レイディ・メイディ ６３－２

初『取り込まれたに相違ないわ』

 

鎮をどこか拒否したくなる理由はそこにもあった。

 

初『偲……偲……！　戻ってきて。貴方と刃を合わせるなど私にはできない……もし……もしそれでもおシズを選ぶというのならば、私はせめて貴方に斬り捨てられたい……』

 

 

　破滅的な美が人を誘う。

　華奢で色白。支配したくなる衝動を駆り立てる。

　だがその正体は可憐な花に擬態した毒の華。

　危険だと感じてもなお確かめずにはいられない魔性。

魅せられたら、取り込まれる。

からめ取られて魂を抜かれる。

　………かもしれないその当人は今……

 

フェイト「お手」

鎮「…………」

 

　ぽてっ。

　右手を乗せる。

 

フェイト「おかわり」

鎮「…………」

 

　ぺそっ。

　左手を乗せる。

 

フェイト「よーしよしよし」

鎮「…………」

 

　なでなで。

　頭をなでられて、お菓子をもらった。

　うっかり喜びそうになって……

 

鎮「大人をからかうでなーい！！！！」

 

　自分が人間でさらに教官であることを遅まきながら思い出していた。

 

鎮「まったくまったく！　こんなお菓子で拙者が釣られると思うなよ！」

 

　もぐもぐ。

 

フェイト「……はい」

 

　もう一つ手渡す。

 

鎮「…………！！」

 

　手に取って、むぉりむぉり。

　……釣られた。

いつもの光景だ。

 

偲「………………………………」

 

　人形を渡し終えて、一つの役目が果たされた。

　また変化のない日常の連続が始まろうとしている月曜日のことだ。

　自分の中の魔性もクソも、普段は頭の片隅にもない鎮は今日も今日とて生徒たちからからかわれ三昧。

　特にここ最近、フェイトからの動物扱いが悪化。

 

レク「うわ、何やってんだよ、フェイト」

 

　大変失礼な友人をあわてて止めに入るのは常識人のレクだ。

 

フェイト「……エサ……やってんだ」

レク「餌チガウダロ、餌！！！」

 

　まったくもうと言いながら、フェイトを引きずっていく。

　偲は黙ってそのやり取りを観察している。

　午前の実技授業が終わり、昼食を挟んで今度は座学の授業。

　それが終了すると……

 

リク「先生♪」

鎮「うをぅ。拙者を狩るのもいい加減にいたせ！！」

偲「…………」

リク「ホラ、クロエより有利な時間を有効活用しないと……」

 

　じりり……。

　円の動きの構え。

 

偲「？」

鎮「のぅわぁー！！」

 

　逃げ出す先生を追うアンの彼氏……。

 

ステラ「アン、先生助けてあげたら？　また泣くよ？　……弱虫なんだから」

 

　呆れて肩をすくめたステラがひじでアンをつつく。

 

アン「あ、うん……」

リク「あれ？　いない？」

 

　曲がり角を曲がったら、先生が見当たらない。

　キョロキョロと探すリクの前を、見るからに怪しい木箱が少しずつ、少ーしずつ移動していた。

 

リク「…あ。」

 

　狩人対策として、立てた鎮の作戦発動だ。

　予定ではこれで逃げ切れるはず……

 

リク「……先生？」

木箱「……違う」

リク「先生だよね？　こんな楽しいことしてるのは」

 

　上をコツコツと叩いてみる。

　怪しい箱にお兄さんが横に立って見下ろしているのだから、これはもう。

　幼児でもだまされない。

 

木箱「……楽しくはない。外敵から身を守っているのでござる。それに拙者、先生ではござらぬ」

リク「じゃ、ナニ？」

木箱「木箱に候」

リク「………………」

木箱「………………。では、御免」

 

　もそもそ……

　移動開始。

 

リク「……ちょうど、箱が必要だったんだ」

 

　逃げようと移動開始した箱に手をかける。

 

木箱「！？」

 

　ぎく…！！

 

リク「持って帰ろうっと♪」

木箱「まっ…！　まままま、待て、よせ！　持ち帰ってはならぬ！！　木箱は他人のものかも知れぬぞ」