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レイディ・メイディ 33-11
2008.04.24 |Category …レイメイ 33話
氷鎖女「どのような帳面でござるか?」
また七面倒なことを……。
心の中で毒づいたが、仕方がない。
アン「表紙が赤いノートなの。でも見つけても絶対中は見ないで!」
氷鎖女「承知」
アンの移動した場所をもう一度調べ直そうと初めに戻ることにした。
廊下から教室から、隅の隅まで探し回ったが、結局、ノートは見つからずじまい。
氷鎖女「誰かにもう拾われたのでは?」
どう考えてもそれが妥当だ。
だがその結果は一番アンが避けたい事実で悲痛な声を上げる。
アン「だったらどうしよう、私、生きていけない!」
▽つづきはこちら
氷鎖女「…………わかった、わかった。しかしもう本当に遅い。手前は戻るがよろしかろ。続きは…………ハァ、拙者が引き受けよう」
仕方なしに肩を落とす。
アン「! 本当に!?」
食事も水分さえもとっていなかったアンは、すっかり疲れきっていた表情をパッと明るくした。
アン「きっと見つけてね、きっとよ」
氷鎖女「安易に約束はできぬが、最善を尽くすでござるよ」
これ以上、生徒を残しておけないと先に帰すことにした。
一応軽く見回って自分も切り上げてしまおうと思ったが、一緒に探している間に聞いてしまったノートの内容を思えばやはり見つけてやりたい気もした。
こっそり授業中に書こうと持ってきたノートの中身は、自作小説だという。
アンがうっかり口を滑らせて恐縮していた。
他の生徒に迷惑にさえならなければ、授業中に何をしていても自己責任だと思っている氷鎖女は特別叱ろうとはしなかった。
小説を書くなんてすごいじゃないかと水を向けでやれば、本当はきっと誰かに話したくてウズウズしていたのだろう。
アンは我が意を得たりとばかりに、誰にも言えないとしていた小説の話を得々と始めた。
一人で焦燥感に囚われて探していたのと違い、先生という生徒から見れば万能に思える立場の人間を捕まえたことで解決した気分にでもなったのか、アンはしばらくの間、元気にしゃべり続けていた。
リクのこと、メイディアのこと、シラーのこと、レイオットのこと、その他の友達のこと。
話の端々から、彼女がリクをどれくらい好きでたまらないか、メイディアの立場にどれだけ憧れて羨んでいるかが見て取れた。
想い人を語る、明るい茶色の瞳はまだ見ぬ未来への希望に満ちて躍動的で、これこそまさに生きているということなんだなぁと氷鎖女は漠然と隣で感じていた。
氷鎖女「なかなか俺もお人よしだな」
教官室まで急いで戻り、鍵を開くと内側で留め金の外れる音。
相変わらず、目隠しされた人形でいっぱいの部屋に踏み込み、ぐるりと見回した。
この中で、つい数時間前は発作的に命を経とうとしていたのだと思うと不思議な気持ちになる。
先ほどの気持ちはすっかりなりを潜めて、今は死などどこにも感じられない。
感傷的な気分に浸ることもなく、彼は探し物のことだけを考えて椅子に腰をうずめ、行儀悪く机に足を乗せて組んだ。
そうしてから人差し指、中指を立てた状態で両手を上下少しずらして組み合わせ、目を閉じて集中し始めた。
口からは何やら呪文のような異国の言葉……彼にとっては母国の言葉……が、連なってあふれ出す。
すると部屋の人形たちが一度に立ち上がり、目隠しを外すと次々と扉から出て行った。
人形たちは校舎内に散らばって、一人ではとても探しきれないところをすいすいと見てゆく。
同時にいくつもの映像が氷鎖女の脳裏に展開した。
氷鎖女『ない……ない…………ここでもない……』
誰もいないハズの夜の校舎に何体もの人形が勝手に這い回る光景は薄ら寒い恐怖を感じさせる。
人形師の彼は、自ら動くことなく複数の物事をこなせる人形遣いの鎮でもあった。
事前に書き込まれて一つの命令のみを忠実に繰り返すだけのゴーレムとは違い、これらは全て本人そのものとして動き回る。
目には見えない意識の糸で自在に繰る、操り人形なのだ。
集中力が途切れ、一息ついて時計に目をやるとすでに夜中の3時を回っていた。
氷鎖女「これだけ探してないなら、もう無理だな。誰かに拾われているよ、ご愁傷様」
ここにはいないアンにつぶやくと、人形たちを呼び戻す。
氷鎖女「帰っておいで、お前たち」
主のつぶやきに従い、人形たちは部屋へ戻ると、再び目隠しをして元の位置に収まり動かなくなった。
氷鎖女「さ。コイツは忘れぬよう、持ち帰らないとな」
自分から溢れた黒い力を吸い取らせた身代わり人形を腕に抱いて、今度こそ部屋に鍵をかけて校舎を出ることにした。