HOME ≫ Entry no.577 「みやまよめな:23」 ≫ [582] [581] [580] [579] [578] [577] [576] [575] [574] [573] [571]
みやまよめな:23
2008.05.26 |Category …みやまよめな
7,
この間までは障子に映る影だった者が、今度は障子を開いてそっとその場に黒百合を置いてゆく。
そしてまた状況が変わった。
障子を開けてそこに黒百合を置いていたのが、蚊帳の側になっていた。
都「どういうことでしょう?」
『部屋に踏み込んだ?』
朝起きて、蚊帳の外の黒百合を手に取り、さすがに眉をひそめる。
都「いくら弟とはいえ、いくら私を喜ばせようとの気遣いとはいえ、寝ているところに忍ぶなどあまり行儀がいいとはいえませんね」 プンプン。
「姉だからいいようなものの……。女子に対する礼儀と扱いを知らぬと見える。少し注意してやらねば」
言って、気づく。
都「……!! 社は………社はおらぬのではないですかっ!!?」
▽つづきはこちら
そうだ。
今は戦に出向いて、この地にはいないハズ。
都「イヤーッ!!!!」
叫んで黒百合を捨てる。
巫女たち「神子様っ!? どうなされましたかっ!?」
どやどやといっせいに集まってくる。
都「父様をっ!! 父様を呼んでっ!!!」
呼ばれてやってきた父「どうした、どうした、都?」
震えてすがりついてくる娘の頭をなでる。
以前にはない優しい行為。
もちろん、本音ではない。
都「誰ぞ、曲者(くせもの)がっ!!」
父「それはないぞ、都。何十の兵がこの館を守っておると思うておるのじゃ。大事な娘にふとどきな輩を近づくことなぞ、この父が許さぬからの」
都「ですが、ここに黒百合が……」
『……あっ!!?』
父の顔を見上げて、思わず声をあげそうになる。
すんでのところでこらえて、そっと離れる。
父「? どうした」
都「……いいえ。父様のお顔を拝見できましたら、少し落ち着いたようでございます」
あわてて、ごまかす。
父「おお、そうか、そうか。心配は無用ぞ、都」
あまり相手にせず、また引き返して行く。
都「……………………」
その背中を凝視する。
都『……アレは………父様か? 何か不吉な……』
黒紫のような毒々しい色の蛇たちが父の周囲で蠢くのを見た。
無論、現実に蛇がいたのでない。
また例の幻視である。
都『父様の身に何か恐ろしいことが起こらねばよいのですが……』
『何にせよ。皆、信じてくれぬ。己(おの)が自身で何とかせねば……!!』
そんなワケで、今夜は眠らないと決め込む。
夜。
初めは不埓者を叱ってやろうと息を巻いていた都だったが、夜が更けてくる頃になると徐々に心細くなってくる。
都「は~……、負担をかけてはいけまいと共を頼まなかったのが失敗でしたね」
蚊帳の中でしょんぼり。
都「………………」
カタン……と小さな音がなり、あわてて周囲を見回す。
……しかし、何もない。
ただの風の音だったらしい。
それの繰り返し。
都「ふ~……」
いちいち怯えているのが、段々と馬鹿らしくなってきた。
都「実害もないのだし、構うまいか?」
眠くもなってきた。
都「よく考えてみれば、内々の仕業ではないか? 皆、巫女たちは違うと言うが、それ以外あるまいよ」
独り言。
都「きっと社が、自分が出掛けるから花は届けられないと、巫女の誰かに頼んだに相違ない」
それをこちらで大騒ぎしてしまったから名乗り出ることができなくなってしまったのかもしれない。
……つじつまがあった。