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レイディ・メイディ 16-7
2007.12.07 |Category …レイメイ 14-17話
シャトー夫人に見せたペンダントの文字は自分で刻んだものだ。
候補生2年目で文字を読み書きできないワケがない。
シャトー夫人は養成所にも薔薇の騎士にも興味がなく、そんな細かいことにまで疑問は持たなかったのだ。
養成所に通っているという彼女を頼みにして、メイディアを連れ戻すことだけに心を砕いていたのである。
ひょっとしたら本当にシラーが自分の子でメイディアは違うかもしれない。
シラーのでっちあげたウソかもしれない。
マルガレーテがこの世にいない今、真相を知る術はもはやない。
となれば、シラーを無下にするワケにはいかなかった。
何しろ、本当の我が子かもしれないのだ。
だからといって15年間娘として認識していたメイディアをいきなり放り出すこともできない。
夫人の出した答えはこうだ。
▽つづきはこちら
メイディアは公爵家に嫁ぐ。
一人娘で跡継ぎがいなくなるシャトー家には親戚の男子を養子としてもらい受けるつもりだったが、このシラーを跡継ぎに置けばよいのだ。
そして婿をとらせる。
これでシャトー家の未来は安泰という図式だ。
もしかしたら、この話はまったくのでっちあげでこの娘はやはりマルガレーテの子かもしれなかったが、もし仮にそうだとしても夫の血を受け継いでいるのは疑いようもない事実。
シャトー本家の血筋には違いないのだ。
突然現れたその娘をどう扱うか。
娘はメイディア一人と世間に知れている。
突然、同い年の娘が2人いたのだというには苦し過ぎた。
となれば、あくまで親戚の娘として通せばよいのだ。
こうしてメイディアの知らない所で、シラーブーケとつなががる一つの構図が出来上がっていった。
一方、元のルームメイトとほとんどと別れたメイディアとアン。
相変わらず部屋でワガママを通すメイディアに対し、今度のルームメイトは何も言えずにいた。
悪いものは悪いとキッパリ言える怖いもの知らずのクロエやレイオットのような奇特な人間がいないのだ。ここには。
メイディアは完全にお姫様でルームメイトはかしづく召し使い状態。
とがめる者はなく、言いたい放題、やりたい放題だった。
何もかも通ればご機嫌かと思いきや、お姫様は気まぐれ。
言う通りにしたのに関わらず、すぐに怒ったりスネたりしてしまうのだった。
始末の悪い幼児を相手にしているようで、アンたちはご機嫌取りにホトホト疲れ果ててしまっている。
この態度は養成所にくる前の、あるいは来たばかりの頃と同じだ。
1年が経ち、少しは温和になったかと思えば、実はそうでもなかったり。
明らかに人を選んでいる。
傍からは分かりずらいので理解者はおらず、本人ですら無意識なので始末に終えないが、メイディアは自分を叱ってくれる人を好く傾向にあった。
おべっかには慣れている。
だが、叱られることには慣れていない。
一見、激しくはねつけているだけにしか見えない彼女だが、筋の通った注意をされればそれなりにこたえているのだ。
気安い者にも好感を持っている。無論、それが造られたモノでなければの話だが。
シャトーの名をひけらかしておきながら、自分は下々の者たちとは違うのだと豪語しながら、ワガママな彼女は同等に扱ってくれる人々を好んだ。
新しい部屋には彼女の言う“お友達”とやらはいない。
自分を恐れて一定の距離を保ちつつ、顔色をうかがっては群がるいわば蝿だ。
一番上のベッドを占領して、メイディアはまぶたを閉じた。
メイディア『蝿だ。蝿だ。蝿だ。蝿だ。蝿、蝿、蝿、蝿、蝿蝿蝿蝿蝿蝿!! ウジ虫。ウジ虫め。火であぶって暴れ回ったら面白いのに』
薄汚れて所々擦り切れたウサギのぬいぐるみを抱いて眠る。
暗闇に独り取り残された夢を見ながら。