。
木の陰でそれを遠目に見ている若い男「……………」
▽つづきはこちら
もののけ
朝方、薄着ぬを頭からかぶった幼い都の手を引き、都の母は何本もズラリと並んだ朱塗りの鳥居をくぐりながら先の長い石の階段を上がって行く。
御神崎山(おみさきやま)にある、お堂を目指しているのだ。
息をきらせながら、都「母様、なぜ都だけお堂に行かなくてはならないのですか? 都は、恐ろしゅうございます」
母「ワガママ申すものではありません。我が帯刀家の女子は7つになったら、必ず御神崎様のお堂に身を清めに行かなくてはならないのだから」
都「おみさきさま…」
母「そう、御神崎様。いつも言っているでしょう? 7つになった女子は一晩、お堂に籠もり、帯刀家以外の者や男子に姿を見られてはなりません」
都「見られるとどうなるの?」
見られるとどうなるかは母も母の母(祖母に)聞いていなかったので、答えられなかった。
その代わりにこう答える。
母「お堂で一夜を明かすと身が清まり、将来は子宝に恵まれるし、災厄から身を守れるようになるのですよ」
そうこうしているうちにお堂につく。
到着した頃には、すでに昼。
母は紫の風呂敷包みを開いて、中から都に似せた人形を取り出し、彼女に持たせた。
母「よいですか都? この人形は貴女の身代わりになってくれる人形です。これを一晩抱いて、人形に命を吹き込むのです。そうすれば、これからの貴女に降りかかる災厄をこの人形が引き受けてくれるでしょう」
都、人形を受け取り、古ぼけた札だらけのお堂を見る。
母「辛いでしょうが、今日一日は食べ物も口にしてはいけません。お水だけは飲んでも構いませんからね」
と言って、竹でできた水筒を渡す。
母「明日の朝、母様(ははさま)が迎えにくるまで、絶対に、何が来ても扉を開けてはいけません。もしも、何かが声をかけてきても、絶対に答えてはいけません。絶対ですよ、いいですね?」
都「何かって、何?」
母「…わかりません。きっと……」 少し考え、
「きっと鬼です」
息を飲む都。
都「やっぱり嫌。母様、置いていかないで!!」
母「これ!! 聞き分けのないことを。大丈夫。母様もおばば様も大ばば様も昔はこうして身を清めたのだから。母様の言い付けさえ守っていれば、鬼はきません。ホラ、ごらんなさい。こんなにお札が張ってあるでしょう? 来る途中にあった鳥居にも。札が張ってある所は鬼には見えないし、入ってこれないのですよ」
それを聞いて、ようやく安堵のため息をつく都。
もう一度、何が来ても扉を開けるな、絶対に答えるなと言い含め、夕方、母は去って行く。
辺りはすっかり真っ暗闇。都は落ち着かず、ソワソワと周囲を見渡す。
お堂の中には何体もの人形。
人形は、たまってくると持ち主がすでにいない古い物から順に土に埋めていくことになっている。
気味は悪いが、仕方なく、お堂の扉を開くとガサリと近くの茂みが動いた。
驚いて跳び上がる都。
社「姉上!!」
出て来たのは、1つ年下の弟・社。
都とよく似た、女の子のような風貌。
社「こっそり母上の後ろをついて来たんだ」
都「社!! ダメでしょう、お帰りなさい!!」
社「大丈夫。社は一族の者だもの!! それに姉上、腹が減っていると思って、握り飯を持ってきたんだ」
都「……………」
結局、都は社と一緒にお堂に入る。
誰が来ても開けるなとは言われたが、まだ都はお堂に入っていなかった。
一緒に入れば大丈夫と勝手にこじつけた。
一人は怖かったから。
完全な夜になり、社は燭台と蝋燭と火打ち石を持ってきた袋から取り出し、火を灯す。
用意周到な弟に都はおにぎりをほおばりながら感心する。