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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 42-14

 袋詰めクロエが運び込まれていたのは、ガーネットやリクらの予想通り、大捜索が行われている範囲の中にあった。

 人を隠すなら人の中で、街中に逃げこんだのではないかと見当をつけていた。

 目立つところに隠れては、捜索が入ったときに一発でわかってしまうからだ。

 だが、その部分については、予想は完全に外れてしまっていた。

 彼らは敢えて、町外れにぽつんと立つボロ小屋に身を隠したのである。

 ただし、使用した馬車はそのまま別の荷を積んで、手下に走らせる。

 敵の目を引き付けられるように。

 肝心のお姫様は、一人暮らしの老婆の家に監禁されていた。

 視力が弱って目は濁り、耳も遠くなった老婆がよもや悪漢共を庇い立てするはずがない。

 もし捜索の手が入っても、そこまで慎重に調べられないはずだ。

 実際に、老婆は庇い立てするつもりなどなかった。

 むしろ、何が起こっているのか現状を理解さえしていなかったのである。

 年老いて記憶も曖昧になっている家の主を無視して、勝手に彼らは作業を進める。

 老婆は見知らぬ男を見て、息子が帰って来たと口元をほころばせた。


▽つづきはこちら

 

男「母さん、しばらく友達が泊まるけど、いいね?」

老婆「いいと、いいとも。ゆっくりしておいで。あったかい野菜スープがあるよ」

 

 邪魔になれば、斬って捨て置けばいい。

 息子になりすました男は思った。

 

男「あの小娘はどうした? 追って来ていたろう?」

男2「ナイフを馬に当てて、落馬させた。あれではさすがにもう追って来られないさ」

男「この家に逃げたところまで見られていないだろうな?」

男2「それはない。もっとずっと前の話だ」

男「できれば、殺しておきたかったが、仕方あるまい」

クロエ『メイディア、無事なのね』

 

 地下の食物庫に転がされて、さるぐつわを外されたクロエに男の声が降ってきた。

 

男「姫様。騒がないで下さいよ? 騒いだ所で、周りに人はいませんがね」

クロエ「ぷはーっ。……ちょっと、私、姫なんかじゃないのに!」

 

 ふさがれた口が自由になっても、袋の中にいるのは変わりなく、息苦しいったらない。

 

男「間違えか。では殺すしかないな」

クロエ「……嘘です。やっぱり、姫でいいです」

男「そうだろう」

クロエ「暑い、苦しい。袋から出して」 もぞもぞ。

男「ダメだな」

クロエ「死んじゃうっ、苦しくて死んじゃうわ。夏なのよ? 勘弁して!」

男「うるさいな。……仕方ない。空気穴作ってやれ」

 

 口の当たりの部分がナイフで切り取られた。

 

クロエ「ふぅ。新鮮な空気♪」

男たち「やけに落ち着いているな」

   「さすがは養成所で鍛えられた姫君といったところか」

 

 単なる天然なのだが、彼らはそう評価を下した。

 

クロエ「なんで姫様を狙うの? 身の代金?」

男「何も知らないんだな、姫様。金の問題じゃない。金を積めば、解放されると思ったか?」

クロエ「だったら……」

男「13番目の魔女の復活祭までにアンタの命が必要なんだ」

クロエ「じゅ……13番目の……?」

男「13番目の魔女に姫の命を捧げなければ、俺たちが危ない」

クロエ「どういうことなの? 13番目の魔女っておとぎばなしでしょ? 貴方たち、おかしいわ」

男「そうさ。おとぎばなし。けど、おとぎばなしの魔女は生きているんだ。生きて、暗闇からこの国を滅ぼそうと復活のときを伺っている……恨みを晴らすために」

男2「おい。その辺でよしておいたらどうなんだ、脅しかけるのは」

男「脅しじゃないさ。本当のことだ。都市部じゃ聞こえてもこないだろうが、地方じゃ魔物の増加。干ばつ、流行病、水害、害虫の大発生…。皆、呪いのせいだ」

クロエ「…………」

男「ま、心配するな。司祭様にお届けするまでは殺しゃしないよ」

 

 再び口にさるぐつわをかませられ、男たちは食物庫から出て行ってしまった。

 故人の家の食物庫は狭かったが、思ったよりは涼しい。

 日が一切当たらないせいかもしれなかった。

 

クロエ『どうにかして抜け出さないと……!』

 

 お姫様の代わりに祭壇にあげられてしまう。

 とんでもないことだ。

 脱出を試みようと体をよじる。

 

 

 落馬をしたメイディアはというと、足を折ってしまった馬をあきらめて、ただただ自分の足で前に進んでいた。

 やはり、戻って皆に知らせるべきだったのだと後悔しながら。

 それでもまだ戻ろうとはせずに、ここまで来たのだから、何か敵の尻尾でもつかめればと余計な考えに引きずられていた。

 ここまでの大失態を犯して、手ぶらで帰ることがどうしてもできなかったのである。

 自分だけでクロエを救出できれば。

 せめて、アジトを突き止めることができれば。

 2日、3日。

 昼も夜もなく歩き続けて、彼女はとうとうひざを折った。

 

メイディア「水……喉が渇いた……」

 

 もはや、人捜しどころではない。

本人が干からびそうである。

 途中までは人家があったからよかったが、今は深い森の中。

 皮肉にも、その辺の物を口に入れるなどあれだけ嫌がっていた、養成所で習った食用にできる野草の知識が身を助けている。

 

メイディア『このままでは、おウンコが緑色になってしまうのではないかしらぁ~』

 

 食用にできるとはいえ、生のまま食べる物ではないというのに、そこいらから、むしっては口に入れているメイディア。

 口の周りは泥だらけ、目はうつろである。

 町はすぐそこに見えるのに、歩いてみるとこれがなかなか遠いのである。

 そんな彼女の目に煙突の頭が飛び込んできた。

 木々の間に見える赤い屋根。

 

メイディア「民家……あは…はは…」

 

 力無く立ち上がって、家を求めて歩きだす。

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