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レイディ・メイディ 70-7
2009.07.22 |Category …レイディ・メイディ 70話
クロエはまだ吹っ切れたわけではなかった。
まだ何も整理されず、自分自身の気持ちもわからないままに足を一歩踏み出す決断を下した。
この先、いつ躓くかもしれない。
挫けるかもしれない。
けれどまずは進んでみないことには何も始まらないことを彼女は知っていたのである。
彼女にそうさせたのは、背後で支えとなっている兄や父への信頼と期待に沿いたい強い気持ちがあるから。
だが、もう一人の少年には残念なことにそれが存在しなかったのである。
彼の心は闇深く。病み深く。
常に穏やかに見えるリクの心はさざめいていた。
表情は優しげに保たれており、奥底に秘めた嵐を覗くことは叶わない。
だが今、確実に。
すれ違う人間を振り向かせずにはいられない美貌の青年の心は、真実によって砕かれようとしていた。
家族を殺した仇は既に亡き者に。
復讐する矛先を失って生きる気力が減退していたところに追い討ちをかけるようなこの事実。
殺したのは自分だ。
自分のせいで、家族は死んだ。
この忌まわしい紅い瞳のために。
家族の死も恩師に出会えたことも自分が薔薇の騎士団を目指すことも全て、計画通り。
当人の意思などなかったようなものだ。
▽つづきはこちら
自分で決断したことだと思いながら、ただ躍らせられていただけとは何とも不愉快な話だ。
彼の天才としてのプライドは決して低いものではない。
普段は物腰柔らかで非凡であることを鼻にかけたりもしないが、能力の高さから自然に身についた自信は、見えない権力に唯々諾々と従っていた事実を激しく嫌悪していた。
それより何より許せないのは、自分の無力さと無知さ、そしてこの忌まわしい両眼。
今すぐにでも潰してしまいたい衝動に駆られる。
嘘で塗り固められた人生を歩んできたもう一人の被害者・クロエを気遣って挙げられる余裕を無くして彼は怒りを踏み出す足に込めて階段を下りた。
彼はクロエのようにもう一度、女王やニケたちと話し合おうという気はさらさら持ち合わせていなかった。
もう城を出るつもりでいる。
クロエが狙われていると言うのであれば、守ってあげることはやぶさかではない。
ただし、彼女が姫だからではなく、大切な友人で女の子だからである。
無論、自分がジュールとオーロールの持ち主だからでもない。
従って、この城にかくまわれている理由もない。
自分を狙う輩がいるというのなら、返り討ちにしてくれる。
もう数年前の力のない少年ではない。
敵がいれば排除できるだけの力を持った青年なのだ。
従ってたまるかと強い思いが胸を圧迫していた。
彼にしては乱暴な足取りで宮廷を出たところで人にぶつかり弾いてしまった。
リク「あっ。すみません」
怒りと考え事に没頭していたために気づくのが遅れてしまった。
長身のリクに対して小柄な相手が簡単によろけてしまうからとっさに服をつかんで助け起こす。
リク「あれ? ……シズカ?!」
鎮「これっ、襟首をつかむのではない!!」
リク「あっ、ごめっ」
毒気を抜かれて、猫掴みしてしまった手を離す。
鎮「ふぎっ!??」
離したのが今度は急すぎたのか、結局、ぶつかった相手……鎮はしりもちをついてしまった。
リク「……うわ、ドンクサ……」
鎮「うるさいわっ!」
捉えようとすれば、ネズミのようにすばしっこい彼なのに普段はのんびり、信じられないくらいにどんくさい。
それが鎮たるゆえん?!
こんな日常の態度からしても、趣味の芸術からしても、平和に生きていたなら争いには縁遠い生活を送っていたに違いない人だ。
先程までの怒りが少し、溶解していくの感じた。
望みもしない城に呼び出されて、その先で会ったこの顔にこれほど安心できるとは。
リクは笑いをかみ殺して、咳払いでごまかした。
ここで笑ったら、この大人気ない年上の人はたちまちへそを曲げてしまうだろうから。
扱いにはコツがいるのだ。
鎮「あーもー。拙者は急いでいるのでござるよ。こんなところでリクと遊んでいる暇はないのでごさ……? んん? 何故ここにおる?」
手にしていた風呂敷から転がり出てしまった荷物をかき集めていた鎮が手を止める。
だがその質問はそっくりそのまま返したいリクだ。
リク「鎮こそ」
鎮「ん? 拙者はな、あるばいとよ」
リク「アルバイト?」
鎮「帝に呼ばれてな」
リク「ミ、ミカド?」
『ミカドって誰!?』
鎮は自国の言葉とローゼリッタ語をちゃんぽんして使うので、さすがのリクもしょっちゅう面食らう。
基本的に鎮は国語が苦手に違いないと常々思うリクであった。
鎮「でもウッカリ忘れて遅刻しそうになってもーたから、焼き芋を焼いて、ご機嫌を取ろう大作戦☆ ……なのだ」
リク「い……いや……焼きイモを焼いてるヒマがあったら、一刻も早く駆けつけた方が良かったんじゃないかなと……」
鎮「しかしどう頑張っても間に合わなぬ時刻であったのだ」
