忍者ブログ
NinjaToolsAdminWriteRes

ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

HOME ≫ Entry no.830 「レイディ・メイディ 55-4」 ≫ [835] [834] [833] [832] [831] [830] [829] [828] [827] [824] [826]

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


レイディ・メイディ 55-4

氷鎖女「そか。ではよい」
メイディア「……先生」
氷鎖女「うん?」
 
 安心してまた部屋の片付けに戻ろうとすると浴室から呼び止められて足を止めた。
 
メイディア「先生……。汚れが……汚れが落ちない」
氷鎖女「石鹸があるでござろ」
メイディア「こすってもこすっても、落ちないの、汚れが落ちないの。石鹸で洗っているのに……こんなに洗っているのに!!」
 
 悲鳴に近い叫びは最後になるにつれて声高になり、氷鎖女をたじろがせる。
 
氷鎖女「何をわめいておる?」
メイディア「洗ってるの!! 身体を!! 身体を洗っているのに気持ちが悪いのが取れないのッ!! 先生、助けて、先生、もっと強い洗剤を下さい!! 汚い、汚い、汚い、汚い!!!」
氷鎖女「落ち着け、ごーるでん」
 

▽つづきはこちら

 公爵の下で何があったのか、助け出す前のことはわからない。
 だが、結婚式があったその日の内に……いや、0時を超えていたから日付は変わっていたが、24時間以内には救い出していた。
 そんな短い間だったはずなのに、何が少女の心を蝕んだのだろう。
 浴室のメイディアは汚れだと半狂乱になって騒いでいる。
 さすがの氷鎖女も彼女が中でタイルの掃除をしてくれており、カビが取れないと騒いでいる……などとボケをかますつもりはない。
 公爵に触れられた部分を汚らわしいと擦り切れるまでこすっているのだろうと簡単に想像できた。
 
氷鎖女『だが、まだ花嫁衣裳は乱れてなかったし、初夜など迎えていなかったと思うが……』
 
 まさかウェディングドレスのまま事に及ばないだろうと常識的に彼は思っていた。
 メイディアは難しい年頃でしかも大事に大事に育てられた世間知らずの姫だ。
 だから嫌いな男に少しでも触れられれば、このようにヒステリックになってしまうのだろうと。
 自分にも覚えがある。
 氷鎖女……鎮自身がメイディアのようになった覚えではなく、相手にそういった態度を取られた覚えだ。
 もちろん性的に女性を触れてではない。
 たまたま指先が触れただけ、落とした物を拾っただけ。
 それで悲鳴を挙げられる。
 触れた手を狂ったように洗う女性。
貴方が触った物なんて使えないと叫ぶ女性。
 それは実の母親を筆頭に鎮の21年の人生の中ではよくあることだった。
 その度に彼は繰り返し認識させられるのだ。
 そうか、それ程までに自分の存在は汚らわしいものなのだな、と。
 救い出して同じような態度をとられることも珍しくなく、だから、ドア越しにメイディアの声を聞いて改めて思った。
 これはますますもって、絶対に顔を見せるわけにはいかないと。
額当てに手を添えて、もう一度、ドアを叩いた。
 
氷鎖女「よく聞けよ、ゴールデン。そちらは穢れ(けがれ)てなどおらぬ。汚れなどもう洗い流されてない。そんなものは思い込みでござる」
メイディア「嘘よ! 汚れているわ!! 白く戻れないの、先生、助けて、イヤッ!! 白紙に戻して、ワタクシは汚いのっ!!」
 
 メイディアはすでに泣き声になっていた。
 
氷鎖女「穢れはな、思い出せよ。拙者が渡したヒトガタの紙を」
メイディア「ヒトガタの……?」
氷鎖女「ドレスの裏にでも縫っておけと言った」
メイディア「! ……はい……」
 
 記憶が行き当たって合点する。
 
氷鎖女「アレがお前様の代わりに吸い取ったよ」
メイディア「!!」
氷鎖女「婚姻の約束事も契約として成就させておらぬ。言霊ごと効力を吸い取ってしまったからな」
メイディア「…………?」
 
 メイドが部屋を出て行ったときにドレスから外れて足元に落ちた黒い染みの人型の紙。
あれのことだ。
 「約束」とは、魔法科学ではある種の束縛で契約とされる。
 例え魔法使いでなくとも、「約束」だと口にしただけで、それは効力を発揮して相手を縛る軽い呪文となるからだ。
 待ち合わせの約束をすれば、約束した者は、時間までにその場所にいなくてはならないという義務で縛られる。
 ……そういうことだ。
 それも結婚とくれば相当の効果を期待できよう。
 一般には意識されていないが、夫婦の契りを言葉=呪文で宣言して互いを縛り合うのが結婚である。
 よい言い方をすれば、二人を結ぶ愛の絆だが、求めていないなら、二人を無理にでもつなぎ止める呪われた鎖となる。
 それが魔力を持った者同士となれば、誓いの言葉も受諾する書類もより強い威力を示す。
 死が二人を分かつまで。
 なんと恐ろしい誓いを立てさせられるのか。
 公爵と添い遂げると誓ってしまったメイディアだったが、その暗い呪文は氷鎖女が事前に渡していた、身代わりの人型に切り抜いた紙が引き受けてくれた。
 そのせいで現在、彼女は公爵からの呪いに縛られてはいない。
 紙に染みていたのは、インクではなく公爵の黒々しい魔力だったのである。
 もしこれがなければ、公爵は自分が結んだ契約の魔力を追って花嫁の居場所を突き止めたに違いない。
 渡された人型の札は見事、彼女を守ったのである。
 
氷鎖女「降りかかった穢れは全て、あれが引き受けた。お前様は何も変わってはおらぬ。養成所を出たときから何も」
メイディア「………………本当?」
氷鎖女「ああ」
 
 恐る恐る確認する声に肯定の返事を返す。
 
メイディア「でもワタクシは……」
氷鎖女「全て納得せずとも別によい。とりあえずもう、出てきぃ。一晩中そうしているつもりか?」
メイディア「………………」
 
 沈黙を了解と受け取って、氷鎖女は浴室のドアから離れた。
 もう心配はないと判断したのだ。
 10分もすると思ったとおり、ミハイルの服を着たメイディアが2階に上がってきた。
 
メイディア「……先生、ごめんなさい……ワタクシ……」
氷鎖女「何に謝っておるかわからないよ。手前は少し疲れておるだけだ。忘れて眠ってしまえ」
 
 気まずそうにしてつっ立っている少女に、掃除を終えた部屋に入って休むように促す。
 
メイディア「……………………」
 
 メイディアは部屋と小柄な教官を交互に見つめてから、改めて部屋に踏み込んだ。
 遠慮がちにドアに手をかけると教官が曲がってもいない額宛てを直す仕草をしてから口を開いた。
 
氷鎖女「ごーるでん」

拍手[0回]

PR

●Thanks Comments

●この記事にコメントする

お名前
タイトル
文字色
E-mail
URL
コメント
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード ※投稿者編集用
秘密? ※チェックすると管理人にしか見えません

●この記事へのトラックバック

TrackbackURL:

≪ レイディ・メイディ 55-5 |PageTop| レイディ・メイディ 55-3 ≫

もくじ ▽

初めましての方へ☆必読お願いします ▽

金魚飼ってます☆ ▽

さらに金魚飼いましてん☆ ▽


ブログ内検索

カウンター

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

最新TB

フリーエリア


※ 忍者ブログ ※ [PR]
 ※
Writer 【ゼロ】  Design by NUI.T  Powered by NinjaBlog