鎮「やるかやらないかの判断は、今決めずともよく考えてからでいい。試験開始までまだ間があるからな」
メイディア「何故そのような話をワタクシに?」
鎮「……姫及び、守護石を守ることを条件に貴族の地位をくれるというのだ。拙者には不要だが、よくすればお前様に譲れる。拙者の代わりが務まるならば向こうはそれでよいのだからな」
メイディア「つまり……返り咲けると?」
鎮「さよう。お前様が望むのなら……だが」
深刻な表情で黙ってしまったメイディアの様子を見ながら、さらに鎮は続けた。
鎮「このまま争いから一線を退き、どこかの誰かと身を寄せて生きて行くのが最善のような気がする」
メイディア「…………」
うつむいた顔を上げる。
鎮「しかし貴族であったことを誇りにしておったお前様が今もまだ野心を秘めておるならば、これ以上の話はなく、また公爵を自らの手を加えて倒すことで気持ちも晴れよう。それらをこなせばまた家族に大手を振って会いに行ける。だから話を持ってきた。どうだ?」
メイディア「……先生はどうお考えなのでしょう?」
鎮「……全ての争いから遠ざかり、気の合う者と小さな幸せをまっとうすること」
メイディア「では何故ワタクシに力をつけさせるように仕組んだのですか?」
鎮「選択肢を広げるためと、今後、どのようなことがあろうと力に屈しないためだ。……この世は、力だけだ。身を守る術はいくらあっても困ることはない」
メイディア「…………………………」
鎮「よいか。よーくよーく考えるのでござるぞ? 面子だけで考えるな」
メイディア「……はい」
鎮「迷うなら、まだ決めずともよい。試しに今回だけ参加してみるのも良いと思ってそのイカス衣装でござる。正体を隠すにはもってこいでござろう」
メイディア「な、なるほど」
お土産として受取った薔薇騎士レンジャー変身セットにはそんな意味が込められていたのか。
鎮「試しといえど、向こうが仕掛けてくる可能性は高確率でござる。心してかからぬと連れ戻されかねぬからな」
メイディア「……う」
鎮「……話はそれだけだ。地図も渡しておこ」
地図にはクロエとリクの他に共に行動するチームのメンバー名がメモされていた。
メイディア『……クロエが姫君……』
何となく納得だ。その頂に王冠が収まった姿を思い浮かべる。
小春の陽だまりのような優しさを常に抱いた彼女ならば、きっと民に好かれる立派な女王になることだろう。
それからリクを思い浮かべたが……
メイディア「……その宝石を売り払っておなかを満たすものに使っていないでしょうねぇ」
……リクはどうやら信用がないようだ。
鎮「そ……その心配はないでござるぞ。ヤツの目玉がそうだからな」
メイディア「……良かった」
鎮『……リクよ……』
密かに同情。でもちょっとざまーみろ。
あれだけ少女たちにリク君リク君ともてはやされているが、ここではただの食欲魔人でしかないようだ。
メイディア「先生。ワタクシ、……参加してみますわ」
鎮「よいのか?」
メイディア「もう貴族でなくともよいとは思っております。初めから貴族などではなかったことですし。でも……」
もう一度、手にした地図に目を向ける。
メイディア「ご存知ワタクシ、他人に負けることを良しとしない性格ですの」
鎮「うん」
メイディア「公爵の影に怯えたままなんて嫌だわ。ぎゃふんと言わせてやります」
お澄まし顔で、出た。
ぎゃふん。
今のところ、それが叶った試しもないのに。
メイディア「それに姫様にご恩返しをしたい。姫の方がワタクシよりも強いから、お役に立てるかわかりませんけれど、少しでも力になれれば嬉しいわ」
鎮「念のために聞くが、リクは?」
メイディア「リクはどうでもよろしい。別に何もお世話になっていませんもの」
鎮「……あ、そう」
メイディア「ワタクシがどのくらい力をつけられたのか、試すのも面白いでしょう」
これを聞いてずいぶんと持ち直したものだと鎮は妙に感心した。
さすがはメイディア=エマリィ=シャトー。
口だけは立派なものだ。
何も怖いものなどなかったであろう、世間知らずの3年前を思い出させる。
けれど彼女はもう3年前とは違う。
挫折も恐怖も知って、一方で人を信頼することを覚えて、今がある。
鎮「高飛車お嬢様、完全復活でござるな」
ニヤリと笑ってみせるとメイディアも合わせて不敵に微笑んだ。
メイディア「そうですわ! 黒薔薇の貴婦人・メイディア、ふっかぁーつ!! オーッホホホホホホ! 首を洗っていらっしゃいな、リクレス!! 生まれ変わったワタクシの力の前にひれ伏すが良い!!」
ダンッ! テーブルの上に片足を乗せて高笑い。
鎮「まぁ、待て。落ち着け、ゴールデン。敵はリクレスの二人ではござらぬぞ」
メイディア「ホーッホホホホホ!」
鎮「……聞いてないか」
メイディア「聞いておりますわ、先生」
高笑いを引っ込めて、呆れ顔の鎮を見下ろす。
メイディア「ワタクシはやります。やってみせます。公爵をあのままのさばらせておくものですか!腹から内臓を引っこ抜いて、苦痛に満ち満ちたダンスを躍らせるの。焼けた鉄板の上で踊るウジ虫のようにね! アッハハハッ」
鎮『……姫君をお守りすることは、どこへ言ったのだ?』
「あまり初めから欲をかくでないぞ? その場になったら怖気づく可能性巨大ビックのクセして」
メイディア「先生も来て下さるのでしょう。ならば問題はないはずです!」
鎮「……どーだか」
かくして、執念深い元・お嬢様の復讐の狼煙は上げられたのである。
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