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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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みやまよめな:18

 だいぶ離れた所まで来て、ふいに表情を硬く引き締め、

 

社「椿、今度のことは黙っておいてくれよ」

 

 椿の手を握る。

 

椿「……は、はぁ……」

 

 握られた手に視線を落とす。

 ドキドキしながらも、

 

椿『なんだってそんなことを?』

 

 潔白なら、わざわざ釘を刺さなくても……

 そんな疑問に答えるように、

 

社「妙な噂がたったら困ってしまう。………わかるよね?」

 

 顔を間近まで寄せる。

 

椿「は……はいっ」 緊張。

社「ありがとう。椿はいつも可愛いね」

 

 人懐こい笑顔を向ける

 

椿「えへへ…………そんなぁ

 

 うつむいてモジモジ。すっかりだまされた。

 

社『……まぁ、これで大丈夫かな』 小さくため息。

 

 椿が自分に強い関心と好意を持っているのは、以前から知っている。

 頼めばだいたいは言うことを聞いてくれるだろう。


▽つづきはこちら

社『でもまぁ、念のため……』

 「椿」

椿「は、はいっ」

 

 呼ばれてバッと顔を上げる。

 すると、唇に社からの軽い接吻。

 

椿「ッ!?」

 

 驚きに見開かれる瞳。

手にしていた、洗濯の衣類が下に落ちた。

 

社「これも二人の秘密だ、椿」

 

 ニッと笑って、足早に立ち去る。

 

 

2,

 しばらく後。

結局、社は都に会わず、あのまま出て行ってしまった。

 中庭では都と椿。

もちろん、行水は済んでいて、着物はちゃんと着ている。

都「…………いたような気がして…………………って、聞いていますか、椿?」

椿「………はっ!! す、すみません、何でしたっけ?」

 

 上の空。

 

都「ですから、誰ぞいたような気がして、気味が悪いのです」

椿「どの方角ですか?」

 『社様のことだ……』

 

 何とかごまかしてあげないと……そう思ったが、意外にも都はまったく別の方角を指していた。

 

都「誰ぞいるのかと叫んだところ、何処かに逃げ去ったようですが……」

椿「それは気味が悪いですねぇ」

 

 調子を合わせつつも、頭の中は社のことでいっぱい。

何度も先程の場面を反芻する。

 

椿「……はぁぁ……」 うっとりため息。

都「???」 その様子に小首をかしげる。

「大丈夫、椿? 少し疲れているのではないの?」

椿「い、いえ、そんなんじゃないんですぅ」 あわてて言いつくろう。

都「そう? ならいいけど」 納得いかない様子。

 

 そんな二人を屋根の上から見下ろす一つの目。

 

正体不明の者「……姫、迎えに来たぞ。待ちに待った二度目の“七つ参り”じゃ」

 

3,

 その頃、社。

都の館を出てすぐに乱暴に唾(つば)を道端に吐き出す。

 

社「……ちっ」

 

 家に戻り、井戸で組んだ水で口をゆすぐ。

 口元を袖で拭いながら、

 

社「………まぁいいさ。これで椿も他に口外(こうがい)しまい」

 

 それにもしものときは味方についてくれるハズ。

 考え事をしている後ろから、

 

万次丸「こりゃあ、社様。そんなトコで何してんですかい?」

社「!?」

 

 驚いて、身を固くし、思わず怒鳴る。

 

「………水を飲んでいるだけだ!!」

万次「……?」

  『声かけただけで怒るこたないのに……』

 

 社らしくない。

何をイラついているのだろう?

不思議に思ったが、また父親と何かあったのだろうと一人合点。

 それほどこの家の親子関係は悪い。

 足早にそこを去り行く背中を見送り、万次丸は肩をすくめる。

 部屋に戻った社は、隅にうずくまる。

 

社「…………………………………………」

 

 あらぬ方向に視線を止めて、じっとしている。

 頭の中では、姉の裸体と椿にしたことがグルグルと回っていた。

 

社「あああああっ!!!」

 

 ふいに現実に意識が戻り、髪をかき乱す。

 

「私はどうしてしまったのだっ!?」

 

 床に伏せる。

 

「しっかりしろ、社っ!! あれは姉だぞっ!? 姉だっ!! 血を分けた姉弟(きょうだい)でっ!! 私は弟として慕っているだけでっ!! いつか姉は何処かへ嫁ぎ、私は何処ぞから嫁をもらうのだ。何のことはない、………それだけだ…………」

 「…………………………………………………」

 

 突如、口を噤む(つぐむ)。

 そして、また、

 

社「ううううう~………っ!!!」

 

 床を爪で引っ掻く。

 はいつくばった姿勢で、

 

社『……………………女だ……。女が要る。姉上でない、女が…………』

 

 目を血走らせて床の木目を凝視する。

 その姿は危機迫るものがあったが、幸い、ここには誰もいない。

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