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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 70-8

 深刻な表情で呆然とする自分を放置して、立ち去ろうとする鎮の髪をリクがつかむ。
 
鎮「ふぎっ!? な、何をしよる!?」
 
 頭を抑えて振り返る。
 
リク「まさか、ミカドって……女王?」
鎮「いかにも」
リク「アナタは……」
 
 鎮の的外れな遅刻の言い訳に毒気を抜かれていたリクの怒りがまたふつふつと熱を帯び始める。
 この人まで、“与えられた”人物だとしたら、自分は一体、何を信じればいい?
 自分の意思はどこにもなかったとでもいうのだろうか?
 今までの全てがあらかじめ決まっていた物語なのだとしたら……
 
鎮「?」
リク「アナタまで……女王の手先なのか」

▽つづきはこちら

鎮「うん、ちょっと入用で」
 
 青ざめた唇を震わせ、ようやく言葉をつむぎだすリクに対し、鎮は実にあっさりとしたものだった。
 悪びれのカケラもない。
 
リク「俺を……だましてた?」
鎮「だましておらぬよ?」
リク「いつから知ってた!? 俺が……俺とクロエが……封印に必要だってことを」
 
 思わず胸倉をつかんで揺さぶる。
 どこへもぶつけられなかった想いが相手を見つけたことによって、全ての矛先が向いてしまう。
 自分のために家族が惨たらしく殺されたこと、恩師サレアのこと。
 悪いのは今目の前にいる鎮ではない。
 恨むのは筋違いとわかっていながら、激情を止めることができない。
 この怒りは裏切りに対する憎しみだ。
 想いを寄せれば寄せるほどそれは強く。
 これ以上はない恩と愛情を感じていた神父に対するやり場のない怒りを目の前にいる鎮に重ねてぶつけてしまっている。
 彼にもまた裏切られたと感じて。
 
鎮「あやあや。こっ、これ、ゆさゆさしてはいかぬ」
リク「答えろっ」
鎮「何を怒っておるのだ、あるばいとは今年に入ってからでござるよぅ」
 『またイモが落ちちゃうぅ』
リク「!?」
 
 予想していたのと違った答えが返ってきて、拍子抜けに手を止める。
 計画も何も、ついつい最近のことではないか。
 胸倉を締め上げられて、苦しげに息をついて、
 
鎮「封印などの詳細はよう知らぬ。拙者は所詮、雇われ者の用心棒に過ぎぬゆえ、申し付かったことしかやらぬし、それ以上は首を突っ込むつもりもござらぬ。下手を打てばニケ殿に亡き者にされかねぬからな」
 
 周囲に聞こえないよう、顔を寄せて小声になる。
 
鎮「ニケ殿は悪代官でござる。用が済めばお役御免などとなりかねぬゆえ、拙者は立ち入ったことは聞かぬでござるよ。御代がもらえればそれでよし」
 
 冗談を言ってくつくつと笑う。
 
リク「……鎮は」
鎮「ぬ?」
リク「鎮はどうしてその依頼を受けた?」
鎮「……変な生き物を飼ってしまってな。急に小遣いが必要になったのでござる」
リク「それだけ?」
鎮「それだけ」
リク「封印がどうこうとか……」
鎮「端々は聞いておるよ? 誰からどうして守らねばならぬことを知らないでは、手の打ちようがござらんからな」
リク「養成所に来る前から俺を知っていたと言うことは……?」
鎮「お前様のような者がいると知っておれば、担当にしないで下さいと願い出ておったわ。だって、お前様はシズにイジワルだから」
リク「…………」
 
 リクの手が外されると自由になった鎮はいそいそと再び散らばってしまったイモを拾い始める。
 まさにマイペース。
 どこ吹く風。
 リクの悩みなんかまるで無視。
 全て拾い集めると八つ当たりをされたと言うのに突っ込んだ質問を返してくる風もなく、そのまま階段を登り始める。
 ……縛りが甘かった風呂敷から、やっぱりイモをぽてぽて落っことしながら。
 
リク「ちょっ……待ってよ! 落ちてる、落ちてるよ! イモッ!! イモーッ!!」
 
 呆然としていたリクがハッとなってイモをかき集め、後を追う。
 追いついて隣を歩くと……
 
鎮「ひょっ!?」
リク「ナニ?」
 
 軽くなった風呂敷とリクの腕の中のイモを見比べる。
 
鎮「…………」
リク「……や? 違うよ?」
 
 黙って足を止めた相手が何を言わんとしているかわかって先回り。
 
鎮「…………」
リク「ち、違うって」
  『うわ、疑ってる、疑ってる! 超疑ってる!!』
鎮「取った!! 李紅が拙者のイモ取った!!」
リク「シズが落としたの、拾ってあげたんじゃん」
  『うわ、やっぱりぃ~!』
鎮「取った、取った!! イモ取った!!」
 
