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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 62-9

メイディア「んもー! これだからデリカシーのない方は嫌ですわ!」
 
 先生をめった打ちにして鼻息を荒くする。
 怖い女の子から逃げるようにして、偲はチャーリーを連れて家を出て行った。
 この後、メイディアは鎮を手伝って庭の隅に穴を掘り、中に大量の人形を放り込んで着火。
 徐々に大きくなり、燃え盛る炎の中で人形が朽ちていく。
 
メイディア「何だか……可哀想ですわ」
鎮「ダメ。そんな風に思っては」
メイディア「何故?」
鎮「……憑いてきちゃうかもだから」
メイディア「……憑く?」
鎮「人の形をした者だから、中にその……アレが宿っているから、同情したりしたら影響が出る」
メイディア「でも、子供の声だったからつい……」

▽つづきはこちら

 

鎮「そういうのが特にダメなのでござるよ。この人形は寂しがりだから……同情してくれる人に寄っていきたくなる。さすれば取り憑かれやすくなるでござるぞ」
メイディア「……はい……」
 
 炎を眺めて1時間。
 メイディアと鎮の間に沈黙が続いていた。
 ずいぶんと前から人の気配を感じ取っていた鎮がようやく背後に声をかける。
 
鎮「あにさま、戻っておられたのなら声をかけて下さればよかったに。そこでずっと見ていられると気になりまする」
偲「……ずいぶんと、溜め込んだものだな」
鎮「……まぁ……」
 
 草を踏んで、ゆっくりと歩み寄る偲。
 全く気づいていなかったメイディアは仰天している。
 
偲「これがあれば、何かと利用できたのではないか?」
鎮「……できますな」
 
 しゃがんだまま、兄を見上げる。
 
メイディア「??」
鎮「けど、置き場がのうなりましたから」
 
 再び炎に顔を向ける。抱えた膝の間に顔を埋めて。
 
偲「……どうせすぐに溜まるし、か?」
鎮「ま、そういうことでござる。最近は溜まるのが早くて困ります」
偲「絶滅させるための力なのだろうな、それは」
メイディア『絶滅? 何を?』
鎮「……恐らくは」
 
 過剰にたまってゆく魔力は一族を一人残らず死に至らしめるための力だ。
 何人何十人もの氷鎖女の子の怨念が次の氷鎖女の子の力を強めていく。
 氷鎖女の子が殺されればその無念がまた引き継がれて重なり重なって強力になってゆくのだ。
 氷鎖女一族にとって呪われた子は常に脅威である。
 だが、それだけの力を有していながら、未だ悲願が成就されないのは、これまでの氷鎖女の子が力を振るう前に人柱とされているから。
 そして皆、一族に刃を向けられなかったからだ。
 今の鎮がそうであるように。
 
偲「皆殺しにすれば助かるのかな……お前は」
 
 メイディアの不思議そうな表情に気づいて、言葉を母国語に切り替えて言った。
 
鎮「さぁ……でも、シズが思いますに。一族を破滅させても呪いは解けないと思います」
偲「何故だ?」
鎮「最後の一人も同じ血を引いているから……」
 
 最後の一人。
 それは氷鎖女の子自身ということだろうとすぐに理解した。
 一族全てを消し去れば呪いは解けるといわれているが、実行するには、最後の一人も命を絶たなくては目的は果たせないのではないかと鎮は思ったのだ。
 今までの呪われた氷鎖女の子らもそれに気づいて実行しなかったのかもしれない。
 実際に試した人間はいないのだから、もしやってみたなら、当人を残して呪いは解けるのかもしれない。
 けれど、鎮もそれを試してみるつもりはなかった。
 一族に背いてまで自分を選んでくれた兄とできるだけ長く、できるだけ側にいたかった。
 
偲「試してみるか? 俺を殺せば楽になるかも知れぬ」
鎮「ご冗談を。そうやって……あまりシズをいじめないで下され」
偲「……本気だが……」
鎮「なおたちが悪い」
 
 苦笑して額当てをいじる。
 それを見ていたメイディアは言葉もわからないし、兄弟の邪魔をしてはいけないのだと悟り、立ち上がった。
 
メイディア「先生、ワタクシ、屋敷に戻っておりますわ」
鎮「んっ」
 屋敷に戻ったメイディアの中で何かが引っかかっていた。
 彼らの会話はわからなかったが、音で聞く中に「シズ」とあった気がする。
 シズ……?
 夕べの幽霊との会話が頭の中で繰り返される。
 
メイディア「ところでアナタ……お名前は?」
声「シズ……鎮……」
 
メイディア『シズカ!』
 
 唐突に思い出した。
 シズカとはこの、ヒサメの名前ではないか!!
 ヒサメヒサメと呼ばれているので、下の名前を忘れがちだが、彼はシズカ=ヒサメというのだった。
 今の今まで忘れていただなんて。
 思い出すのが遅すぎるくらいだ。
 
メイディア「先生っ」
 
 また庭先に飛び出す。大事なことが今、のど元まで出掛かっている。
 
鎮「うん?」
メイディア「昨日の幽霊……あの……」
 
 言いかけて言葉を飲み込んだ。
 先生の兄という男性と目が合ったからだ。
 向こうが何を言うわけでも睨んできたわけでもないのに、ついと目をそらす。
 何故だろう。
 この話題には触れない方がいい。
 そう、感じたのだ。
 あの温度の低い両眼を見て。
 ヒサメ先生は兄を完全に信頼しきっているようだ。
 狙われている当人のメイディアの前に連れてきたことでもそれはわかる。
 だけど……
 
メイディア『……なんて冷たい目をしているのかしら。好きに……なれそうもないわ』
 

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