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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 33-9

 いらない、行かない、大丈夫と心配してくれる教え子たちを残して氷鎖女は急ぎ足で自分の教官室に引きこもった。

 

氷鎖女「……間に合った……」

 

 閉じた扉が開かないよう、留め金を引っかけると背中をあずけて深く息を吐き出す。

 

リク「先生!!」

 

 扉を挟んでノックの音が体を伝わる。

 

氷鎖女「そんなに騒ぐこともない。頭痛がするんだ。静かにしてもらえまいか。本当に具合が悪かったら自分でゆく」

 

 こうまで言われてしまっては引き下がるしかない。リクはノックする手を止めた。

 

クロエ「しょうがないよね」

メイディア「次の時間が始まりますわ」


▽つづきはこちら

 それぞれ散ってゆく足音を聞き、氷鎖女は再び息を吐き出した。

額当てを外して机に放るとしばらくそのまま目を閉じる。

頭が痛い。

右半分の、顔が痛い。

やがて思い出したように、床にズラリと並んだ人形の中から、目隠しをしていないものを一つ選んで腕に抱いた。

 その瞬間を待っていたように、体からあふれ出す黒いもや。

 黒く禍々しいソレはぐんぐんと人形に吸い込まれてゆく。

 これが人前で漏れなかったことに安堵して戸に背を預けたまま、ズルズルとしゃがみこんだ

 

氷鎖女「ニケ殿が(はよ)う戻るとよいが」

 

 薔薇の騎士団・養成所は氷鎖女 鎮にとって最も安全で最も危険な場所だった。

 この養成所にやってきたのは残りいくばくもない命がまだある間に、自分の培った知識を他者に渡してしまおうと思ったのと、もう一つ。

 彼の体に巣くう呪いを封じ込めるのに最も適した場所だと思いついたからであった。

 ここには優秀な魔道士がそろっている。朝から晩までずっと同じ建物にいて、黒い呪いに無言のプレッシャーを与えていた

 この建物自体に魔法が施されて、中にいる者たちも何かしらの力を有している。

 ありがたいことに、そんな状況下で呪いの発動はぐっと抑え込まれているのであった。

 中でも音に聞こえた白魔道士・ニケの存在は氷鎖女 鎮にとって非常に助かる存在だ。

 自分を抜いて、この養成所内では恐らく一番の実力者で強大な魔力の持ち主。

 本人が与り知らぬところで頼りにされていようとは知るまいが、彼がそこにいて白い魔力を発しているだけで呪いは動きを潜めるのであった。

まるで敵の様子を探っているかのようにおとなしく

 彼がいなくとも今までは自分で呪いの進行は抑えてきたのだが、ここにいるのと外にいるのとでは、使い果たす気力が違う。

側にいれば楽なのは間違いなかった。

 確かな力と子供の姿を借りてはいても間違いなく老成したその個体に、利用価値だけでなく、鎮は素直に、密やかに、尊敬の念を抱いている。

 この点においてのみ、反りが合わない同僚の黒魔道士・レヴィアスと同意見だ。

 だからといって、特別にお近づきになろうとはこれっぽっちも思わないが。

それどころか下手に近づくのは自殺行為に等しい。

助かるのと同時に退治される危険も伴っているのだった

だからつかず離れず一定の距離を保つのが理想的なのである。

 氷鎖女 鎮は人間として生を受けたのにもかかわらず、魔物に近い部類の存在だ。

 同じ人間なだけに魔物よりも魔物に感じられ、世の中から忌み嫌われて遠ざけられてきた。

 恐らく、ここでも同じだろう。

 正体がバレたなら、即、ここの海千山千の優秀な教官たちと渡り合うハメ陥り、将来の薔薇の騎士たちからも追われる身になるハズだ。

 狩りをするみたいに。

 今までの短い人生でもそうだったように。

 一人で大勢を相手に。

 ニケ=アルカイックに対し、力を有する者として敬意を払い他にも幾人かの信頼を寄せる人物もここにはいたが、気を完全に許してはいない。

 今この瞬間にでも敵に回ることを覚悟して、この先も付き合っていくつもりだ。

 例え尊敬や信頼に値する人物とわかっていても、それがイコール味方であることとは全く別であることを十分承知していたし、安易に人を信じられる程、鎮の心はもう、純真ではなくなっていた。

 

 

 何時間くらいそうしていただろうか。

学び舎は闇に包まれて明かりも点いていない。

 学徒はもちろん、教官たちも仕事を終えて宿舎に戻ったに違いなかった。

 光と音を失った空間に、呪われた力を吸い込ませた人形たちがじっと座っている。

 今にも内緒の話をヒソヒソと始め出しそうに、あるいは扉の前にうずくまる、哀れな男の様子を伺っているように。

じっと、じっと息をひそめて。

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