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レイディ・メイディ 42-14
2008.06.18 |Category …レイメイ 42話
袋詰めクロエが運び込まれていたのは、ガーネットやリクらの予想通り、大捜索が行われている範囲の中にあった。
人を隠すなら人の中で、街中に逃げこんだのではないかと見当をつけていた。
目立つところに隠れては、捜索が入ったときに一発でわかってしまうからだ。
だが、その部分については、予想は完全に外れてしまっていた。
彼らは敢えて、町外れにぽつんと立つボロ小屋に身を隠したのである。
ただし、使用した馬車はそのまま別の荷を積んで、手下に走らせる。
敵の目を引き付けられるように。
肝心のお姫様は、一人暮らしの老婆の家に監禁されていた。
視力が弱って目は濁り、耳も遠くなった老婆がよもや悪漢共を庇い立てするはずがない。
もし捜索の手が入っても、そこまで慎重に調べられないはずだ。
実際に、老婆は庇い立てするつもりなどなかった。
むしろ、何が起こっているのか現状を理解さえしていなかったのである。
年老いて記憶も曖昧になっている家の主を無視して、勝手に彼らは作業を進める。
老婆は見知らぬ男を見て、息子が帰って来たと口元をほころばせた。
▽つづきはこちら
男「母さん、しばらく友達が泊まるけど、いいね?」
老婆「いいと、いいとも。ゆっくりしておいで。あったかい野菜スープがあるよ」
邪魔になれば、斬って捨て置けばいい。
息子になりすました男は思った。
男「あの小娘はどうした? 追って来ていたろう?」
男2「ナイフを馬に当てて、落馬させた。あれではさすがにもう追って来られないさ」
男「この家に逃げたところまで見られていないだろうな?」
男2「それはない。もっとずっと前の話だ」
男「できれば、殺しておきたかったが、仕方あるまい」
クロエ『メイディア、無事なのね』
地下の食物庫に転がされて、さるぐつわを外されたクロエに男の声が降ってきた。
男「姫様。騒がないで下さいよ? 騒いだ所で、周りに人はいませんがね」
クロエ「ぷはーっ。……ちょっと、私、姫なんかじゃないのに!」
ふさがれた口が自由になっても、袋の中にいるのは変わりなく、息苦しいったらない。
男「間違えか。では殺すしかないな」
クロエ「……嘘です。やっぱり、姫でいいです」
男「そうだろう」
クロエ「暑い、苦しい。袋から出して」 もぞもぞ。
男「ダメだな」
クロエ「死んじゃうっ、苦しくて死んじゃうわ。夏なのよ? 勘弁して!」
男「うるさいな。……仕方ない。空気穴作ってやれ」
口の当たりの部分がナイフで切り取られた。
クロエ「ふぅ。新鮮な空気♪」
男たち「やけに落ち着いているな」
「さすがは養成所で鍛えられた姫君といったところか」
単なる天然なのだが、彼らはそう評価を下した。
クロエ「なんで姫様を狙うの? 身の代金?」
男「何も知らないんだな、姫様。金の問題じゃない。金を積めば、解放されると思ったか?」
クロエ「だったら……」
男「13番目の魔女の復活祭までにアンタの命が必要なんだ」
クロエ「じゅ……13番目の……?」
男「13番目の魔女に姫の命を捧げなければ、俺たちが危ない」
クロエ「どういうことなの? 13番目の魔女っておとぎばなしでしょ? 貴方たち、おかしいわ」
男「そうさ。おとぎばなし。けど、おとぎばなしの魔女は生きているんだ。生きて、暗闇からこの国を滅ぼそうと復活のときを伺っている……恨みを晴らすために」
男2「おい。その辺でよしておいたらどうなんだ、脅しかけるのは」
男「脅しじゃないさ。本当のことだ。都市部じゃ聞こえてもこないだろうが、地方じゃ魔物の増加。干ばつ、流行病、水害、害虫の大発生…。皆、呪いのせいだ」
クロエ「…………」
男「ま、心配するな。司祭様にお届けするまでは殺しゃしないよ」
再び口にさるぐつわをかませられ、男たちは食物庫から出て行ってしまった。
故人の家の食物庫は狭かったが、思ったよりは涼しい。
日が一切当たらないせいかもしれなかった。
クロエ『どうにかして抜け出さないと……!』
お姫様の代わりに祭壇にあげられてしまう。
とんでもないことだ。
脱出を試みようと体をよじる。
落馬をしたメイディアはというと、足を折ってしまった馬をあきらめて、ただただ自分の足で前に進んでいた。
やはり、戻って皆に知らせるべきだったのだと後悔しながら。
それでもまだ戻ろうとはせずに、ここまで来たのだから、何か敵の尻尾でもつかめればと余計な考えに引きずられていた。
ここまでの大失態を犯して、手ぶらで帰ることがどうしてもできなかったのである。
自分だけでクロエを救出できれば。
せめて、アジトを突き止めることができれば。
2日、3日。
昼も夜もなく歩き続けて、彼女はとうとうひざを折った。
メイディア「水……喉が渇いた……」
もはや、人捜しどころではない。
本人が干からびそうである。
途中までは人家があったからよかったが、今は深い森の中。
皮肉にも、その辺の物を口に入れるなどあれだけ嫌がっていた、養成所で習った食用にできる野草の知識が身を助けている。
メイディア『このままでは、おウンコが緑色になってしまうのではないかしらぁ~』
食用にできるとはいえ、生のまま食べる物ではないというのに、そこいらから、むしっては口に入れているメイディア。
口の周りは泥だらけ、目はうつろである。
町はすぐそこに見えるのに、歩いてみるとこれがなかなか遠いのである。
そんな彼女の目に煙突の頭が飛び込んできた。
木々の間に見える赤い屋根。
メイディア「民家……あは…はは…」
力無く立ち上がって、家を求めて歩きだす。