HOME ≫ Entry no.827 「レイディ・メイディ 第55話」 ≫ [832] [831] [830] [829] [828] [827] [824] [826] [825] [823] [822]
レイディ・メイディ 第55話
2008.07.26 |Category …レイメイ 55-57話
第55話:あるひとつの真実と結末。
4月。
新しい候補生が入所して、昨年の1回生が2回生となり、新たに3回生となる者たちは1年親しんだ部屋から移動しなければならなくなった。
部屋替えが行われたが、基本的にはそう代わり映えしない。
留年した3回生が加わり、逆に新3回生になれなかった同級生が減ったせいで、一部ずれが生じて顔触れが変わるだけのことだ。
去年の今頃もレイオット、クロエ、ジェーンやモーリーは同じだったのにアンとメイディアがズレてしまったのはそういうことだ。
新しい部屋に荷物を運び終えて一息つくと、月初めの郵便物が届いた。
身寄りのいないリクは一度として郵便物をもらえたことはなかったのだが、この日はどういうわけかどう読んでもリク=フリーデルス宛のものが届いていたのだ。
封筒の裏を返して、リクはあっと声を挙げそうになった。
差出人:メイディア=エマリィ=シャトー
▽つづきはこちら
リク『メイディ……』
死に至る1カ月前の日付だ。
自分宛に何を書いてよこしたのだろう?
急いで封を切った。
リク「………………………」
紅の目が文章を追って左右に動く。
にわかに手紙を持つ手が震えた。
レク「リク?」
読み終えて、リクが力無く座り込む。
レク「どうしたんだよ、リク? 具合でも悪いの?」
リク「い、いや……ううん、違うよ。大丈夫」
弱々しく笑って手紙を袖に突っ込んだ。
リク『メイディアが……………目撃者!』
何枚にもわたって書かれた手紙は、告白文だった。
もちろん愛の告白などという甘いものではない。
リクの家族が殺された一部始終をなんと、メイディアが知っていたのである。
今頃になってまさかほんのすぐ側に真実の鍵を握る者がいただなんて。
でももう何もかも遅い。
カタキを討つために身につけた養成所での技能も、振るう相手がいなくなってしまった。
リクの家族を殺した者は、メイディアがすでに葬り去っていたのだ。
しかもずっと何年も前に。
手紙の書き出しにはこうあった。
あの日、赤い瞳の少年を見ました。
それが貴方なのかはわかりません。
でももう伝える機会がないので、ここに書き記します。
身に覚えがないようならば、捨てて忘れて下さい。
メイディアは時々、目の前にない景色が見えてしまうことがあること。
それは忘れたころに唐突にやってきて、自分ではコントロールできないこと。
見える出来事は決して空想などではなく、実際に起こっていることであるということ。
これを魔術界では「旅人の瞳」といい、研究され続けてはいるが、未だに成果は上がっていない謎を秘めた能力なのである。
後天的には身につけられない、生まれがものを言う実に稀な能力なのだが、本人は知らずにいた。
その旅人の瞳で彼女はある幸せな家族の情景を眺めていたのだ。
フリーデルス一家。
若い夫婦と12、13歳くらいの兄と妹。
その日は兄の誕生日。
家族が彼を祝うために部屋を飾り立てる。
そのうちに妹が公園に大事なお人形を忘れて来たことに気が付いて、兄に頼むのだ。
持ち帰って来て欲しいと。
兄は承諾し、公園に出掛ける。
……驚いたことに、ここまではリクの記憶とまったく食い違いがない。
何キロも離れた伯爵の屋敷から覗いていた12歳のメイディアがどうしたかといえば、着の身着のままで見ず知らずの家族に会いに行ったらしい。
何故そのような行動をとったのか理由までは、記されていなかった。
ただ行動だけが淡々と綴られている。
メイディアが見ていたのは、ほんの近い未来だ。
やがて彼女が現場にたどりつく頃に、事件が起こるのだから。
彼女はその家を脳内のビジョンで見ただけで本当にあるかわかっていないはずだったが、たどりついた。
けれど脳内ビジョンとは様子が少し違っていた。
幸せに溢れていた家庭がしんと静まり返っているのである。
日が落ちて暗いのに明かりの一つも灯っていない。
彼女が中に踏み込んでみると………
……勝手に他人の家のドアを開けてしまうところが、世間知らずの彼女らしい……。
踏み込んでみると、そこは血の海であった。
手紙は詳しい状態に触れていなかったが、リクの頭にはありありと当時の光景が浮かび上がっていた。
忘れもしない、愛する家族の惨殺死体。
その地獄絵図の中に、犯人はいた。
リクが戻る数分前のことだ。
犯人……ヨーゼフ=ハミルトン。
彼は幼いメイディアに口止めをする。
言ったら、同じ目に合わせると。
それで彼女は今まで言えなかったのである。
恐ろしさのあまり、記憶に封印をして。
けれど、彼女は最近になって思い出した事実を書き記すことにした。
あの日、事件の後で出会った赤い目の少年に知らせなければならないとの義務感である。
赤い目の少年だったリクを驚かせたことはまだもう一つ。
そのカタキであるべきヨーゼフ=ハミルトンがすでにこの世の者ではなかったことだ。
なんと、12歳だったメイディアが始末している!
運命のイタズラか、ヨーゼフは彼女の家庭教師だったのである。
悪いことをしたら罰が下ると家庭教師当人に教わっていた彼女は言葉どおりに実行して、彼を殺してしまった。
衝撃の事実と共に謝罪の言葉が添えられていた。
それは自分が殺めてしまったせいで、ヨーゼフ=ハミルトンが何の目的であの家族を殺害したのか理由が闇に葬られてしまったことである。
PR
●Thanks Comments
●この記事にコメントする
●この記事へのトラックバック
TrackbackURL: