みやまよめな：１７

　その頃、都は今朝もまた中庭の隅で、清めの儀式を行っていた。

　椿の祖母の勧めで一年前から毎朝、身を清める儀式を始めていた。

　儀式といっても、ただ朝一番に冷水を浴びるといった単純な気休めだったが、それでも厄が落とせるような気がしてこれを習慣としている。

　儀式をしている時には誰も近寄らないし、またここには女子しかいないので、見られたからとてどうということでもない。

　…………が、今日に限っては勝手が違っていた。

 

都「……！？」

 

　気配を感じ、さっと振り向く。

　しかし誰もいない。

 

都「…………気のせい？」

 

　また裸体に冷水をかぶると、やはり誰かに見られている気がした。

 

都「誰っ！？」

 

 

　その、ほんの少し前の時間。

 

社「姉上に会いにきた」

 

　入り口で巫女と話す社。

　許可を得て門をくぐり、館の廊下を歩く。

　館は都と数人の世話役女しかいないので、ガランとしている。

勝手知れた所なので、当然、案内もない。

門で許可さえもらえば、あとは自分で勝手に姉の部屋を目指すのであった。

 

社「姉上、姉上……っと。……ん？」

 

　縁側を歩き、ふと水音に気づいて立ち止まる。

 

社「…………？」

 

　そっと足音を忍ばせてまた縁側の廊下を進む。

 

社『着物……？』　

 

すぐ側の庭木の枝に都の物と思われる着物がかけてある。

 

社「…………ッ！！」

 

　姿を確認せずとも水浴びをしているとわかって、少しの興奮を覚える。

　うろたえて思わず辺りを見回し、その視界に女の裸体を見つけてしまう。

　別に見ようと思ったのではなかった。

　脱いである着物を見つけてしまい、妙な疑いをかけられては困るので、周囲に人がいないかと確認しただけだ。

　…………そのつもりだったのに…………

 

社『あっ、あっ、…………姉上っ！！？』

 

　青々と生い茂った木の葉のおかげで向こうはまだこちらに気づいていない。

　だがこちらからは、ちょうど切れ間から確認できる位置。

 

社「…………………………………………………………………………………………」

 

　早々に立ち去らねばならない。

　だが、視線は釘付け。

　呆然として立ち尽くす社。

 

社『…………姉上…………』

 

　軽い目眩(めまい)がした。

 

社『…………姉上……、姉上……』

 

　自分の中の、強い劣情を感じる。

　乳房などが見えていたわけではない。

上半身の背中のみだ。

　しかし、柔らかい曲線に縁取られた白い背中に緑豊かな黒髪が張り付く様は、まだ思春期の男子の気持ちをかき乱すのに十分すぎた。

　その場から動けないでいる社の背中を遠目に椿が発見。

 

椿「！！　社様っ！？」

社「！！」

 

　ぎくりとする。

　……が、振り向いた時には、いつも通りの表情。

もちろん、無理に作ったもの。

 

社「……シ～！！」

 

　唇に人差し指を当てて、黙れの合図。

手まねき。

　椿、よって来て、

 

椿「何をなさっておいでですか、ここは……」

社「わかっているよ」

椿「……………………………………」

 

　二人、その場を離れ、共に廊下を進みながら、

 

社「嫌だな、椿。さっきから何だい、その目は」

 

　肩をすくめる。

 

社「……まさか、私を疑っているんじゃないだろうね？」

椿「……そうじゃ……、ありませんけどぉ～……」

 

　明らかに疑いの眼差しの椿。

 

社「姉の行水を覗く程、私は堕ちてはいないよ。………椿の行水なら見たいけどね」　ニッコリ。

 

椿「なーに言っちゃってんですかっ！！」

 

　頬を赤らめて、社をポカスカ叩く。

 

社「痛い、痛い。はははははっ」

 

　とりあえず、ごまかし成功したらしい。