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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 33-10

 何の物音もしない完全なる静寂の中に、音のないざわめきが空気を支配している。

 聞こえないはずのそれが耳元でせわしくおしゃべりをはじめて、ひどい眩暈と不快感を与えてくる。
自然と呼吸が乱れて心臓が早鐘を打った。

 早くこの閉ざされた空間から逃げないと、おかしくなってしまう。

 あふれ出た呪いの力を人形に移し変え終わると、左の人差し指を犬歯でかみ切り、衣類を外した人形の体に封呪のための文字を自らの血で書き入れる。

それが済むと手早く人形に着物を着せ、同じく封魔の術を長々と書き込んだ布を目隠しに巻いた。

 これで完了である。


▽つづきはこちら

氷鎖女「コレは家に持ち帰らないと……」 

 

風呂敷に封印に使用した人形を包む。

 残りの人形はまだただの人形で、今日のような事態になったときに必要とされる。

 それまではここに遊びに来る学徒たちのいい玩具に過ぎなかった。

 支度が済んでも、まだ彼は机に両手をついて頭をたれていた。

 頭では早く場所を変えたいと思っているのに、体が動こうとしてくれない。

 己を壊して、また目に映る全ての生き物の息の根を止めようと欲求する黒い力を抑え込むにはとてつもない精神の力が必要で、彼は憔悴しきっていたのだ。

子供の頃から幾度となく繰り返される内なるモノとの戦いと、自分という存在をなかったことにしようとする外界の人々との無言の戦い。

 

氷鎖女「なんだか、疲れたな……」

 

 こうして独り、闇と静寂に包まれていると一体自分は何をしているのだろうという気分にさせられる。

 これから先、そう長く生きられるワケではない。

これでも十分、長く生きた方だ。

 当たり前の青年としての未来への希望も何もなくて、唯々、死ぬための用意をして過ごす毎日。

 どうせ死ぬなら、今でもいいじゃないか。

 何も生にすがることもない。

 生きていて、それが何だというのか。

 知識を渡したいって?

 それは生きてていい言い訳を作ってみただけだ。

 よく考えると生きること自体が何なのかわからなくなる。

 あいまいになる。

 こうして闇に溶けていると。

 自分が今どこにいるのか。

輪郭を失くして本当に闇の一部になってしまった気さえする。

 そんな自分が生きているのか死んでいるのか、はたまたどこにも存在していなかったのか。

 ああ。

 ほとんど衝動的に小太刀を抜いた。

 狂い刃を自らに向けた鎮を現実に引き戻したのは、微かな物音だった。

 

氷鎖女「…………誰かおるのか?」

 

 止まっていた、あるいは取り付かれていた思考が当たり前に動き出す。

 ドアの外に問いかけると、足音が止まった。向こうで予想外の声にすくみあがったであろう気配が感じ取れた。

 見回りの守衛ではなさそうだ。

 

アン「ヒサメ…………先生?」

氷鎖女「そうだ。そういう手前はアンだな」

 

 答えた学徒は自分の受け持ちの少女だった。

懐中時計を確認すれば、もう夜の9時をとっくに回っている。

本来ならば、夕食をとって、順に風呂に浸かるか部屋でくつろいでいるような時間だ。

 こちらの学び舎に自分も含め、人がいてはならないハズだった。

 

アン「…………ごめんなさい、先生、怒らないで」

 

 いつもと違う、硬く尖ったヒサメ先生の声に叱られたと感じたアンが怯えて謝罪し、その反応で鎮は自分がきつさを和らげるためにわざわざ使用している、彼なりの丁寧語を忘れていることに気がついた。

 

氷鎖女「叱られるようなことを?」

 

 小太刀を鞘に納めて、額当てを装着すると、扉の留め金を外す。

 一度、人形の並んだ部屋をぐるりと見回したが、もう、そこに無音のざわめきはなくなっていた。

 

氷鎖女「どうしやった、こんな時刻に」

 

 息を大きく吸い込んで回転ドアから出ると、先日配った杖の水晶に魔力の明かりを灯したアンが駆け寄ってくる。

 

氷鎖女「怒っておらぬから、言うてみ?」

アン「先生…………先生、ごめんなさい。私、なくし物を」

氷鎖女「探し物とな? …………明日でもよかろうに」

アン「ダメなの! ダメなの、アレが人に見られたら…………私…………私…………」

 

 水晶に送った魔力でぼんやりと光る輪の中で、アンは可哀想なくらいに蒼白だった。

 

アン「探して、私のノート…………先生、お願い」

 

 怒らないからの一言で、もう味方についてくれたものと判断したアンはとうとうべそをかきはじめてしまう。

 今まで気を張っていたものが、味方をみつけた安心感から緊張の糸が緩んでしまったのだ。

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