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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-17

 炎座と鎮が死闘を繰り広げていた頃の冴牙は、見つけた人形にまんまとだまされて追いかけていた。
 無論、見つけたからといって他の連中を呼ぶつもりはなかった。
 一人でも充分に倒せるという自信があり、また誰にも邪魔されない場所で“遊び”に興じるのもよいと思ったためだ。
 
冴牙「本当は観客いた方が燃えるんだけどなァ。ヒヒッ」
 
 熱を帯びた身体を満足させなければならないと強烈に切迫した思いに駆られていた。
 昔から泣かせるのが好きだと言ったのは、冗談などではなかった。
 鎮が10だとすると彼は6つ上の16歳だ。
 氷鎖女の村では、いや、東の国では15を過ぎれば一応は大人の仲間入りとされる。
所詮、若造の扱いだがそれでも大人としての責任を負わされるのである。
 それだけ年が離れていれば普通はそうちょっかいを出さないものだが、冴牙は違った。

▽つづきはこちら

 相手を泣かせることにある種の喜びを覚えていた。
 それは相手を征服したことであり、屈服させたことだ。己の優位を確認することに他ならない。
 彼自身も気づかない心の奥底で、あの魔性の瞳に恐怖していた。
 恐れていたからこそ、執拗に責め立てて苛め抜いた。
 許されなかったから殺さなかっただけで、もし許可が下りていれば間違いなく息の根を止めていたに違いない。
 恐怖を払拭するために彼は必至になって6つも下の子供を屈服させようとしたのである。
 鎮が泣くたびに、這いずり回って許しを請うたびに、征服してやったという高揚感と安心感が心を満たした。
 恐怖の対象=強い者……それを抑え付ける快感。
 これが彼の悦楽の源だったのだ。
 幼女のようだが幼女ではない。年が離れて足も出ない子供なのに恐ろしい。
 育つ経緯でこの矛盾と曖昧さが彼の中の基準を狂わせていった。
 ありとあらゆる手段を講じて、何度でも彼は自分が上であることを確認したがったのである。
 10年以上も経って再会したときは体中の毛が逆立った。
 全身の血がかっと火照って、うずいた。
 得体の知れないモノと出会ったときに人が取る行動は二種類だ。
 恐れて関わらないよう遠巻きにするか、身を守るために攻撃的になるか。
 冴牙は後者だったのである。
 放っておけば噛み付いてこないものを放っておくことで生じるあらゆる不安。
 そこから解放されるために、またこの得体の知れないモノが脅威ではないことを確認するために彼は傷つけるのだ。
 
冴牙「待てよ、鎮ちゃん。俺っちと遊ぼうぜぇ、なぁ?」
 
 鉤爪で一振りすると、鎮の首がぐるりと真後ろに向いたものだから、ぎくりとした。
 
冴牙「ハァ!? 何だよ、人形じゃねぇか! ざけやがって!!」
 
 驚いた己を恥じて怒りに転換する。
 
冴牙「……ってぇことはだ、俺のはハズレで他の誰かが当たりを引いているってのか? なんだよ、クソ。シズは俺の獲物なのによォ」
 
 人形を無視して他へ移ろうとしたとき、手首から突き出した刃物をひらめかせ、人形が襲い掛かってきた。
 
冴牙「兄弟そろって気味悪りぃ人形使いかよ! ぶっ壊してやらぁ!!」
 
 手の甲に装着した鉤爪で攻撃を受けると弾き返して逆に攻めに転じた。
 
 
 また同じ頃、偲の放った人形に追い回されているリクとクロエ。
 クロエが先を走り、リクは魔法を放って追っ手を撒こうとしている。
向かう先は野営していた初めの場所である。2人殺されたローゼリッタの人間が携えていた剣をちょうだいしようというのだ。
クロエは武家の娘であり、剣一筋に生きてきた。
本当なら青薔薇を専攻しているハズだったが、それよりも白魔法の才能を見出され、移籍させられてしまったのである。
剣の道を諦めきれない彼女は今でもまだ剣を振って身体を鍛えている。
そんじょそこらの剣士になど後れを取るつもりはなかった。
リクにしても、ほんの短期間だが孤児となった彼を引き取った神父が基本は教えてくれていた。
家族を失って養成所に転がり込むまで3年。
孤児になった直後に神父に出会ったわけではなかったから、習ったのは本当に何年もない。
いくら天賦の才が味方してくれようと、物心ついたときから剣を握っていたクロエに及ぶべくもないが、それでもシロウトよりはいくぶんマシだった。
もっとも、少しケンカが強いくらいで立ち向かおうというのは、無謀以外の何者でもなかったが、彼の本業は攻撃魔法。
剣は懐に入られたときに身を守る程度に使えさえすれればそれでいいのだ。
 
リク『ま、それすらできるかどうか怪しいけどね』
 
 こんなモンスター相手では。
 魔法をいくら放っても人形は言葉通り、目にも留まらないスピードで身をかわして追ってくる。
 
人形「キャーハハハハ! 待て待て待てー♪ シズは追いかけっこ大好きー!! もっと遊んで、もっと!」
リク「うわぁ~……お手柔らかに頼むよぉ~」
 
 幼く愉快な殺人者に引きつった苦笑いを返して、距離が縮まないようにまた魔法で吹き飛ばす。
 早くクロエが剣を手に入れてくれれば、こちらとしても戦闘開始の狼煙を上げられるというものだが。
 攻撃手段が何もないクロエを抱えてでは、なかなか本格的な反撃に出られない。
 体術もこなす、頼りになるクロエだが一定以上の力を有する相手に刃物ナシではさすがに立ち向かえまい。
 今の彼らには、武器を手に入れることが先決だった。
 
リク『クソ……息切れが早いな。回復魔法でごまかしても血が足りてないのは確かだからな』
 
 先を行くクロエが急に立ち止まって手を振り回し始めた。
 
リク「どうした!?」
クロエ「あわあれあやっ!? ダダダダダ……ダメッ! ストップ、リク!! この先、ナイ!!」
リク「えっ!?」
 
 暗くてわからなかったのだが、先に続いていると思っていた地面がなくなっていたのである。
 崖だ。
 一歩、踏み出し損ねたクロエが落ちそうになって必死でバランスをとっていたのが、今の姿だった。
 
クロエ「ああああっ…………ふぅ」
 
 リクが手を伸ばすより前に後ろに体重を倒してクロエは尻餅をついた。
 
クロエ「ふぅ、危なかった」
リク「よ、よかった。俺、山と相性悪いなぁ」
 
 髪をくしゃりとかき混ぜて、軽い冗談を乗せる。
 
クロエ「あは、リクは転落経験者だったよね」
 
 笑おうとしたがそれどころではなかった。
 リクの魔法の威力に吹き飛ばされて転がっていた人形が起き上がったのだ。
 再び、追いかけっこスタート。

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