HOME ≫ Entry no.564 「みやまよめな:16」 ≫ [569] [568] [566] [565] [567] [564] [563] [562] [561] [560] [559]
みやまよめな:16
2008.05.22 |Category …みやまよめな
3,
場所は変わり、父の部屋。
都「もう国も広くなりました。充分でございましょう。これ以上はただいたずらに人々が傷つくだけでございます」
座して、両手を前に重ね合わせ、深々と頭を下げる。
父の怒りを少しでもなだめようというしおらしい態度のつもりだったが、まるで無意味。
父「今更何を言うかーっ!!」
いきり立つ。
父「これから、これからという時ぞ!! お前の先見(さきみ)の力さえあれば、父は天下統一できるやもしれないのだぞ!!?」
▽つづきはこちら
都「……また天下などと大それたことを……」 困り顔。
父「おっ!? おっ!? 大それた夢と申すかっ!? わしには無理じゃと!? そなた、馬鹿にしておるのか、この父を!?」
あわてて、都「とんでもございません。……ですが、都はもう嫌でございます」
父「たわけっ!! かようなワガママが通るとでも思うたかっ!?」
都「父様っ……!!」
父「ええいっ!! お前は占いだけしておればよいのじゃっ!!」
都「………………父様……」
その後、父は都のためと称して、無駄に大きく無駄に飾った堂を建築。
“神子の館”と父は名付けたが、後に“見子の社”と呼ばれることとなる。
読み方は「みこ」とも「みやこ」とも。
意味は「(先を。未来を)見る子」、あるいは「神子」であり、「巫女」。
だが、これらはずっと後々の時代に形を変えて伝わったものであり、今はただ尊大な田舎侍が思い上がりで立てた形だけの堂でしかない。
父「どうじゃ、都。お前がこの館の主ぞ」
都「…………………………………………」 浮かない顔。
父「これからも、父のために占っておくれよ」
結局、逃げ出さぬように半分軟禁状態で都はこの館に入れられてしまう。
きらびやかな聖堂と共に、父のばらまいた勝手な宣伝効果で、人々は都を神聖視するようになっていき、一種の小さな宗教のようになっていった。
毎日、遠くからわざわざお祈りのために訪れる人々が後を絶たない。
その一方で都はやはり、父に強制されて戦占いに明け暮れる日々。
占いの力は以前にも増し、まるで占いに合わせて物事が動いているように思える程だ。
神秘演出のため、民に姿を見せるなとまで言われ、ほとんどの時間を館内で過ごすことに。
館にいるのは女子だけで、皆、一様に上は白の装束に紅袴のおなじみ巫女姿。
男子が近づくと穢れ(けがれ)ると言って、館に踏み込んでよいのは血を分けた父と弟だけ。
無論、こんな決まり事を作ったのも身勝手な父である。
椿「あ~っ!! もぅっ!! お館様はけったいなことばっかり考えてっ!! 都様の幸せを考えたら、良いところの殿方と引き合わせるくらいしたらどーなんでしょ!?」
都「…………」 ため息。
椿「おなごはいつも男のいいなりでなくてはならないなんて……!! とんでもないっ!! ……まったく。お偉いさんは大変ですねぇ。ウチなんかは女が強いですけどね。とーちゃんはかーちゃんの尻の下にすかれっぱなしだし」
ペラペラと相変わらずよくしゃべる。
都「…………………」
椿「……都様……?」
都「…………………」
椿「……………………」
一緒に黙ってしゅんとする。
七つ参り
1,
また月日は経ち、都17歳。社16歳。初夏。
占いを的中させる度に都は悪夢にうなされ、罪悪の意識に蝕まれ、心を病んでいった。
そんな中でやはり唯一の頼りは弟。
その社が戦に出るとなるといてもたってもいられず、昼も夜もなく無事を祈った。
社「今日も姉上のために花を摘んでゆこうか」
姉を少しでも元気づけるためともう何年も育てている“みやまよめな”を摘み取って、館を目指す。
社は実のところ、この館はよいと思っていた。
姉に会える男性は父か自分しかいない。
姉に恋慕する男衆もこれでは寄り付けまい。
それに孤独がいっそう強くなった都は以前にも増して社に頼ってくれていた。
社『姉上には私しかおらぬのだ』
その優越感を作り出してくれたのは、他でもない、この館で軟禁という状況だ。
姉には悪いが、こちらとしては嬉しい限り。