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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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みやまよめな:19

黒百合

1,

 夏。

 最近、身元もハッキリしない、名もない野武士が帯刀家に召し抱えられた。

 色黒で体格のよい、いかにも男臭い、好男子。

細面(ほそおもて)で色白の社とは正反対。

 帯刀の頭目は身分ばかりに気を取られるので、こんな何処の馬の骨ともわからない田舎侍がわざわざ召し抱えられるのは今までにないことだった。

 

社「何なのですか、あの無礼な男は?」

父「良いであろう、山崎 猛(やまざき たける)という男じゃ」 満足気。

 

 父の相当のお気に入りらしく、帯刀家を我が物顔で出入りしている。

 

社『なんか気に食わない男だな……』 うさん臭い。


▽つづきはこちら

 

 猛は隻眼(せきがん)で黒い眼帯をしている。

無口でいかにも無骨物といった風体。

 初対面の社を値踏みするように見て、小馬鹿にするように鼻先で笑った以来、すれ違っても挨拶すらしてこない。

 

社「くそっ。跡取りの私を何だと思っているのだ」 悪態をつく。

 

 何があったかは知らないが、父の気に入りようは異常。

 社を差し置いても跡をつがせるかもしれないと周囲に囁かれる程になっていた。

 ひょっとしたら、昔の妾の子かもしれないとの噂もあったが、男の年頃を考えると親子ではなさそうだ。

 

社『いいさ。勝手にするといい。そしたら、私は姉上と……………』

 「………………姉上……か……」

 

 つぶやいてうなだれる。

 水浴びする都の姿を覗いてしまったあの日から、社は女遊びをするようになってしまっていた。

あれだけ嫌っていた父のように、泥酔するまで酒に浸り、女を囲って夜更けまで騒ぐ……。

 もちろん、家ではそんな陰は見せない。

 隠れて町のいかがわしい場所へ足を運んでいるのである。

 そうして遊んだ後でふと我に返ると、決まってとてつもなく大きな後悔の波が押し寄せてきた。

 毎度そうなるのはわかりきっているのだから、やめればいいようなものだが、それがそうもカンタンにはいかない。

都のことを想うと他の何かでごまかすより仕方なくなってしまうのである。

 自分はまともなのだと証明するように、または何も考えないように、あるいは都の代わりとしているのかもしれない。

また、その全ての意味があるのかもしれない。

 社は今、自分で自分を持て余していた。

やっていることはメチャクチャなのに、それを抑える術がわからない。

 自然と都の館にも足を運ばなくなり、避けるようになった。

 

2,

 都の方では頼りの社が来てくれなくなり、心の支えを失って、また床につく日が多くなっていく。

 悪夢はひどくなるばかり。

毎晩、悲鳴をあげては皆を騒がす始末。

 食も細く、やせてきてしまっている。

軟禁状態は精神を追い詰め、限界に近づけてしまっていた。

 

都「社!! 社、社、社っ!!! 社は何処(いずこ)っ!?」

 

 狂ったように叫んで、寝間着姿のまま廊下を徘徊する。

 困ったように、

 

付き人「神子様、御心(みこころ)をお鎮め下さい」

 

 都を追いかけて、たしなめる。

 

都「社がおらぬっ!!」

付き人「社様もお忙しいのでありましょう」

都「姉がこんなにも苦しんでいるというときにあの子は……っ!!」

 

 都のイラ立ちを増幅させるのは、社が酒と女に溺れて堕落しているという噂。

 

都「社を呼びなさいっ!!」

付き人「神子様……」

都「社、来()やっ!!!!」

 

 ヒステリーを起こす。

 けれど、この日も社は現れない。

 

付き人『なんで神子様は弟の社様ばかりこんなにお呼びになるのかしら………?』

 

 付き人の間では、都が弟に特別な情を持っている……つまり弟ではなく、一人の男性として見ているのではないかと密かな噂。

 部屋に連れ戻された

 

都「うっうっ、姉の元におると………いつでもいてくれるとあんなに約束したのに………」

 

 背中を丸めて嗚咽をもらす

 

都『……占いで人を殺して何が“神子”か……。もう、こんな力はいりませぬ……』

 

 ふて寝していると、外に人の気配。

 

都「誰です? おキヨか? ……ハル?」

 

 だが、返答はない。

 気配は去って行く。

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