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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 29-4

 そんな彼をナツメの方では、怪我の小石を取り除くくらいでそこまでビビらなくてもいいのにと半ば呆れていた。

 敵が出てきてもピンチに陥っても動じないクレスがこんな傷でどうしてここまで恐れるのか。

 問題は傷よりも、自分の作った殺人人形が彼を殺しかけた事実とトラウマ、そして何より無表情で幽霊じみた本人の態度が恐ろしげでいけないのだが、氷鎖女がそんな理由を知る由もない。

 自分が殺人人形に似て、幽霊みたいだと思われているなんて思いもよらないのだから。

 ちょっと、傷に詰まった小石や土をかき出そうとしただけ……のつもりだった

 だが結局、頭を抱えて今にも気を失いそうな情けない姿のクレスに同情し、仕方なく針を使うのをあきらめた。

 さりとて、あれだけ傷に小石や土が詰まっていたら、放っておくワケにもいかない。

放っておいて破傷風になられても困る。


▽つづきはこちら

氷鎖女「…………じゃあ、自分でちゃんと取って。手の…………」

 

 傷を指し示す。

 

クレス「いいよ、こんなの!」 

氷鎖女「素直じゃない」

クレス「むっ。…………いいでしょ、別に」

 

 多少の傷など放っておけばいいと氷鎖女も思ってしまうたちなのだが、それは自分の話。

 自分以外の者、しかも下位の者が傷を負っているとやはり気になる。

 擦り傷だけならいいが、細い木の枝も突き刺さってしまい、大怪我という程ではなくても決して放っておいていいレベルでもなかった。

 それなのにクレスときたら、自分で手当てするつもりすらないようで、服にこすり付けておいしまいにしようとする。

さすがは男の子と言いたいところだが、今回ばかりはダメだ。

 仕方なく強引に手をつかんで傷口に口をつける。

 

クレス「うわっ………………って…………ななっ…………なななななっ、何やってんのっ!?」

 

 恐怖から一転、クレスは目を真ん丸にひん剥いて驚きの声を上げた。

 体温が一気に上昇して、瞬く間に真っ赤に染まる。

 大声を上げてしまったため、下からクロエがどうしたのかと訊ねてきて、思わず嘘をついてしまう

 

クレス「へ、平気……平気っ! ちょっとっ、つまずいてっ! 転びそうになっただけ!」

   『見、見えてないよな…………見えてたところで別に……隠すことでもないんだけどっ……!』

 

 誰に言うでもなく心の中に沢山の言い訳をかき集める。

 

クレス「も、いいったら!」

氷鎖女「……うるさい」

 

 軽く流して取り合わない。

 

クレス「……う……」

 

 突き放して、うるさいとだけで軽く流されたのは始めてだ。

 自分が突っぱねれば相手は大抵まともに受けて怯むというのに、こうキレイに返されるともう黙るより他ない。

 

クレス「……………………」

 

 ナツメは血と一緒に詰まった汚れを取り除いては地面に吐き捨てることを何度か繰り返す

 その様子はとても手馴れたもので、前回、クレスがクロエに薬を口移しと聞いて勘違いしたときに感じていたような気恥ずかしさや躊躇など、彼女からは全く感じられない。

 真剣に傷の手当だけを考えてくれているのだろう。

 

クレス「あ~…………あのさ、えと、その…………泥とか…………ナツメが食べちゃう……から……。だから…………」

氷鎖女「…………だから、針で?」

 

 顔も上げずに答える。

 

クレス「あ、いや……やっぱり…………針は嫌かな」

   『あの針はそういう意味だったのか……。言葉で言ってくれれば、僕だってそんなに逃げなかったのに………………って、やっぱ嫌だな。怖いや、針は』

 

 急に恥ずかしくなって、申し訳なさそうに空いた手で頭を掻いた。

 いくつかのクラス合同で行う実戦訓練の授業などでケガをすることもあったが、黒薔薇クラスで彼の心配をしてくれる者などほとんどいない。

試験で人を殺しかけたのだから、当然のことだ。

 その嫌われ者の手に口付けて、汚いものを吸い出すなんてそうそうできることではない。

 

クレス「……………………」 黙って作業を見つめている。

 

 異物を吸いだしたナツメは傷口をもう一度水で洗い流して、懐から塗り薬を取り出した。

 

クレス「……それは…………

 

 つんと鼻孔をくすぐる独特の香りにクレスは覚えがあった。

 “ばぁば”の薬だ!

 彼女が一昨年亡くなった後、もう二度と嗅ぐことはないと思っていたあの懐かしい香り。

 これも人形に襲われたあのときに担任の、ぼんやりとさえない教官が持っていたものだった。

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