リク「でもそれなら遅刻5分で済んだかもしれないけど、焼きイモ焼くと1時間とか軽く……ねぇ?」
鎮「でも許してもらえるかも」
おどおどと気弱に辺りを見回す。
リク「…………わーあ……」
『ど、どうしよう。どこをどうやって辿ったら、時間に遅れそうになって焼きイモを焼き始めてしまうのか、そこにたどり着くプロセスが一切わからないっ!!』
がびーん……。
目眩がした。
いつものことだけれど。
リク「もう、さ。急いでも間に合わないし、城の人に焼きイモ持って行ってもたぶん喜んでもらえないしさ。養成所に帰ろうよ。俺も今から帰るところなんだ」
焼きイモを拾って断りもなくかじる。
鎮「ぬおうっ!? これ、何をするっ!? これは帝に献上するイモでござるぞ!?」
リク「だからー、お城の人はこんな庶民的なものは口にしないって。どこにイモ持って城に来る人がいるんだよ、もう」
鎮「うぐ……」
リク「可哀想だから俺が食べてあげるよ。俺もさ、城で暮らせてご馳走食べられるところだったんだけど、残念ながら蹴っちゃったからね。焼きイモくらい食べとかないと」
もぐもぐ。
鎮「んなーっ!?? 食べておかないとではないっ! それはそちらの都合で拙者の焼きイモとは何の関わりもなく、っていうか、食べるでない!!」
リク「お茶欲しいね、お茶」
他人のものを無断で食べておいて、図々しいにも程がある。
鎮に引っ手繰られそうになり、リクは相手の顔面をつかんで遠ざける。
手の長さが違うので、こうなってはもう鎮はお手上げ。
あんまりな展開だ。
鎮「うわあぁんっ! おのれ、食欲大魔神めっ!!」
リク「イモうまー。イモー♪」
必死な相手を構ってわざと美味そうにかぶりつく。
鎮「サイアク、サイアク!! キシャー! キシャーッ!!」
しきりに手を伸ばすけれど、届きゃしない。
ここが格式高いローゼリッタ城内であることを忘れ、正面入り口階段の途中で焼きイモ争奪戦を繰り広げる異国の服を着た異様な二人。
通りかかる兵士や貴族が奇異の目で見ているのもお構いナシだ。
最も、他人に気にされるのを酷く恐れる鎮はこの状況に気づいたらまた固まってしまうに違いないのだが、幸い、彼には空気を読むという機能が備わっていない。
備わっていれば、遅刻の言い訳にイモを焼いて持参してきたりはしないであろうが。
新たなイモを頬ばりながら、
リク「で? 鎮のアルバイトって何なの? 教官が副業してていいわけ?」
鎮「内緒だが、クロエとお前様のお守りでござるよ」
リク「……エ?」
鎮「あっ。ゆっちゃった! でも内緒でござる」
あわてて自分の口に両手を当て、頭を左右に振る。
リク「何だって?」
鎮「聞こえなかったのなら、よろし」 ホッ。
リク「聞こえたよ」
鎮「ぬっ!?」 びくっ!?
リク「そうじゃなくて……どうして鎮が……まさか……」
まさかこの人まで、用意されたものなのか?
自分を拾った神父が仕掛けられた人間だったように、養成所でヒサメクラスになったのも偶然ではなかったとしたら?
鎮「取ったァ!!!!」
考えたくもない考えにたどり着いたとき、手からイモが奪取されていた。
それはもう、得意げに。
リク『この人が……? この人も作り物? 俺が慕う気持ちも全部……』
鎮「ではな。拙者はこのイモでニケ殿のご機嫌をとらねばならぬのだ。大人の事情を察して、子供は養成所に帰るが良い」
かじりかけを献上するつもり満々だ。
リク「ニケ殿……」
鎮「~♪」
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●Thanks Comments
笑えるっ☆
ヒサメ先生がぁ~vV
遅刻なのに焼き芋焼いて献上...;
リクのかじりかけの焼き芋を取り上げてそれをニケに?♪(*^-^*)
あはは☆
クロエもリクも、とうとう真実を知っちゃったしね...(T_T)
うぁぃ♪
うぁぃ♪
続きだ、続きだ(≧ω≦)
どんなに待っていたことか♪(*^-^*)
Re:笑えるっ☆
>はーい、お待たせしました、続きです(^_^;)
>楽しみにしてもらえると張り合いがあります。えへ。
>期待を裏切らないように頑張りたいと思いマッスル☆
>楽しみにしてもらえると張り合いがあります。えへ。
>期待を裏切らないように頑張りたいと思いマッスル☆
和むな~
ヒサメ先生可愛すぎる(笑) 和むなーも~(*^_^*)
それマジでニケにやんの!?(笑)
Re:和むな~
>マジでニケ行きですよ、あのイモ。
>そして当然、怒られる(爆)
>そして当然、怒られる(爆)
久々だ~!
おかえりなさいませ、ご主人様、ゼロ様!
祝☆レイメイ復活!!
…メイメイはまだかにゃ~?
Re:久々だ~!
>ただいまなのでつ!(`・ω・´)シャキーン+
>名前ばっかりヒロイン、すんません、70話では出てきません(爆)
>71話では復活予定。……予定;
>名前ばっかりヒロイン、すんません、70話では出てきません(爆)
>71話では復活予定。……予定;
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