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レイディ・メイディ 29-3
2008.03.26 |Category …レイメイ 29話
少し遅れて、ダレスの声。
ダレス「行くなら早く行こうぜー」
すでにもっと先に下ってしまっているようでやや声が遠い。
動いてしまえばついてくるしかないと踏んだのだろう。
優勝と騒ぎ立てるメイディアやクレスに影響されたのか、今までにない快調な進みで欲が出たのか、ダレスも妙にハリキッてしまっている。
こういう時が一番注意すべきときだというのに。
フェイト「……ちっ。そこで待ってろ、一人で行くな」
▽つづきはこちら
足元は細かい霧のせいで少しぬかるんでいる。
そうでなくとも下りの方が怖い。
転ばないよう、気を引き締めて足を踏み出した。
途端、
メイディア「きゃっ!?」
後ろでメイディアが足を滑らせてフェイトの背中に激突。
メイディア「っぷ!」
フェイト「うっわ!」
クレス「メイディア!」
とっさにメイディアのスカートをつかんだクレスも転倒。
勢いづいて手はスカートから離れてしまう。
クレス「わっわっ、落ちるっ」
クロエ「クレス!」
氷鎖女「……………………」
悲鳴で妄想から引き戻されたクロエとナツメが同時にクレスを捕まえた。
フェイトとメイディアは間に合わず、互いにからまって滑って行ってしまう。
遠ざかる悲鳴。
クロエ「大変! 急いで二人も捕まえなきゃ」
滑る足元に注意しながら、木の幹や枝を頼りつつ少しずつ降りて行くクロエ。
クレス「いてて……」
氷鎖女「平気……。下まで転がってくわけじゃない……。もう……止まってる」
同じように降りて行こうとするクレスをナツメが止めた。
クレス「そりゃそうだろうけど……」
氷鎖女「…………貸して」
小さな蚊の鳴くような声で告げるとクレスの泥だらけの手を取る。
クレス「っつ!」
気づけば手のひらから手首にかけて、こびりついた土に血が混ざっている。
それから長い上着の裾を持ち上げれば、ズボンが裂けてひざも擦りむいていた。
ナツメは泥を布で払い落とし、傷口を水でやや乱暴に洗う。
痛いと騒ぐクレスの抗議は丸っきり、無視。
クレス「イタタタタ、痛い、痛い! 女だろ、もっと優しくできないのっ!?」
氷鎖女『膝は問題なし。手は……』
小石や細かい土が傷口に入り込んでしまっている。
氷鎖女『んー……』
おもむろに荷物から針を取り出す。
クレス「へ……? あ、まっ……ちょっ……! ちょっとっ!! ちょおぉ~っと待った!!」
キラーン☆ 針が妖しく光っているように、クレスには思えた。
氷鎖女「ダメ。多少ならいいけど、それは、ダメ」
話すのが得意でないようなぎこちない喋り方で、無表情なナツメがじりりと間合いを詰めれば、クレスは恐ろしくなって後ずさった。
クレスの脳裏に思い出したくもない恐ろしい体験がフラッシュバックする。
ああ、思い出した。
どこかで会ったことがあると思ったんだ。リクもきっとアレを思い出していたに違いない。
絹のような黒髪に青白い肌が引き立つ美しさが空寒い……………………殺人人形。
変わり者と評判の担任教師の部屋は、危険なカラクリ部屋だった。
……リクはそれをおもちゃ箱と称していたが、そんなに可愛いものではない。
小刀を携えて襲ってくる人形は、このナツメとよく似ていたように思う。
顔の中身というよりも醸し出す雰囲気というのか。
クレス「のわあっ! 待った! 待ってってば!! 針なんかで僕をどうするつもりなんだっ!?」
霧で見えない少し下では、きっと、優しいクロエが優しくメイディアとフェイトの手当をしてくれているに違いない。
……針なんかひらめかせずに。
ナツメ「逃げないで……、おとなしくして……。何故……逃げる?」 ゆら~……
クレス「ひぃっ! 嫌だよ!!」
怖い。怖すぎる。なんでそんなに幽霊みたいなんだ!? クレスは恐怖に混乱した頭で思った。
後ろ向きに歩いたら、また転んでしまう。
マズイ、殺される!? 堅く目を閉じるクレス。