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みやまよめな:22
2008.05.23 |Category …みやまよめな
5,
衛兵を増やしたにもかかわらず、黒百合は毎日届く。
社『くそっ!! どこのどいつだっ!? 絶対に引っ捕らえて首をはねてくれようぞ』
どこの誰とも知れぬ者から届けられる花を都が愛でているのが気に食わないが、初めに嘘をついてしまったために捨てろとは言い出せない。
ある日の朝。
都が目を覚ますと今日は障子の内側そばに黒百合。
都「??」
寝転んだまま、手を伸ばして取る。
都「夢と…………同じ?」
実は今朝まで夢を見ていた。
男がこの花を届けにくる夢を。
▽つづきはこちら
本当はたいぶ前から、男の影が障子に写って何かを置いていく夢は連続で見ていた。
それを周囲が社が花を置いていっているのだと言うから、その気になっていたが、今日の夢は違っていた。
都「今日は…………障子を開いた」 目をパチクリ。
『アレは…………社なのか?』
その日、また社がやってくる。
都「社!! 今朝はお前……」
さえぎって、
社「姉上。戦にゆくことになりました。しばらくは顔を出せませんが、お体に気をつけて健やかに日々、お過ごし下さい」
都「まぁ、社!! 気をつけてはこちらの言うこと」
社「いやいや。私は姉上の占いがついておりますゆえ。心配は無用でございます」
都の占いにて、勝ち戦とわかっていてゆくのである。
都「………戦、戦と何処まで他の地を攻め入れば気が済むのでしょう、父様は」
眉を寄せて、悲しげにうつむく。
社「姉上……」
都「私がどう占っても、人は死ぬのです。占いが当たるから父様は戦を続けなさるというのならば、私は……」
社「…………………」
巫女「神子様、戦(いくさ)前の武士(もののふ)に不吉なことを……」 たしなめる。
都「あ、そう……そうでしたね。これはいけませんでした。許せ、社」
社「はい」
挨拶を済ませ、立ち上がる。
部屋を出て行こうとする背中に向かい、
都「無事を祈っておりますよ」
社「…………はい」
6,
戦の場面。
鬨の声と共に敵味方が入り交じり、殺し合う。
社も自ら馬を駆って、戦場を走り抜ける。
一振りの剣は周囲に空気の刃をまとわりつかせ、離れた敵の首さえも跳ばす。
返り血に濡れるたび、社は狂おしいばかりの歓びに身を震わせる。
だが、今回に限っては我を忘れて歓びに浸ることはなかった。
配下としてつけられた猛とかいう男のせいだ。
社『アイツは一体……!?』
今まで神憑り(かみがかり)な強さを誇っていたのは、社、唯一人だった。
それが……
猛「うおぁぁぁぁぁーっ!!!!!!」
咆哮。
獣じみた猛の持つ武器は普通の日本刀ではなかった。
巨大なナタのような剣。
それを難無く振り回し、軍馬さえも一撃のもとに断ち割ってしまう。
刃物は切るなんてものではなかった。
手にする得物は槌でも岩でも奴にとっては変わりないのかもしれない。
圧倒的なただ、力。
腕力。
社『人なのか!!?』
ウソだ、あり得ない。
無茶な使い方をして、得物が壊れると今度は素手で敵に立ち向かう。
社『無茶苦茶だ……っ!! しかし……これで死んでくれるのなら、それでいい……』
得たいの知れない猛を本能で恐れていた。
それは社だけでなく、皆が思っていたこと。
だが猛の死を望んではいたが、決してそうはなるまいとも予感した。
猛「馬をもらうぞ、若造」
言うなり、地を蹴って敵の馬上に飛び乗る。
敵「うわぁぁっ!!?」
社「そんなバカな……!!」
猛「ハアッ、ハアッハッ!!!!」
獣のような、低く生臭い声で笑う。
前にいる馬の持ち主の首と頭をつかみ、グルリと一回転。
敵「かっ!? あ……」 絶命。
猛「フーッ、フーッ」
さらに回してねじ切り、滴る血を飲み干す。
ごくり。ごくり。
社「うっ、ううっ……な……何をしているっ!! 敵を打ち倒せっ」
猛「……ん?」
馬を寄せて来た社に気づく。
猛「そんなに青い顔してわめくな、坊主」
社「何っ!!?」
猛「胆(キモ)が小さいと言ったんだ、怖いなら帰って姉の背中に隠れておれ」
社「……!! なっ……な、な……このっ……貴様……っ!!」
図星突かれて赤面。
悔しくて歯軋り。
社が怖かったのは戦そのものでも命の駆け引きでもなくて、この目の前の男ただ一人。
その本人に虚勢を見抜かれて、頭に血が上るほどの屈辱感。
社「貴様っ!! 口にしていいことと悪いことがあるっ!!」
猛「オイオイ。相手はワシではなかろう、坊主」
社「坊主と言うなっ!! いくら父上の気に入りとは申せ、いい気になるなよっ。いずれは私が当主となる身なのだからなっ!!」
猛「…………………………………」 黙る。
社「……ふん。ようやく己の立場を理解したか」
勝ち誇り、言い捨てて先を行く。
猛「……………………………」 ニヤリ。