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みやまよめな:20
2008.05.23 |Category …みやまよめな
都、のろのろと起き上がって、障子を開く。
都「……?」
すると縁側に黒百合の花。
都「……まぁ」
手にとって口元に久しぶりの笑み。
都「社? 社ですね? どこにいるのです?」
キョロキョロと辺りを見回す。
しかし、それらしき姿はない。
都「…………………」
『……叱られると思って、逃げたのかもしれませんね』
▽つづきはこちら
3,
その翌日から毎朝、起きてみると同じ場所に黒百合。
花を届けるのは社の仕業に違いないが、その姿をいつも見つけることはできず、ただ花だけがあった。
決まって毎日、珍しい黒百合。
みやまよめなは初夏の花なので今はない。
これはきっとその変わりなのだろうと思う。
…………が、しかし…………
社「黒百合? そんな物は知らないぞ!?」
今日も家を出て行こうとする社を椿が捕まえて、例の花のことを話した。
椿「知らないですって? ……じゃあ一体誰が……??」
社「…………………………」 眉間に深くシワを寄せる。
椿「……ああ」
椿が急に一人、納得したようにうなづいた。
社「わかったのか!?」
椿「社様がずっとお見えにならないんで、都様がここしばらく大騒ぎなんですよ」
社「……え?」
椿「社様が来ない、来ないって毎日、手がつけられなくて……」
社「……姉上が………私を?」 ドキッとする。
椿「ええ、そうですよ。もう大変なんですから~。だからきっと、社様が実は来ていて、都様を気にかけてらっしゃるって演出を誰か巫女の方がやったんじゃないですかね」
社「……他の男というのは!?」
椿「ありませんよ。入り口は一つで通った形跡はありませんし、あの館の周囲には見張りが沢山見張っているんですから」
社「そ……そうか……」 ホッ……
椿「それより、社様っ!! 女遊びをしてらっしゃるって本当ですかっ!?」
社「…………うっ」
椿「あんまりじゃないですか、こないだは私に……っ!!」
社「ああ、わかっている。少しイライラしていたんだ。だから……」
頭を振り、
社「もう女遊びはしない。…………約束しよう」
椿「!! 本当ですかぁ、社様っ!?」
社「本当だ。心配かけてすまなかったね、椿」
椿「はいっ」
社「それじゃ、知らせ、ありがとう。姉上の所にも近々、顔を出すことにする」
手を軽く振って部屋に戻って行く。
椿「♪ 良かった、町にゆかれるのをおやめになってくれたんだ」
「これも愛の力かねっ!?」
背後から桶をかついだ万次「ばっかじゃなかろーか?」
椿「むっ!? 何だって!?」
万次「本気にしてんのかね、お前さん」
椿「してるよ。何がおかしーんだいっ!?」
万次「……おかしく思わない方がおかしいだろうに」
椿「むっ!! 何だいっ、ふーんっだ」
むくれて行ってしまう。
万次「絶対、遊ばれてるな」
肩をすくめる。
万次『だいたい何だって……』
椿の後ろ姿を見送る。
万次「……でっけーケツ……」
『あんな美人の姉さんがいて、ご自分も美男で身分もあってよ? 女もより取りみどりだってーのに、使用人なんか相手にするもんかね。いくらベッピンだって、遊ばれて終いよ』
しかも、椿はベッピンというほどでもない。
万次『今は社様もお若いから、恋を本気だと思っていたとしても、いずれどんな女にも飽きがくるのさ』
肩をすくめる。