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みやまよめな:15
2008.05.22 |Category …みやまよめな
社『……くそっ……』
“確かに”。
……と、社は思った。
確かに社はずいぶんな姉っ子で、どこに行くにも同伴していた。
それは大きくなった今も変わらず、よそ様から見たら、奇妙ですらある。
いい年した男子が姉の背ばかり追いかけているのだから。
これでは甘ったれなどと言われても文句は言えないし、おもしろおかしく下品に脚色している輩もいるやもしれない。
……目の前にいる父だけに収まらず。
社『別に……。別に私は甘えているワケではない。父上がこんなだから、私は姉上をお守りしていたのだ。悲しんでいる姉を支えるのが弟の勤めであり、困っている女子をかばいだてするのが、男の役目だろう。…………………………男の』
今はこの場にいない都を思い浮かべる。
▽つづきはこちら
社『姉上は美しい。アレに比べればどんな女も色あせよう。だが、だからと言って、私だけがそのように思っているワケでなし、あの容姿は誰もが認めるところだ。つまり、私は一般に思われていることを現実として思っているだけで、別に……』
心の中で沢山の言い訳を並べる。
本当は以前から薄々、自分はおかしいのではないかと思っていたが、慕う気持ちが大きいだけと無理に納得させていた。
七つ参りの夜。
自分は何か事故に遭って大ケガをしたのだ。
そのときに命懸けで救ってくれたのは都。
そんな姉への恩返しが弟としての領分で忠誠の心なのだ、と。
社『命を守ってくれた方を慕うのが何が悪い?』
ちっとも悪くはない。
そうだとも。
一人でうなづく。
外の椿「…………………………………」
黙ったまま、椿は障子に映る社の影を見つめた。
2,
都は夢を見る。
戦の夢。
実際に戦場に行ったワケでもないのに鮮明に脳裏に現れる。
武士や足軽たちが次々と倒れて行き、巻き込まれた村々の衆が無残に殺されてゆく。
そしてそれらが、死んだままの姿で都に寄ってくる。
「痛い、助けてくれ」と。
声「都様、都さまぁ」
都「……ハッ!!」
目を覚ます。
声の主・椿「大丈夫ですか、都様ぁ。だいぶうなされとったみたいですけど?」
都「ああ、ありがとう、椿」
気が付けば日が傾き始める午後。
外の景色を眺めている内に、うとうと眠ってしまっていたらしい。
椿「? どうなすったんで?」
しばらく黙った後で、都「ねぇ、椿?」
椿「ハイッ」
都「私のしていることは、人殺しの片棒かつぎではないかしら?」
椿「なーにをおっしゃいます!? 都様の占いがあるからこそ、こっちは死者が少なく、国も安全でいられるんですから。一方で助けているんですよ」
あわてて言い繕う。
都「そ、そうですね。占わなければ、こちらだって被害が大きくなるのですものね」
『……でも……』
初めのうちは父に褒められたくて、戦を占っていた。
しかし、しだいに先のような悪夢に悩まされる事が多くなり、良心の呵責に苦しみ始める。
都『人を捜し出したり、溺れた子供の居場所を突き止めたり、薬草を当てるまでは良かった……。人を救うためのことですもの。神様も許してくれたでしょう。だけど、コレ(戦)は違う。利益のために悪用しているだけ……。このままでいいハズがない。この力は御神崎様から賜った(たまわった)力……。正しい道に使わないといずれ災厄が訪れるかもしれない……』
また黙ってしまった都に、
椿「どうなさいました?」
都「いいえ……」
『そうだ、父様に進言しよう……』