 その場で地団駄、踏み踏み。
 
リク「違うって。まぁ、さっきは確かに食べたけど……ていうかさ、ホラ。堂々の遅刻なんだから、もっとアセッた方がいいよ」
 
 遅刻と聞いて、ピタリと動きが止まる。
 
鎮「あうぅ~。何だかぽんぽん痛くなってきた気がする……。ニケ殿にはリクが会ってシズはぽんが痛くなったから、来られませんと言っておいてくれまいか。できるだけ大変っぽく!」
リク「そんなの嫌だよ」
鎮「じゃあ一緒に来て謝ってぇ~。うあーんっ」
リク「そんなこと言われても……」
 
啖呵切って出てきたばかりのリクだ。カッコ悪くて戻れるはずもない。
叱られるのが怖いとリクの足元にうずくまってめそめそ泣き出す新しく出会った師を見ていて、リクは急におかしくなって笑った。
子供っぽい相手の行動がおかしかったのではない。
これはいつものことだ。もういい加減、慣れている。
それより、こんな彼を疑った自分が可笑しかったのだ。
遅刻しそうになってイモを焼き始め、それでゴマすり可能だと思っている人だ。
上手にリクやクロエをだまし続けられるはずがない。
 
リク「あっはははは」
鎮「ぬぅっ!? 笑い事ではないわ!! 拙者がニケ殿に怒られてしまうやもしれぬのだぞっ!? ムッキィ!」
リク「はははははっ!」
鎮「もう手前には頼まぬ!!」
 
 一方的にぷりぷり怒って、拾ってもらったイモを引っ手繰る。
 
鎮「いた仕方なし! 覚悟を決めていざゆかんっ!!」
 
 景気づけのつもりか無意識か、イモをひとかじり。
 そのイモは献上するものだと自分で言ったばかりなのに。
 
リク「頑張ってー。俺はここで待ってるよ。話が終わったら一緒に帰ろう」
鎮「ふんっ! ふーんっだ!!」
 
 すっかりへそを曲げて、鎮は立ち去った。
 イモをかじりながら。
 
リク「……馬鹿だな。俺」
 
 立ち去った階段を見つめながら、こつんと自分の頭を軽く叩く。
 サレアと鎮は違うのだ。
 重ね合わせて二つ分の怒りをぶつけてはいけない。
 サレアだって悪いわけじゃない。
 ニケがフォローしてくれたように、彼だってちゃんとリクに愛情で接していてくれたのだ。
 それはわかっている。
 自分の理不尽な怒りの理由は、甘えだ。
 理想と違ったから、怒りに転換してしまっただけだ。
 誰かに命じられてではなく、誰かに誘導されたわけでなく、偶然の引き合わせによって恩師に会い、同情と愛情をわけもなく与えられたかったのだ。
 整えられた環境でなるべくしてなったと思いたくなかっただけだ。
 理屈がわからないほど馬鹿ではない。
 だけど頭でわかっていてもすぐには消化できないのが人間の感情だ。
 
リク『でもいい……』
 
 せめて、もう一人、後から出会った新しい師との出会いは正真正銘の偶然だったから。
 サレアと違い、どれだけこちらのことを思ってくれるかわからない。
 ほんっとうにわからない。
 むしろ、何を考えているのかさえ、探り出すのは容易ではない。
 普通とちょっと違うから。
 けれどこれだけは言える。
 
リク『彼は……』
 
……何も考えていないであろう、と!
氷鎖女 鎮にとって、リクが紅い目であろうと天才であろうと類まれなる美貌の持ち主であろうとどうでもいいことなのだ。きっと。
ローゼリッタの運命とかシレネの伝説とかそんなモノは彼の中で取るに足りないもので、それより目下重要なのは、これからニケに叱られてしまうかどうかである。
媚びる気満々のあのイモだけを頼りに挑む勇気で精一杯なのだ、あの人は。
リクとクロエを守るための役は、単にお金目当てである。
しかもペットにエサを与えるためのお小遣い稼ぎときたものだ。
普通ならば落胆するところだろうが、リクには逆に嬉しく思えた。
この忌むべき紅い目のための守り人でなく、単なる金欲しさだということに。
 
リク「あーあー。もう。怒る気も失せるよ、アレじゃ。脱力系っていうのかな、あれ」
 
 リクは首をすくめて呟くのだった。

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●Thanks Comments

リクと鎮...

やっぱりなんか一緒にいるのが【大切】って気がするね(*^-^*)


うん、ヒサメ先生は相変わらずだけど。(笑)


ペットはメイディアだね(^_-)-☆


んでもこんな性格でもきちんと考えている?.....................いや、やっぱり考えてない人だな♪(大笑)


んでもやっぱり不思議な先生だね、ヒサメ先生は♪(*^-^*)


リク、心が少し救われてよかったね☆

From 【あっぴ】2009.07.25 23:19編集

Re:リクと鎮...

>いやいや、こんなヤツに安心しているリクは可哀想なヤツですよ?(笑)
>もっと他にいるでしょーっていう……ね?
>もっと気づいて、周りを見てー!! もっと優しくていい人はいっぱいいるからー!! とリクに言ってあげたい(笑)

From 【ゼロ】 2009.07.26 01:47

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