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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 55-3

氷鎖女「おとなしく待っておれば良かったものを、早まりおって」
 
 間に合わないかと思ったと彼は少しばかりなじるように言った。
 
メイディア「……だって……」
 
 飛び降りたメイディアを追って、花嫁怪盗もまた飛び降りた。
 空中で捕まえて、気を失った花嫁をまんまとさらって逃亡。
 知らせを聞いた東国の狩人たちが追いかけたが、行き違いになって時間差が生まれた。
 当然、城の兵士たちも追撃しきたが、人形に体力の限界はない。
 兵士たちの攻撃をかわし、公爵の魔法を防ぎ、泥棒は花嫁を抱いたまま、夜も昼もなく数日間、休む間もなくひたすら走り続けて、とうとう領内を飛び出したのである。
 ダンラックが引き入れた手足れの者たちに途中、苦戦を強いられたが、体力勝負でこちらに軍配が上がった。
 何しろ、生身ではないのだから斬りつけられようとどうしようと痛みもなければ疲れもないのである。
 魔力で操っている限り、精神的には黒幕の氷鎖女が消耗していたが、それは相手の比ではない。

▽つづきはこちら

 廃墟に今までさらった花嫁を捕らえていた。
 そこにたどりつくとまず先に用意していたメイディアと同じウェティングドレスを着せた女の死体に魔法をかけた。
 メイディアと錯覚させる幻術である。
 それが今はメイディアの遺体として埋葬され、シャトー家の墓地にあるものだ。
 この死体を残して、本物を木箱に押し込めるとかついで怪盗は再び走りだした。
 あの廃墟には、いずれ5人の追っ手がくる。
 白い蝶に導かれて。
 怪盗にまとわりついていた蝶は捕らえて燃やし、1匹だけ残してナイフで壁に突き刺した。
 標本のように。
 これで奴らはここの女たちとメイディアの死体も見つけて連れて帰らなければならなくなる。
 犯人はどこかへ逃げて行ったように見せかけるために、血の跡をしばらく残して途絶えさせた。
 花嫁怪盗騒動はこれでおしまいである。
 手際よく、実に鮮やかだ。
 
メイディア「……………」
 
 事の顛末を聞いて、メイディアは考え込んだ。
 
メイディア「ではワタクシは殺されたことに?」
氷鎖女「そういうことでござる」
メイディア「…………」
 
死体に着せた花嫁衣裳はシャトー家から発注した店を探し出し、同じものをと無理を言って急いで作らせたものだったから、作りが粗かった。
一通りの事件を怪しむ者はいくらでもいただろうが、もうここまで逃げ切った。
証拠もない。
つつかれたとしても後は知らんふりをしていればよい。
本物のメイディアさえ見つからなければ。
 簡単に説明しながら、氷鎖女は野菜のスープとおかゆをメイディアの目の前に置いた。
 食欲もないだろうと軽いものだ。
 
メイディア「どうして……」
氷鎖女「うん?」
メイディア「助けて下さる気があったのでしたら、どうしてもっと早く来て下さらなかったの? どうして先に教えて下さらなかったの!?」
氷鎖女「仕方あるまい、そう簡単にはいかぬよ。だいたい、そちらが養成所からいなくなってから思い立ったのだし」
 
 責められて軽く肩をすくめる。
 
メイディア「ワタクシ……怖かった……怖かったのに……」
 
 涙が次から次へとあふれ出て、頬を濡らした。
 
氷鎖女「こ、これ、泣くでない」
 
 せっかく温かい食事が冷め切ってしまっても、メイディアが泣き止むことはなく、大いに氷鎖女を困らせた。
 
メイディア「お母様……お母様に会いたい……」
氷鎖女「残念だが、帰すわけには参らぬ。ゴールデンは死亡。生きていたとわかれば、連れ戻される。それでも良ければ会いに行っても構わぬが、自分の意思でゆくのなら二度は助けてやれぬ」
メイディア「うううっ」
氷鎖女「ま、とりあえず風呂にでも浸かってゆっくりなされ。そんなズルズルした着物では生活できぬでござろ。服は男物だが借りてきたからそれを着や」
 
 言われるままにメイディアは案内された風呂に入って行った。
 心ここにあらずといった様子で。
 
氷鎖女「はぁ、妙なことになりおった」
 
 養成所宿舎に寝泊りするようになってから、ほとんど使用していない家だ。
 とりあえず簡単にでも掃除を済ませてしまおうと何体かの人形に目には見えない魔力の糸をつないだ。
人間大の人形が起き上がり、掃除用具を手に2階に上がっていく。
監督するため、それについて氷鎖女も階段を登った。
 どの部屋も画材や今までの作品などが山積みで小汚いのだが、中でも一番何とかなりそうな部屋を一つ選んで余計な荷物を運び出させた。
 ここにしばらくメイディアを置いておこうというのだ。
 大きな荷物は別の部屋に移し、床をホウキで掃いて軽く雑巾がけ。
 ベッドは一つしかないので、自分の物を貸し与えることにし、運び出す。
 
氷鎖女「しばらく放置したままになっていたから、埃っぽいかもしれぬが、我慢してもらお」
 
 どうせこの屋敷に連れてくることはわかっていたのだから、もっと前に用意しておくべきだったとほんのり後悔。
 まずは救い出す算段をまとめるので手一杯でその後のことはあまり頭になかった。
 連れてきてから、8cmも差があるメイディアに自分のお下がりは着せられないと気がついて、急きょ、ミハイルの衣類を借りてきたくらいだ。
 人形を操ってあらかた掃除をし終えたところで、はたと気がついた。
 もうずいぶんと時間が経っているのに、メイディアが風呂から上がった気配がない。
 こちらが気がつかなかっただけで1階で涼んでいるのだろうと始めは気に留めなかったが、さらに時間が経過して物音一つしない。
不審に思い、声をかけてみることにした。
 風呂場で気分が悪くなっていたら大変だ。
 そうでなくとも今は精神的なショックから立ち直れていないようだから、こちらが気を配って大事に扱ってやらないと。
 階段を下りて下を覗いてみたが、やはり彼女の姿がなかったので浴室のドアを叩いてみる。
 
氷鎖女「大丈夫でござるか? よもや溺れてはいまいな?」
メイディア「溺れてなんていません」
 
 少し遅れて返答が帰ってきたので氷鎖女は安心した。

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