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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 33-15

シラー「あー、サボりサイコー」

 

 伸びをしてからストンとベンチに腰を落とした。

 

アン「……………………」

 

 アンも同じく隣に腰を落ち着けて、ひざの上に真っ二つにされたノートを乗せる。

 

シラー「メイディとケンカしたんだってぇ?」

 

 話し出すのを待っていたら、いつまでも黙っていられそうなので、いきなり本題を切り出す。

 

アン「ケンカじゃない…………イジメよ」

シラー「ふんふん」

 

 涙は止まったものの、まだしゃくりあげているアンはぽつりぽつりと話始めた。

 途中途中、シラーは大袈裟に驚きと怒りを表現して同調させながら、相槌を打つ。

 

シラー「まったくひどいわよね、あのバカ女」

アン「メイディは私を初めから気に入らなかったのよ。言うことを聞かなかったから」

シラー「エッ!!? ……あ、うん。そうね」

   『ハァ? 何言ってんの、コイツ? 本気ィ?』

 

 お嬢様の言うことを過剰なまでに聞くアンは、自ら召し使いに成り下がる取り巻きの一人だったではないか。

心の中でだけは反発していたものが、頭の中で実際の態度とすげ替えられたに違いない。


▽つづきはこちら

アン「ナマイキだったから目の敵にして……」

シラー「アイツはそういう奴よ」

   『いるのよねぇ、こういうオメデタイ奴。誰も注目なんかしてないのにさ。自意識過剰なんじゃない?』

 

 ナマイキだからと目の敵にされるほど、行動なんか起こしていないクセに。

 内心は軽蔑していたが、シラーは大いに同意して持ち上げてやった。

 

アン「皆に嫌われているの、早く気付けばいいのに!! メイディは自分が可愛いとか皆から人気があるとか勘違いしてるのよ。バカみたい!! だいたい、あの子って……」

シラー「そうよね、そうそう。ええ、私もそう思うわ」

「レイ様もメイディとケンカしたっていうし、皆、アンの味方よ」

 

 人物依存の気持ちが強いアンの好きな「皆」という単語と「レイオットも」という具体的な名前を混ぜてシラーは微笑んで見せた。

 

シラー「それでね、私、思ったんだけど。あの子は今まで甘やかされ過ぎてああなっちゃったのよ。だからね、少しは人の心の痛みとかもわからないとあの子のためにもよくないと思うのよ」

アン「わかるわ。皆チヤホヤし過ぎなのよ」 握りこぶしを固めて熱っぽく語った。

シラー「そうよ。誰かがわからせてあげなくちゃ。…………あの子のために」

アン「それはつまり…………」

シラー「えー、具体的にはわからないけどぉ、人の心の痛みっていうのを少しはわからせてあげないと可哀想よねって。それだけ」

 

 自分というものを強くてないアンの耳にささやかれたそれは、まさしく天啓と思えた。

 これは甘やかされて育った彼女のため。

彼女が後で困らないように教えてあげる。

これで建前と逃げ道は用意された。

 アンは喉を湿らせてひざの上の無残なノートを見つめ続けた。

 

 

 事件の当時者であるメイディアといえば、いつまで経ってもアンが教室に姿を現さないことをちょっぴり気に病んでいた。

 落ち着きなく、足をぶらつかせてペンを指の間でクルクルと回す。

 教師の声などほとんど耳を通過していくだけだ。

 

メイディア『ワタクシが悪いんじゃありませんからね……』

 

 自分は拾ってやったというのにどうして盗っ人扱い受けなければならないのだ。

 侮辱だ。

 だが、ついカッとなって破ってしまったのは、申し訳なかったように思う。

向こうだって自作の恋愛小説が見られたと思って気が動転していたのだろうから。

 

メイディア『ううん。だとしてもワタクシだって怒ってもおかしくないでしょう。あれだけの無礼を働かれれば。やっぱりワタクシは悪くないわ』

 

 悔しいのはよりにもよって、またしてもフェイト=ウィスタリアの前で恥をかかされたという点である。

 彼の前では完璧なメイディア=エマリィ=シャトーでいなければならないというのに、最近のこの恥さらしな事件の数々はどうしたことか。

 先の試験では、逆さ吊りになってパンツ大公開。

しかも助けてくれたのは、運の悪いことにレクではなくあの男(フェイト)だった。

 

メイディア『あれがレクだったら良かったのに!!』

 

 同じことでも仲良しで大好きな友人の一人である彼ならば、こんなには恥ずかしい思いをしなくて済んだものを。

 養成所内では男子学徒に囲まれているところをやはりあの男……フェイトが頼んでもいないのにしゃしゃり出て自分を連れ出した。

つい昨日はケンカのきっかけとなった赤いノートを取り返してくれたのも彼。

少し古い話では、やり直しする試験より前の試験の後で、足をケガしたメイディアが足払いを受けて転んだときも手を差し伸べたのも彼だった。

あのときは結局、リクに背負われてフェイトの手をとることはなかったが。

 これらが別の人間だったなら、どんなにか良かったか。

 この世で一番、悔しくて悲しくて惨めに感じた瞬間は、入所して間もない春のことだ。

 そう、あのフェイト=ウィスタリアに全否定を受けた瞬間。

 あの時から彼女は心に決めていた。彼の前でだけは失態を見せないと。

(あくまで彼女なりにの話だが)

 

メイディア『な・の・にぃ~!!!』

     『わざわざワタクシをあざ笑うために来ているとしか思えない!! どうしてワタクシがたまたまカッチョ悪いときに限って姿を現すのでしょう!!』

 

 ギリギリと歯を食いしばる。

 怒りはいつしかアンではなく、間に入ったフェイトに全て変換されてしまっていた。

 

メイディア『あああっ、それはいいのです。それは。問題は、アンがワタクシを……いや、レイオットが……』

 

 そうだった。

レイオットとも仲たがいをしていたのを思い出した。

 

メイディア『そもそもシラーが……』

 

 イライラのスパイラルに陥って、神経質にペンを回し続けた。

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